46 維持装置
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次の日の早朝、私はルルちゃん達と一緒に王都を出た。
目指す目的地はルルちゃん達の故郷でもあるヘルレイス町という、王都の隣にある町だ。
馬車なら半日もあれば余裕でつく距離。
勿論これは馬を休ませるために、適度に休憩を挟みながらを想定している計算だ。
その為人間の足なら、休まずに一日はかかるという距離だと思って欲しい。
それでも町からでても本当に町の外なのかって程に、道が綺麗に舗装されていた。
王都に来た時はフロンに乗っていて実際に歩いてはいないし、学生の時だって馬車に乗っての移動だった為にこんなに綺麗に舗装されていることに私は驚いた。
(マーオ町でも馬車が走りやすいようにデコボコがないよう気を付けていたけど……)
都心から離れるとこんなにも違いが出てくるのかと、内心少しだけショックを受けながら綺麗に舗装されている道を歩いていた。
そう”普通に”。
「なにもないな…」
ダニエルは少し緊張気味に口にした。
”なにもない”という言葉には語弊がある。
目に見える範囲ではないが、騎士団かもしくは冒険者と思われる人達が魔物と戦っている情報が探知魔法を展開している私に届けられているのだ。
だから決して何もないわけではない。
それでも目に見える範囲では見晴らしのいい草原が広がり、人や馬車が歩いてできたであろうしっかりと舗装された道が続いているだけの光景は変わらない為、そう感じるだけだ。
「なにもないならそれでいいじゃない」
「いや、だってこれってサラの昇級試験でもあるんだろ?いつも通り過ぎて拍子抜けっていうか……」
「ルドウィンさん達にはルドウィンさんの考えがあるってことでしょ?私達が気にしたってしょうがないじゃない」
「そりゃあそうだけどさ」
ちなみに冒険者には暗黙の了解というものがあって、基本的に手柄を横取りする行為はタブーにあたる。
命の危険が迫っている状況でも相手の了承を得ない限り、基本的に誰かが戦っているところに割り込むような行為はしてはいけないのだ。
それがトラブルになると何度アラさんだけではなく、お父さんにも釘を差されたことか。
「……もしかして、サラちゃん王都の周り歩くの初めて?」
「うん、そうなの」
私が頷くと、ルルちゃんが安心させるように笑顔を浮かべた。
あれ?私が不安がっているって思っているのかな?
まぁ確かにいつ仕掛けてくるのかわからない状況は、不安といえば不安だけど。
「なら安心して。王都の近くってよく騎士の方が見回ってるんだ!」
「そうそう。だから俺たちみたいなDランク冒険者ものんびり歩けてるんだ。
戦うっていっても騎士たちがスルーするようなスライムとかのモブ魔物ぐらいだけど、そういうのってギルドにクエストとして掲載されてるから基本的に誰かが倒してるんだよ」
「……へー」
ルドウィンさん……、こんなに護衛という意味をなさない護衛クエスト意味なくないですか?
私を安心させようとしてそういったのだとは思ったのだけど、割と本気でそう思った。
それから何事もなく進んだ私たちは、夕暮れ時になると野宿をするために途中で道から逸れて野営の準備をすることになった。
警戒心を抱いていない四人の姿に、どうやら夜間も昼間同様安全らしいと心の中で思う。
王都の近くってだけで凄いのね。
「じゃあ食事は買っておいた携帯食料でいいよな?」
ダニエルの問いに他のメンバーが答える。
「サラさんも大丈夫か?」
「うん、持ってるから大丈夫」
いつも通りなら携帯食料は持たないでクエストを受けていたが、今回は皆に合わせて買っておいたのだ。
ちなみにフロンがいれば町までひとっ飛びだし、例え野営をすることになっても捌き方は習得済みだから、動物や魔物さえ狩ることが出来れば問題ない。
でも今回は護衛するのが私だけということで狩りを行う選択肢はないなと判断し携帯食料を購入したが……、ここまで魔物と会わないことは想定してなかったから、少しだけ残念に思えた。
だって携帯食料ってそこまで美味しくないんだもの。
私達は栄養がふんだんに盛り込まれているブロック状の食べ物を水と一緒に食べ進めると、各自寝袋に入って睡眠をとり始める。
今回はルルちゃん達は私に守られる役の為に、火の番をすることもなく揃って就寝した。
私は昨日買っておいた持続魔法を効果的に発揮することを特化した魔道具を鞄から取り出す。
(これがあれば結界魔法も瞬時に張り直すことができるのよね)
仕組みは至って簡単。
魔道具に特定の魔法陣を刻み魔力を込めれば、込めた魔力が尽きるまで何度でも魔法を展開する。
だから結界の魔法陣を魔道具に刻み、魔力を込めておけば結界が破られても何度でも張り直してくれる。
しかも魔法陣の中に伝達の文字を記しておけば、結界が破られるたびに私に伝達してくれるので、眠っていたとしても起こしてくれるという優れた機能を兼ね添えた魔道具となる。
(欠点は使い捨てだけどね)
流石にこんなに便利な魔道具でも、魔法陣を刻んだら他の魔法を使うことが出来ないし、一度魔力を注いだら追加することは出来ない。
だからこそありったけの魔力を注ぐことになるのだけど、それでも魔力が多いなら使わない手はないという逸品だ。
「……これで私が寝ても問題ないよね」
◇
そして朝。
私は一番早くに起きた。
まぁいくら持続できるとはいえ結界魔法をかけていたとしても、野営に熟睡は危ないからね。
むしろこれが正常だ。
それでも寝ることは出来たから助かった。
眠気覚ましに魔法で作り出した水で顔を洗っていると、他のメンバーたちも起き始める。
朝食も夕食同様携帯食料を食べて、私たちは町へと向かって歩き出した。
「ねえ、サラちゃん」
「ん?なに?」
「サラちゃんって恋人いるの?」
「へ?」
最後尾を歩いているとルルちゃんがこそっと内緒話のように囁くが、丸聞こえだったのか二ーラちゃんが振り向きニヤリとした笑みを向けられた。
「あ~、私もそれ気になってた~。サラちゃん可愛いしぃ、勿論恋人いるだろうなぁって思ってるけどぉ、実際のところどうなのかな~って思ってたのぉ~」
「二ーラも気になるよね!ね、ね!教えてよ!」
なにが楽しいのかテンション高めに話す二人に私は首を振る。
「いやいや、恋人いないから」
その言葉は勿論嘘ではない。
小さい頃から凄い冒険者になるために必死で勉強して努力してきたから、恋愛とかそういう話には興味がなかったともいえる。
勿論友達が恋愛で悩んでいたら手伝えることはないかと気にかけたりすることはあると思うけど、レロサーナもエステルも良い縁を少なからず求めていたからドレスを身に着けていた筈なのに、そういう感じが全くなかった。
(まぁマルコとキアは友達で、レロサーナとエステルのことが好きだったと思うけれど、二人よりもレロサーナとエステルのほうが私的には大事だしね)
二人に気があったのならばくっつけようとは思ってたけど、どうやらそうではなかったから本当に無縁。
なんにしても私自身恋愛ごとには無関係な人生を送ってきたから恋人とかいないと胸を張って伝えるが、二人は何故か納得してくれなかった。
「ええー?そうなの?」
「じゃあ恋人は他にいるとか~?」
「いや…」
他に恋人ってどういう意味だ?
恋人いないって言ってるのに。
「ふ~ん。まぁ~でも~、サラちゃんに好きな人がいるんだったら~、さっさと告った方がいいよ~?じゃないと取られちゃうかもぉ~?」
「いや、だから…」
私が否定しているのに、何故かニーラが全然譲らなく、ニヤニヤと笑っている。
「想像してみてよ~、その人の腕におっぱい押し付けてる女の人が並んで歩いてたら嫌じゃない~?」
そんなことを口にするニーラに私は眉間に皺を寄せながら、言葉通りに想像してみた。
レルリラの隣に、胸のデカい女の人…。うん。
まったく想像できない。
そもそもレルリラに女の人から腕を絡ませて胸を押し付けたとしよう。
でもレルリラ自身黙ってそのままにさせるような男ではない。
寧ろ「肉を押し付けないでくれないか?」とかいっちゃいそうな感じがするし、言われた女性も愕然としてさっさと離れてしまいそうだ。
レルリラも公爵家という高い身分の子息だけど、学生の頃のレルリラは他の貴族の令嬢たちにも無関心で平気でそういう対応していそうだから、もし現実に起こりえたとしてもちょっと、いや、だいぶ面白いだろうなと思って思わず笑ってしまった。
「ん~、その顔いまいち想像できてない顔だね~。じゃあ、その男の人に他の女が告ったらどう~?」
そんなこと言われても学生の頃からレルリラは人気が高かったし、よく呼び出しを受けているところをみたことはある。
それでも毎回断っていると聞いたから、告白されても断ると容易に想像できた。
「こりゃ~手ごわいね~」
「そうだね」
そんなことをルルちゃんとニーナが私を見ながら、私に聞こえるように話をする。
私はついつい苦笑しながらも、なんでレルリラの顔が浮かんだんだろうと少しだけ不思議に考えていた。




