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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編①
197/253

54 初めての同伴で③ ※視点変更有





※視点変更つづき




「聖女様、こちらを握ってもらえますか?」


って渡されたのは握力測定に使うあれ。

え?なんで?

…まぁ渡されたら握るけど。

これでも握力は30くらいはあるんだからね。


「”0(ゼロ)”ですか…」


え?うそ、あたし握力皆無?

異世界来ちゃったから、本当にか弱いキャラになっちゃった?


「まさか浄化の力は魔力ではないという事か?」


とかいって悩みだす教祖っぽい様。

なんだ、握力測定器じゃなかったのか。

思わず腕プルプルするまで握っちゃったから恥ずかしくなってくる。

あー、顔熱い!


って魔力がゼロでどうやって聖女活動するのよ!?

前作のゲームの話だけど、聖女が魔力ゼロ表示とかなかったよ!?

いや、そもそも魔力測定とかそういうシーンすらもなかったけど。

それでもゲームでは聖女のパラメータにも他攻略キャラと同じくMPと表示があったから、同じ魔力なんだと思っていた。


だから


「……とりあえず、祈ってみていただけませんか?」


といわれた言葉に


「浄化が本当にできてるのか、あたしわからないので何か準備してください」


と伝えると、ゲームと同じようにちょっと黒っぽくなっている植物を持ってくる。

正直浄化のやり方とか全然知らなかったし、このイケメンたちも教えてくれなかったから、頑張って前作ゲームを思い出してみた。


(えっと、確か手を合わせて組んでたな……)



「…浄化…」


ぼそりと呟いてみる。


ボタン操作とか現実世界だとコントローラーがないから、ゲームの技というかスキルというか、コマンドで選ぶ選択しと同じく唱えると、自分の周りがなんだかキラキラした光で包まれた。

周りの人たちも、おお~とかいって盛り上がってる。

わぁ、出来たぁ。よかったぁ。と胸を撫でおろした。


だけど、


「…はぁ、…はぁ…」


あたしは浅く、呼吸を乱していた。

心臓が早く脈打っている感じがする。

まるで百、…いや二百メートルを全力で走ったかのような疲れ。


あれ?とあたしは思った。

だってあたし、体力はこれでもあるほうなのに。

あ、でもマラソンとか学年でトップっていうわけでもなくて、クラスで真ん中よりちょっと上の方ね。

長距離選手というわけじゃなくて、どちらかというと短距離選手ね。

それでもどんなにゆっくりでも歩くことはしないくらいだったから、体力はあるほうだと思い込んでいた。


でも”浄化”ってやつ、一度でこんなに疲れて本当に大丈夫なやつなの?

あたしはそう不安になる。


ゲームでは浄化を使いこなせるようになって、それで色々なところを巡って、瘴気の魔物を払ったり、瘴気が”溜まっている”場所にいって払ったりするんだ。

それで瘴気を払ったらイケメンたちが魔物を撃退していくってスタンスなんだけど、瘴気があるところは絶対に聖女の力を使わないと先には進めない。


この人たちもそれがわかっているから、あたしをこの世界に呼んだ。


……でも。


ゲーム通りなら、あたしは旅に出たら”終わる”。

小さなこの植木鉢の瘴気を払っただけで、この異常なまでの脱力感にあたしはそう感じた。


教会を、王都を抜け出して……、ううん。

ゲームの中では見えない壁でいけない場所とか沢山あって、だからあたしは道を知っているわけじゃない。

逃げたらすぐに捕まってしまうだろう。

そしたら自由なんてない。絶対に。


それに”王都”というだけあって、とても広いのだ。

逃げ出せることなんて、あたしには出来っこなかった。


そもそも初めて来た世界。

どこにあたしが逃げる場所があるというのか。


「では聖女様」


ゾクリと悪寒が体中を駆け巡る。

あたしは俯いていた顔をそっと上げて、教祖様を見上げた。


「聖女様にはこれから会う4人の方々と共に、この国に潜んでいる瘴気を払っていただきたいのです」


そう告げた教祖様の後ろからすっと現れた4人のイケメン。

紛れもないゲームパッケージと同じキャラの顔にあたしは血の気が下がるのを感じた。







旅をしていくなか、最初の頃はまだよかったんだなと思うようになった。

だって町の人たちの目があったんだもの。

そのお陰で、あたしはまだ助かっていたんだと分かった。


それに最初の頃からイケメンたちの事は名前を呼ぶこともなかった。

イケメンたちもあたしのことは聖女と呼ぶだけで、名前を呼ぶことは最初からなかった。


町から出ると、あたしを見て顔をしかめるイケメンたち。

勿論イケメンたちもあたしのことを名前で呼ぶことはない。

それどころか最初は呼んでいた聖女という名称も、今はもう呼ばれない。

「おい」「お前」そんな感じだ。


今は町から離れて森の中を探索している。

瘴気を浄化しないとこの旅は終わらないからだ。


イケメンたちは洗濯も食事も用意しない。

したことが無いのだ。


あたしは一人で自分の分と、そしてイケメン4人分を用意する。

魔物討伐に疲れた様子のイケメンたちは広げたシートに腰を下ろした。


あたしは四人から”離れた”場所に流れている川から水を汲み、町で買っていた食料を使って食事を作る。

すると魔物が出ると首を掴まれて、まるで荷物のように投げ捨てられる。

魔物を四人がかりで討伐し終えると、あたしに魔力なんてないことをわかっているのに、「たまには自分で退治してみろよ」と鬱陶しそうに告げられる。


苦しいだけの浄化の力を使っても、まるであたしが使うのは当たり前のように、倒れるあたしのことなんて気にもせずに先を進む四人。

様子を見に来ることはなく、先に進んだっきりあたしが追い付くまで戻らない。

まるで鷲掴みにされたように胸が痛む中、あたしは必死になって四人を追いかける。


そしてあたしは遂に血を吐いた。


前に立っている四人を見上げる。

四人の顔は汚らしいものをみているように、歪んでいた。




※視点変更終






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