32 疑惑
目を覚ました私は、いまだ意識が浮上しないままボーっと天井を見つめたままでいた。
薄暗かったが木の模様は今よりもうんっと子供の頃には人の顔のように見えて恐ろしいもののように映っていたが、成長した今ではなんでもないただの模様だと認識している。
だからこそこうしてジッと見つめたままでもなんとも思わない。
「目を覚ましたか」
そんな私に懐かしい声が聞こえてきた。
半年ぶりの声に、私はバッと上半身を起こすと明かりが付けられ目がチカチカとする。
一応、服はクエストに出掛けたままの服でとりあえず寝間着ではないことに安堵した。
「……レルリラ?」
なんで、ここに?と私は首を傾げた。
しかもレルリラは何故か当たり前のように私の椅子に腰を落ち着かせた様子で、少し視線をずらすとこれまた当たり前のように、レルリラが着ていたであろうローブがかけられている。
なんでレルリラのだって気付いたのかというと、大きさも違うし色も違うが、なによりも私のが別にかけられているからだ。
「…要請が入った」
その言葉に私は昨日のことを思い出す。
アレグレンさんとルファーさんと共に引き受けたクエストの事。
救援要請をルファーさんにお願いして、私とアレグレンさんで魔物討伐をして時間を稼いでいた事。
最終的には私の魔力が尽きて意識がなくなったこと。
そして今こうしてベッドにいるということは_
「レルリラが助けに来てくれたのね…」
私はレルリラに笑ってそういった。
うまく笑えているかはわからない。
だって結局私は自分の力で解決出来なかったんだから。
助けに駆けつけてくれたレルリラが結局全部対応してくれた。
そう思うと情けなくてうまく笑えている自信がないのだ。
『サラはちゃんと魔物を倒していたよ!』
「フロン…」
私が落ち込んでいるのを感じだったのかフロンがそういった。
そして私のいるベッドに、体を小さくさせて乗ってくる。
私はそんなフロンをよしよしと撫でた。
(慰めてくれているのね…)
フロンの心の温かさを身にしみながら私は癒されていたときレルリラがなんてことないように告げる。
「全部じゃなかったがな」
「…え?」
全部じゃなかった?
それはどういう意味だろう。と私は首をかしげる。
アレグレンさんが瘴気に侵されていて、私は気が動転していたのだと思う。だからとりあえず魔法を撃ちまくっていた事だけは覚えていた。
何の魔法を使ったのかわからないけど。
それでも瘴気の魔物をどうにかしたくて、瘴気の魔物にどんどん魔法を放っていた。だから私はほとんどの魔物を攻撃できていた感覚がないのだ。
……あれ?
「アレグレンさん!アレグレンさんは!?瘴気の魔物の攻撃を受けて瘴気がアレグレンさんの体にまとわりついていたの!」
ここでやっと私はアレグレンさんのことを思い出す。
騎士団にいるレルリラが来たということは聖水もちゃんと持ってきているということだろうけど、それでもアレグレンさんが無事なのかを確認したかった。
だって瘴気に包まれてとても苦しそうにしていたのだ。まるで精神を蝕まれているような、そんな感じで。
「…答える前に先に一つだけ教えてもらおう。サラ、お前が見たのは本当に瘴気の魔物で間違いないか?」
だけどレルリラはすぐに答えてくれなかった。
それどころか私が見た魔物が本当に瘴気の魔物かを確認する。
私は少しむっとしながら答える。
だって、こいつだって見ているだろうに、瘴気の魔物が本物だった?なんて聞いてくるのだ。お前も知ってるだろ!って感じで思うもんでしょう。
「ええ、そうよ!私が学生時代にみたものと一緒!
っていうか、レルリラだってみてるでしょ!?救援要請で駆けつけてくれたんだから!」
「みてない」
「そうでしょ!知ってるのになんで私に聞い…て……、え?」
「俺は見ていないといったんだ」
むっとしながら言う私にレルリラは首を振って否定する。
表情は乏しいながらもそれでもしっかりと感情が伝わってくるものだから、レルリラの表情からその言葉が嘘ではないと私は察する。
そもそもレルリラはこういう冗談は言わない。根が真面目だからだ。
「俺が見たのは浄化したあとの特有の光景だ」
「浄化……」
「そうだ。現にお前が見たという瘴気の魔物も、瘴気に纏わりつかれた人間も俺は見ていない。
見たのは倒れているお前ともう一人の男、そして弱った魔物とそいつだけだ」
男はギルドに届けた。とレルリラは付け加える。
ということは、アレグレンさんは無事だったということがわかり私はホッとしたが、それよりも不可解なことが出来た。
瘴気の魔物は聖女か、もしくは聖水じゃないと浄化できない。
あの場所には私とアレグレンさん、そしてフロンだけ。
アレグレンさんは倒れ、浄化する余裕もないように思えた。
フロンは私と契約前ならまだしも、今は私と契約しているから私の許可がない限りは大きな魔法は使えない筈だ。
なら、残る可能性は…。
「……あのさ…、私が聖女、だったりする、かな…?」
私が聖女なのではないかという可能性だけだ。




