5 ライバルの存在
早いもので学園に通い一か月が経った。
そして入学して初めてのテストが行われた。
内容は、支援魔法の魔法陣について。
魔法には二種類ある。
属性という火、水、雷、地、風の一人一人が持つ属性魔法と、誰もが使用できる支援魔法の二種類。
物を浮かす、洗う、明かりを灯す等といった生活に必要な魔法も支援魔法だし、属性が関係ない防御の魔法もこの支援魔法に含まれる。
ちなみに物を浮かす魔法は自分以外にしか使えない。
自分が浮かんで移動する、つまり自由に宙を飛ぶ行為は風属性の魔法である。
また洗うという魔法も、あらかじめ水がある状態でしか使えない。
水を無から生み出せるのは水属性の魔法なのだ。
では生活に欠かせない火や水はどうしているのかというと、魔法研究所で開発された魔道具を使っている。
私の家でも魔道具を使って飲み水や洗濯、お風呂、そして調理に幅広く使っていた。
また魔法の発動方法は複数あり、詠唱を唱えながら魔力を操作して魔法陣を組み立てる詠唱魔法と、紙等に魔法陣を描き魔力を流して発動させる方法、そして詠唱も魔法陣もない無詠唱の三つの方法がある。
入学して一か月間、無数にあるといってもいい支援魔法の魔法陣をひたすら覚えていった。
といっても支援魔法のほとんどは生活魔法に使われているから、授業で習ったほとんどの魔法陣はお母さんから習った内容だったし、新しく習った少しだけの魔法陣がテスト範囲だった。
なのである程度の復習を行えば高確率で上位の成績に名を刻めることだけは確実だと感じた。
ちなみに私の両親が支援魔法を数多く覚えているのは”平民”が理由だと思う。
例えば学園初日に使った軽量は、重たい荷物を運ぶ時に使用するし、物を浮かせる魔法は洗濯や掃除に非常に役立つ魔法だ。
また魔力を流すだけで他種の属性発動できる魔道具も開発されているが、平民は必要な道具しか持っていない。
そもそも調理に欠かせないフライパンという魔道具は家にあったが、髪を乾かすためのドライヤーといわれる魔道具は家にはなかった。
お父さんは自然乾燥派だったが、私の髪はお母さんに乾かしてもらっていたのだ。
なので平民の生活は自分ができる範囲はカバーするというようなスタイルなのである。
だからこのような生活魔法に関連する支援魔法については平民の方が使いこなしていると私は思っている。
ちなみにいうと寮の自室のシャワールームにはなかったが、共用部分の浴場スペースには魔道具が完備されており、お母さんに乾かしてもらっていた髪は今ではドライヤーのお世話になっている。
初めて使った感想は感動しかなかったが、最近では物足りなさも感じている。
これがホームシックというものなのか。
逆に貴族である立場の者はどういうところで魔法を使うかというと、自分たちの領地で災害が起こったときに鎮める。等だ。
つまりどういうことかというと、大規模な火事がおこった場合や、レベルが高い魔物討伐等があげられる。
大規模な火事は魔法が使えるとは言っても全体的に魔力量が低い平民には難しいからだ。
同様に魔物討伐についても弱い魔物ならまだしも、レベルの高い魔物は平民では討伐が難しい。
話を戻すが、素晴らしい完璧な回答は一位という輝かしい結果をもたらせでくれるたろうと、私は期待している。
だって返却された解答用紙は満点だったのだから。
「……え、嘘……」
だけど先生が記した順位は私の期待を大きく裏切った。
1位
ヴェルナス・レルリラ
2位
サラ・ハール
「な、なんで…?」
返却されたテスト用紙には満点の文字が赤で記入されていた筈だ。
いや、”筈”ではない。確実に寮の机の引き出しに、満点のテスト用紙がしまってある。
つまり問題なのはこのテスト結果の順位だ。
このレルリラと言う人が私と同じく満点だとしても同率一位でなければおかしい。
というかこのレルリラって、確か貴族入学のトップ入学者じゃなかったっけ?
たぶん。
こんな名前してたもの。
「いや二位ってすげーだろ」とかマルコ達の言葉が聞こえてきそうな気がするが、首位だと思っていた私はこの結果に満足しなかった。
「先生!どういうことですか!?」
順位を告げて教室を去ろうとしていた先生を捕まえて、私は詰め寄る。
先生は不思議そうな顔をしながらも笑顔を見せた。
「満点おめでとう」
「なんで私二位なんですか!?満点なのに!」
「あー、……まぁ気にするなよ」
「気にしますよ!どこか悪かったんですよね!?教えてください!」
「どこも悪くないって、ちゃんと満点だったよ」
「でも!………もしかして私が平民だからですか?平民は一位になれないんですか?」
「そんなわけないだろう。初日にも言った通り学園では家柄関係なく平等に扱う。
……それに家柄重視なら平民は全て下位の成績になってしまうだろうが」
諭すように言われ、完全ではなくとも納得した私は引き下がった。
確かに家柄重視なら、貴族が多いこの学校で私が二位という結果もあり得なかっただろう。
次の授業もあるため、ここでいつまでも先生を引き留めるわけにはいかなかった。




