52 初めての同伴で
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私はレルリラと共に、緊急性が高いという理由で霊獣での移動ではなく、騎士団が使えるという転移魔法陣を利用して、王都の隣町にやってきていた。
隣町といっても昇級試験の時にルルちゃん達の地元ヘルレイス町ではなく、その正反対に位置するオリエイナ町という町だ。
レルリラが町に入ると、門番から情報が伝わったのか数分も経たないうちに町を納めている貴族が現れる。
「特務隊のヴェルナス・レルリラだ。瘴気の魔物が目撃されたと情報があったが間違いないか」
レルリラが尋ねるとなにを焦っているのか、貴族のその人は挙動不審になりながらも頷いた。
「は、はい。間違いないかと……」
「場所は?」
既に用意していたのだろう地図を両手で広げ、目撃した場所を伝える。
私はレルリラの横から覗き込むようにして確認すると、結構町から近い場所だった。
歩いたら一時間もかからない場所、霊獣に乗ったら数分で着くだろう距離しか離れていない。
こんなに近い場所で目撃されたのならば、確かに町を納める立場である者なら焦ってしまっても無理はないだろうと私は思った。
「…あの、失礼ですがこの女性は?見たところ騎士団の人ではないようですが……」
貴族は私を困惑顔で見ていた。
私が騎士団ではないと断言したのは、私が私服だからだろう。
レルリラは特務隊とはいえ、騎士団に所属しているから普通に騎士団服を着ているから、私服の私が一緒にいることに違和感を感じているようだ。
当たり前の反応だけどね。
「同伴者だ」
「ど、同伴…?」
「気にしなくていい」
「は、はぁ……」
貴族の人は納得していない様子だったが、レルリラがこれ以上答えないことを察してか私から視線を逸らした。
「町の外に出ている者は?」
「お、おりません。瘴気の魔物を目撃したという情報が入り、町の外にいる者には拡声魔法で戻るように伝えています。避難が遅れているという情報は入ってきていません」
「なら魔物の対処のみをすればいいということだな」
レルリラは振り返ると「行くぞ」と告げる。
私は頷き、フロンを呼び出した。
『サラ!今日は遅いね…ってこの男…』
「説明は後!レルリラに着いてって欲しいの!」
レルリラを見るなり渋い顔をしたフロンに、私の隣で同じように霊獣を呼び出すレルリラを指さしながらお願いすると、フロンはなにかあったことを察したのか『わかった』と背を向ける。
そして先に飛ぶレルリラの後を追いかけるように飛んだ。
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レルリラ達が下降し始めたタイミングで私とフロンも地上へと降りる。
辺りを見渡すと町から近い場所ということもあり、手入れがされているという印象を受ける。
「この辺りだったよね?」
私はレルリラに尋ねた。
「移動しているということか、もしくは勘違いだったという可能性もある」
そんな言葉を口にするレルリラに私は勘違いということがどういうことなのか問いかけようと振り向くと、うっすらとレルリラの魔力を感じた。
この一帯に魔物の魔力反応があるのか確認しているのだろう。
「…勘違いとかよくあることなの?」
「一般人は瘴気の魔物を見た人が少ない。黒い靄という情報だけが広まっているから、遠目から黒に近い外見を見ると瘴気の魔物だと勘違いすることが多いんだ。俺が特務隊に入ってからそんなことが頻繁にある。
実際に瘴気の魔物と当たったのは片手で数える程度だ」
「じゃあ今回も勘違いという可能性があるかもしれないということね」
私の言葉にレルリラは答えなかった。
変わりに魔力反応がある方向へと指を差す。
「あっちだ」
「あ、待ってよ!」
走り出すレルリラに、私も後を追いかけるように駆け出した。
何かを感じているのか、フロンが無言のまま私の後ろをついていたが、五十メートルも進めば私の肩に乗る。
『サラ、おかしな気配がある』
「おかしな?」
私は首を傾げた。
フロンのいう”おかしな”という意味がわからなかったからだ。
フロンは魔物がいれば魔物の気配がするといったように、しっかりと伝わる形で言葉にすることが多い。
だけど今回、曖昧な表現にとどめたのだ。
だからこそ私はわからなかった。
私も探知魔法を展開させて向かう先にいるとされている存在を確かめる。
丸くて歪な形。
それが最初に思ったことだった。
だけどもっとじっくり観察すると、それが人の形だとわかる。
小さな子供がしゃがみ込み、頭を抱える姿だ。
危険だと、町へと戻るようにと貴族の人が拡声魔法で伝えたといっていたのにもかかわらず、小さな子供がこの先にいる様子が探知魔法からはっきりと伝わってきたのだ。
私は先を走るレルリラの横について訴えた。
「レルリラ!この先に子供がいる!」
そして私はレルリラを追い抜き、子供がいる場所へと全力で向かう。
「待て!サラ!」と呼びかけるレルリラと、『サラ!おかしい気配なんだ!単独行動はダメ!』と訴えるフロンの言葉を無視して私は駆ける。
そして探知魔法から伝わってきた様子そのままに、地面にしゃがみこんだ子供が視界に入り私はすぐさま駆け寄ったのだった。




