48 昇級試験②
グッと足に力を入れて踏み込んだ。
身体能力強化をかけているから、地面に跡が残る程に踏み込んでいる感覚がある。
私は姿勢を低くしてルドウィンさんに向かって_
「終わり終わり!ストップだ!」
駆け寄ろうとしたところで、ルドウィンさんが持っていた剣を放棄して両手を挙げた。
ガチャンと剣が地面に落ちた音が大きく響き、私は足を小刻みに動かしてスピードを落とす。
慌てて防御姿勢をとる私に、ルドウィンさんは苦笑して放棄した剣を拾い鞘に戻した。
「最初っから決着がつくまでって考えてねーよ。それより俺たち四人相手にしっかり戦えて、しかもそいつらを守りながらってことでもう十分合格だ」
見てみろよ。と親指を後方に向けるルドウィンさんにつられる形で、私は三人の方を向く。
「…本気じゃなかったとはいえ、私結構色んな魔法使ってたのに全部打ち消された…、しかも全部横目でチラ見しただけ…」
「俺も普通に対応されてたぞ…」
「確かにほんと役に立たなかったわよね」
「るせー…、俺だって本来は魔法攻撃じゃなくて接近戦タイプなんだよ…」
しょんぼりと肩を落とす三人に反して、ルルちゃん達は結界の中からキラキラした目線を私に向けていた。
そんな視線が痛く感じるが、イライアンさんが口にした言葉を思い出す。
…あれ、“接近戦タイプ”っていってたよね?さっき。
「流石にあいつら相手にされながら、俺の相手をするとは思わなかった。
本来ならあいつら相手にしている時、俺が護衛役を襲う計画だったんだ」
「あいつらの結界解いてやれよ」と促されて私はルルちゃん達の結界を解除してから、二コラさんにかけていた魔法を消した。
ちなみにかけていたのは氷の糸。
大量の魔力を練りに練り込んだ特製品を氷の刃に纏わせていたから、私の魔法攻撃を避けようとすればするほどに糸がばら撒かれるという算段だ。
そして二コラさんは私の思惑通り糸に体の自由を奪われて身動きが取れなくなっていたというわけだ。
その糸を解除すると体の節々の動きを確認しているのか、その場で体の調整を図っていたが、結界の中にいただけのルルちゃん達は私の元へと駆け寄った。
「サラちゃん凄いね!めちゃくちゃ強い!」
「ホント!凄かったぜ!」
キラキラと輝く瞳を向けながら告げられる中、私は「…ありがとう」と若干恥ずかしながらも答える。
完全勝利で勝てなかったから、釈然としない結果であったことは致し方ないよね。
中途半端でも勝利っていう言葉に人は反応したがるものだ。
「じゃあお前らはここでおしまい、ありがとう…あ、これ協力カードな。
これもってギルドにいけば協力金受け取れるから」
そう告げるルドウィンさんから白いカードを受け取ったダニエルは嬉しそうに頷いた。
ルルちゃんたちも嬉しそうに白いカードを覗いている。
白いカードとは特別協力に携わった冒険者に贈られるカードらしく、今回は私の昇級試験に協力してくれたダニエル達が手にしたということだ。
「ありがとうございます!じゃ、俺らは町に入るから、じゃあなサラ」
「え!もう!?私まだサラちゃんと…」
「サラはこれから昇級合格の為に王都に帰るんだろ?引き留めるなよ。それにルドウィンさん達にもわりーし」
そういって渋るルルちゃんを引きずるように連れて四人は町へと入る門と向かっていった。
私は四人に手を振って見送っていると、ルドウィンさんが明るい口調で話す。
「じゃあ俺たちも王都に戻るか!」
「そうだな」
ルドウィンさんの言葉にイライアンさんが同意するが、ナードさんが困ったように首をひねる。
どうしたのだろうと疑問に思いながらナードさんの話を聞くと
「サラちゃんは霊獣をギルドに預けてるんだよね?いつもなら私の霊獣に二コラを乗せてるけど…」
と言っていた。
確かにフロンはギルドに預けているし、風属性の魔法玉を使ってまで移動したくない。
長く使えるとはいえ、結構高いのよ。魔法玉って。
「俺と一緒に乗るか?」
「ばか!女の子が男と密着なんて許されないわよ!」
話し合うというか言い合うナードさんとルドウィンさんを眺めていると、二コラさんが私の袖を引っ張った。
私は少しよろけて二コラさんに体を支えられる。
「……私の魔法で行こう?」
「魔法、ですか?」
私は首を傾げた。
先程の試験中、二コラさんは水属性の魔法しか使っていなかったはず。
それなのに風属性の魔法でも使うというのか?あ、もしかして魔法玉?と首を傾げていると、私の手を握ってそのまま宙に浮く。
「わっ!」
「…じゃあ先行く」
まだ言い合っていた二人に二コラさんは話すと、私を連れてそのまま”飛んだ”。
「え!?に、二コラさん風属性ももってたんですか!?」
「そう。エルフは基本魔力が高いからか、複数属性持っている人も意外と珍しくない。
私は水と風の二つ」
…そうなるとさっきの試合中、二コラさんは本気で戦ってないのでは?という疑問が思い浮かぶ。
手を抜かれていたのではないかと食い入るように二コラさんを見ていると、私の気持ちを察したのか二コラさんが急に慌てだす。
「…だ、大丈夫。私のメイン属性は水で、風は補助的なもの。手を抜いていたわけではない」
「わわ!手を離さないでください!二コラさん!」
「魔法でサラを浮かしているから手を放しても落ちない」
「そうはいっても!!」
慌てる私の様子を見て、二コラさんは笑った。
綺麗に微笑む二コラさんの笑顔がとても綺麗で、私は思わず見惚れてしまうも、すぐに宙に浮かび飛ばされている感覚から意識を戻される。
人に魔法を掛けられて空を飛ぶ行為って、結構怖いものなんだなと私はこの時初めて知った。




