34 利害の一致
「は?」
私は思わずぽかんと口を開けてしまう。
“俺と活動しろ?”
いやいやいやいや、どういうこと?
「レルリラ…アンタ、冒険者に転職するの?」
そんなことはないと分かっているものの、思わず尋ねてしまうのは仕方ないと思う。
誰だって私と同じ質問するはずだ。
「転職はしない」
「だよね」
案の定の返答に私は思わず安心してしまった。
そもそも聖女を守るための一人に選ばれてるんだから、わざわざ冒険者に転職するはずがない。
第一コイツ学生時代から冒険者ではなく、騎士団に入団が目標だった筈だ。
……目標かどうかはわからないけど。
『さ、サラ!まさかコイツの提案に乗る気!?ダメだよ!』
フロンが柔らかい肉球を私に押し付けながら話す。
前はレルリラって呼んでいたのに、今ではコイツ呼びだなんて、私が寝ている間にケンカでもしたのだろうか。
私はそう思いながらもとりあえず先にレルリラの爆弾発言を詳しく聞こうと思い、フロンからレルリラへと視線を戻す。
「騎士団と冒険者が一緒に行動するって一体どういうつもり?私とクエストでも受けるの?」
私の質問にレルリラはため息をつき、逆に質問し返してきた。
「…お前、忘れているようだが、自分で聖水を作れることわかっているのか?」
「あ、それは……」
私は口籠る。
決して忘れているわけではない。
ただ自分が聖水を作れることが信じられなくて、後回しにしてしまっていただけだ。
(まぁそれでも聖女だったっていわれるよりは現実的だけど…)
「現実問題、聖水は王都にある神殿でのみ作られている。厳重に守られている為に自由も認められない場所だ。
お前が聖水を作り出せることが知られれば、間違いなく神殿に連れていかれるだろう」
「え…、」
「言っておくが、殆どは裕福な家柄の者たちばかりだ。神殿の中からは出ることが出来ないが、それでも金に糸目を付けない豪勢な暮らしの自由はできる。
だがお前はどうだ?基本的には神殿も貴族派が多い。寄付金をたっぷりと貰っているからな。そんな中でお前は平民で、貴族に対抗する後ろ盾もない。神殿に囲われればそれなりの扱いをさせられ、更には他の者たちの分も作らされることだって考えられる」
それこそ寝る間も惜しまず、とレルリラは続ける。
私はその話を聞いて有りえなくもない話だと思った。
私がいたクラスの皆は貴族でもとてもいい人達ばかりだったが、そうではないことは自分の身をもって知っている。
平民だからと沢山の嫌がらせを受けてきたのだ。
(レルリラを利用して返り討ちにしてやったけど)
それに神殿の内部事情だってよく知らないけど、レルリラがいうのであればそうなんだろう。
「そこでだ。特務隊の俺が聖水を作れるお前を任務同行人として指名する」
「同行人?そういえば、ここにはレルリラ一人だけで来たの?
他の騎士の人はもしかしてギルドにいる感じ?」
私は首を傾げながら尋ねた。
いくらレルリラといっても、瘴気の魔物を相手にするんだから他の騎士団の人もいるだろうと今更ながらに気付いたからだ。
でもここにはレルリラしかいない。
「特務隊は少数精鋭隊なんだ。だから一人行動が基本。
お前の町には俺一人で来ている」
「あ、そう……」
「?そういうわけで、サラは特務隊の俺と共に行動するのが一番いいんだ。自由を保て、気も許せる人と行動できるのだから」
私の反応にレルリラは不思議そうにしながらも、胸を張って堂々と言い切ったレルリラはとても満足気だ。
レルリラの私のためという言葉も嘘ではないだろう。
確かに私が聖水を作ることが出来ればレルリラの立場てきには、とても便利で使い勝手のいい存在だが、私がいなくてもレルリラは余裕の表情でなんだってやりこなす。
でも
「ふははは…、気を許せる人って、自分でいう?」
私はそんなことよりもレルリラの言葉の方が面白かった。
それと同時に学園を卒業しても平民と貴族ではなく、ただの友人として、対等に接してくれていることが嬉しく思ったのだ。
(半年も会っていなかったのに……)
『…サラ……』
私が笑っていると、力なくフロンが何かを呟いた。
そして顔を上げてレルリラの方を向くと、フロンはこう話す。というか叫ぶ。
『サラを利用しようとしたら承知しないぞ!!』
案の定フロンの言葉がわからないレルリラは首を傾げる。
フロンはむきーッと怒って、でもどうすることもできなくて小さな足で布団を踏んでいた。
(でも、確かにそうね……)
パーティーメンバーって呼んでいいのかわからないけど、レルリラならこれ以上ないってくらいの相棒だ。
同じ学園で共に学んできた人同士だから。
アレグレンさんとルファーさんとパーティーを組んでいるとはいえ、それは臨時。今だけだ。
今後冒険者として活動するには必ず三人以上にならないとクエストが引き受けられないから、常にメンバー探しが必要になる。
でも一人でも行動が許されている特務隊…といった隊のレルリラとなら、メンバーを探さなくてもクエストを受けることが出来るかもしれない。
それに私自身神殿に囲われないで済むし、この聖水を作り出せる力も_相変わらず作り方はわからないけど_レルリラと一緒ならば有効活用できる。
(……うん)
私は布団に入っていた足を床に降ろし、座っているレルリラの元に向かう。
そして手を差しだした。
「これからもよろしくね!」




