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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編①
172/253

28 視点変更 フロンの正体





霊獣は星域の中で自然に生まれる。

生まれた場所が関係するのか、霊獣はどんな生物よりも強く、そして儚い存在だった。







星域の中で一匹の霊獣が誕生した。

生まれたばかりだとしても、人間や動物の様に成長への手助けが必要ないのが霊獣だ。

生まれた時から立ち上がることが出来、目も見え、他の霊獣と言葉も交わせる。

だけどやはり生まれたばかりの霊獣は一回りも二回りも体の大きさは小さく、同族の中でも可愛いと人気だった。


サラが契約したフロンも生まれたばかりはとても人気だった。

猫という動物は人間にも人気は高いが、霊獣の中にはあまり見ない容姿でもあることから、非常に物珍しく注目を集めた。

だからなのか、注目され過ぎたフロンは良く一人、いや一匹で行動するのが好きだった。

そしてものぐさな性格なのか、何事にもやる気がでない、興味がない、そんな性格をしていた。


ある日、いつも寝ているフロンが湖の水面を眺めていた。

フロンを良く知る霊獣たちは起きていることを珍しがった。

だけど構うことはない。

生れたばかりの小さな姿は可愛くても、成長し大きな姿になると興味がなくなるからだ。


一方フロンは湖を通して人間界の様子を見ていた。

霊獣が長く生きる為には、限りある魔力を一切使用しないか、もしくは人間と契約することで寿命を延ばせる。

魔力と呼ばれる力の源が体の中にあるにもかかわらず、霊獣は魔力の生成が出来ず、回復が出来ない構造をしていたからだ。

その為魔力が尽きれば命も失う。

逆に言うと、魔力を使わなければいつまでも生き延びられる。

脅威も何もない星域の中はとても安全で穏やかだが、同時に暇でもあった。

フロンは自身の体に保有している、とても膨大な量の魔力を少しずつ使い、人間界の様子を眺めるようになっていた。


フロンはある女性が気になっていた。

白い色を持っている女の子だった。


突然だがフロンには色が見える。

怒っている時は赤、悲しんでいる時は青、喜んでいる時は黄色と言ったように、感情から色が見えていた。

その中で誰も持っていない白色を持つ女の子がいたのだ。

フロンはその色がなんなのか気になった。

だから寿命にも直結する魔力を使ってまで人間界を見ていたのだ。


女の子は常に穏やかだったが、それでも赤だったり黄色だったり、青色だったりと様々な色をフロンにみせた。

それでも白色の色だけは失われることはなく常に女の子を取り囲むように現れていた。

フロンはその色がなんなのかがわからなかった。

気になって気になって、そしてやっと気付く。

この子は特別でそしていい子なんだと。


そう思ってからは早かった。

よく見れば感情を示す色の他に、灰色だったり黒だったり、とにかく白とは全く違う色を常に持つ大人が多かったのだ。

女の子とは正反対の色を持つ大人たちは、普段からあまりいい感情を持ち合わせてはいなかった。

だからフロンは気付いたのだ。

あの子は特別なのだと。

だから自分はこんなにもあの子の事が気になるのだと、フロンはそう思った。


そして人間と契約した同じ霊獣の話を聞き、自分が契約するのなら白の色を持つあの子しかいないと決めていた。

あの子の傍にいた人間と契約した霊獣を捕まえて、自分を紹介するように頼んだ。


ものぐさだったフロンはサラを観察するようになってから、よく動き、そしてよく笑うようになっていた。





だがフロンは自分の認識が違っていたことを知る。


今フロンの目の前には、キラキラとした魔法の残滓が降り注いでいた。

その光景はとても綺麗だった。

すぐに消える魔法だと知っていても、思わず手を伸ばして捕まえたいという衝動に駆られる程だった。


だがフロンが魔法の残滓に触れた時、ある記憶が蘇った。


自分が神という存在であったこと。

一人の人間の女性を愛し、そして己の所為で愛した人間を失ったことを。

兄と呼んでいたもう一人の神と共に作り上げ、大事に大切に見守っていた世界を、愛した人間を失った悲しみで暴走し、壊してしまう寸前まで陥らせてしまったことを。

そして再び目覚めた時、愛した人との子供を殺され、そして守れなかった時の絶望感がフロンを襲った。


フロンは神だった自分の記憶を見ながら泣いた。

頭が酷く割れそうに痛くても、息が出来ない程に胸が締め付けられても、流れてくるその記憶を拒否することは出来なかった。

寧ろ食い入るように見ていたのだ。大切で大事な記憶を、一つでも見落とさないようにと。

まるでもう二度と、再び見ることは敵わないとわかっているかのように。


全ての記憶が蘇った瞬間、フロンは一部の記憶が消えてしまったような喪失感が生れた。

神として存在していた頃の記憶だ。

その為神の力を手放した後、人間になった前世のフロンが愛した人間との記憶はあっても、どうやって出会ったのか、その記憶を思い出すことができなかった。

そして子供が授かった後の事も、フロンの中から記憶は失われていた。


まるで誰かが意図的に記憶を消したように。


子供はどうなったのか。

死んでしまった彼女の墓を作ることが出来たのか。


フロンは疑問に思った。

だがその疑問に答えることが出来る人は誰もいない。

どんなに長い間を生きることが出来る種族だったとしても、世界が作られた当時から生きている者なんてこの世に存在しないからだ。

それこそ、神の加護でもない限り。

だが神は平等だ。

贔屓なんてしない。してはならない。


そしてフロンはこれだけはわかった。

愛した人との子供の生まれ変わりが、サラなのだと。


記憶が失われたとしても、何故か感じる絶望感と喪失感と共に、次こそはと感じる使命感。


生まれたばかりの頃のフロンが、好奇心旺盛な他の霊獣たちとは違い、何事にもやる気が起きなかったのも、魂に刻み込まれた感情が無意識のうちに影響していた。


フロンは記憶がなくてもわかっていたのだ。

色があるからとか、他にはない白を持っているとか、そんなこと最初から関係なかったことを。

サラを見守るだけで、心が穏やかになっていた自分の感情を、当時のフロンは無理やりにでも理由づけたかった。

何故このような気持ちになるのかを。

自分の寿命ともいえる魔力を使ってまで、見る価値があるのかと。

だが人間と契約してしまえばそれこそ一生の付き合いになる。

気軽に契約など出来るはずもなく、それでもサラを見てしまうフロンには理由が必要だった。

だからフロンに見えていた色の存在が、理由作りにぴったりだっただけ。


答えがわかれば簡単な話だった。


自分の子の生まれ変わりでもある娘の成長をフロンはただ見守りたかっただけで。

その娘の傍にいたいと、ただそれだけで契約したいという気持ちがあったのだ。

自分にとってとても大切な存在である娘の成長を、記憶もなにもなかったフロンは、魂に刻まれた感情だけで無意識に行動していたのだ。


そしてフロンは思う。


記憶はなくなったが、より強く感じる喪失感と絶望感は、前世の自分が愛する人と共に子供すらも守れなかったことの証ではないかということを。


この幻想的な光景を生み出したサラが、世界が求めている特別な存在そのものなのだとしたら


今度こそ守らなければならない。と、フロンは決意した。









■視点変更終わり

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