51 聖水を作ってみよう!
「サラ、待ったか?」
私は庭から戻るとそこにはレルリラが既にいて、レルリラの後ろで控えるようにエルシャさんが立っている。
待ち合わせ場所に遅れてきた人みたいなセリフだけど、ここは私の家だし待つも何もない。
第一約束している時間の五分前だ。
待ったという気持ちすらわかない。
「待ってないよ。レルリラは朝飯食べた?」
「ああ、食べた」
「なら始めよっか」
レルリラはコクリと頷くと私と同じように庭に出る。
そして私と向かい合うように立つと聖水の作り方を教えてくれた。
ちなみにエルシャさんは頭を下げた後どこかに行った。
豪邸は広いから、掃除するにも時間がかかるよね。
「聖水は、水魔法に治癒魔法を付与しながら発動することで出来る」
あっさりと話したレルリラに、私は目を瞬いてから眉間に皺を寄せ、首を傾げた。
続きはないのかと思ったからだ。
「え、それだけ?」
「それだけだが」
頷くレルリラに私は眉間の皺を解す様に指先でぐりぐりと抑えていると、レルリラが話を続ける。
「方法は至って簡単だが成功率が低いと言われている。だからこそ聖水自体が少ないのだろう。…実際に大量に作れるのなら聖水は特別な物として扱われていない」
「そうはいってもなぁ…」
そもそもレルリラの言う通り水魔法に治癒う魔法を付与するということは、付与魔法がメインということだ。
私が服の繊維に魔力を込めることに手間取っていたように、魔力コントロールがうむを言わせるようなもの。
つまり付与魔法がうまくいけば簡単に聖水を作れるのではないかと思ってしまうじゃないか。
私は半信半疑でレルリラの言った方法を試してみることにする。
「水魔法はなんでもいいんだよね?」
「ああ。だから<オー_水>で問題ない」
私は両手のひらを上に向けて、その上に水を作り出す。
ぶよぶよと動く水の玉に、私は治癒魔法を付与した。
どれぐらい付与し続ければいいのかわからなかったけど、ポーションだって魔力量でランクが変化するから聖水だって同じものかもしれないと、治癒魔法を適当に掛け続ける。
するとぶよぶよ動いていた水の玉は輝きを持ち始めた。
周りにキラキラとした粒子を散らしているかのように輝く水の玉に、私はレルリラを見上げる。
「…これ、もしかして聖水になった?」
「……なった」
実際のところ私は聖水を見たことがなかったが、輝きを持ち始めたところでもしかしてと思うと、どうやら本当に聖水らしい。
神殿で聖水を作っているといっていたが、もしかして付与魔法が不得意な人がやってるとか?と色々考えているとレルリラが不安そうに私を見つめた。
「…どうしたの?」
「お前、治癒魔法は不得意だろ?魔力残量はどうだ?体調は?」
「どうもないよ?」
私の返答にレルリラは眉間に皺を寄せて無言で見てくる。
なにやら私が無理をしているのを隠していると言わんばかりの反応だが、そもそも私は治癒魔法を人に対して使うのが苦手なだけだ。
魔力がどんどん抜けてしまうから。
まるで私の意思なんて関係なく、魔力がどんどん消費してしまうからこそ苦手意識を持っているだけ。
その為同じ治癒魔法の分類である修繕の魔法を無機物に使うと魔力コントロールが普通に出来る。
理由はよくわからないけど、そういうものだと思っている。
(だからポーションは欠かさずに持つようにしてるんだよね)
そして今回水魔法に治癒魔法を付与させるということは、修繕魔法のように水魔法が無機物として扱われているからなのか、魔力コントロールが制御できた。
なので私の魔力残量は普通にたくさん残っている。
レルリラは手を伸ばして、私の頬を触った。
いや、頬というより首元と言った方がいいかもしれない。
そしてもう一度「大丈夫か?」と問いかけて、「全然平気」と答えると、暫くの沈黙の後やっと納得してくれたのか手を離した。
「え、何今の?」
「嘘ついてたらわかるだろう。サラは単純だから」
意味がわからないし、褒めてもいないように聞こえるのは私だけか。
こいつ、どうしてくれよう…。とジト目でレルリラを見ていると、レルリラが急に袖につけられたボタンを爪で叩いた。
そしてボタンから上半身だけ映し出された人が現れる。
え、あのボタンって魔道具だったの?
確かに宝石のように綺麗だったけど、普通のボタンかと思ってた。
【瘴気の魔物の情報が入った。場所は2256/17801だ。王都にいるお前が一番近い。向かえるか?】
え、なに?場所を番号で伝えてるの?全然わからないんですけど!
「問題ありません。今すぐ向かいます」
レルリラはそう答えるとボタンを握って通信を切った。
そして私を見る。
「聞いた様に今から向かわなければならない、これ以上の訓練は…」
「私も行くからね!」
レルリラは目をまん丸くさせて私を見るが、もしかして私を連れていかないつもりだったのかとむっとする。
「聖水だって作れたんだし、役に立つでしょう!ていうか、そういう話だった筈なのに私を連れていかないつもりだったわけ?」
レルリラは私の言葉を聞いて、少しの間だけパチパチと瞬きをするだけだったが、すぐに口角をあげる。
「……そうだな。サラに何かあっても俺がいるから問題ない」
「私がいるから安心なんでしょうが!」
冒険者の私が何故同行を許されたのかコイツは覚えていないのかと睨むが、レルリラは本当に嬉しそうに笑うだけだった。
その反応はずるい。
なにも言えなくなるじゃない。




