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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~一学年~
17/105

3 寮






教材を配り終えた先生は一言だけ告げて教室を去っていってしまった。


先生が告げた言葉は学園内において、全ての生徒は等しく、社会的身分や性別に関わらず差別を行わないというもの。

それは先生たちが抱く教育信念だけではなく、生徒たちにも向けられているように感じられた。


(まぁ、平民の私としては平等に扱ってくれた方がありがたい…)


それよりも今解決しなければいけない問題は、山のように積まれたこの教材。

寮の部屋に家から送っておいた荷物が運びこまれているだろうけれど、荷解きをしなくてはいけないからこの大量に渡された教材を一度で持ち帰りたい私は手をかざして小さく呟いた。


「<ポイドズ・レジャー_軽量_>」


支援魔法の一つでもあり、日常生活でもかなり役立つ軽量の魔法を掛けると、積まれた教材は私でも楽に持てる程軽くなる。

ちなみに軽量の度合いは対象の物体に対して、どの程度軽くするかは魔力量に比例する。

だから高く積み上げられた教材に対して私は“それなりの”魔力量を込めたから軽々持てるようになったというわけだ。

…まぁ、大きさは変わらないから、はたから見たら凄い力持ちな見た目になるだろうけど。


よいしょっと持ち上げて、教室から出ようとしたところで目を見開くキアがいた。

先程も紹介したが、キア・ダザメリナ。

私と同じ平民の男子である。


「サラ、お前……すげぇ怪力だな」


「んなわけないでしょ。魔法よ魔法。

軽量の魔法を掛けてるのよ」


「その手があったな!俺も軽量なら使ったことあるし、それ使うわ。サンキューな!」


そう言って席に戻っていくキアに私は「また明日」と返して、今度こそ教室を出た。


使ったことがある魔法なら魔法陣だって問題はないだろう。





学校の正門から出て、右手側に進むと学生寮が建てられている場所へとたどり着く。

ちなみに左手側には先生たちの寮が建てられていて、学園の裏には広大ともいえる演習場所が広がっている。

寮は五棟の建物が建てられていて、学年ごとに分けられていた。

私がこれから生活する寮は一番奥に建てられている建物だ。

一棟ごとが大きいし、寮迄ひたすら真っ直ぐの道を歩く為余計に遠く感じられる。

そんな時だった。


≪グォオオオ!!!≫


_ガシャン!!!_


何かの雄叫びと何かが金属にぶつかる音が響き、思わず手にしていた教材を落としてしまうところを寸でで持ち直す。

そして音の元を振り向くと、木の向こう側に動物系の魔物が檻の中に閉じ込められた状態で、こちらを威嚇していた。

グルルルルと呻く魔物は檻がなければすぐにでもとびかかってきそうなほど苛立っている様子がわかる。


「え!?な、なんで魔物が…!?」


そう思ったのは私だけではない。

「キャアアア!」と悲鳴を上げて尻もちを着いた女子生徒とか、持っていた教材を地面に落としてしまった男子生徒達もちらほらといたからだ。

そんな私達の前にどこからともなく現れたのが、さっさと教室を後にした担任の先生だ。


「せ、先生?」


「アハハハハ!いやースマンな!

ここにいる魔物は学園で所有している魔物たちなんだ」


「が、学校で所有?」


い、意味がわからない。

魔物を所有?しかも学校で?と理解できない内容に首を傾げる。


「この学園には色々な目標をもってきている生徒がたくさんいるが、学園側は立派な騎士や魔術師に成長してもらいたいと思っているんだ。

日頃から魔物をその目で見てもらうことで、恐怖心で何もできないでいる臆病者にならないように。

その為に、学園のいたるところに魔物を置いているんだよ」


「そ、そうなのですのね…」


「わ、わかりました…」


思わず頷いた私達に先生はニコリと微笑んだ後、転んでしまった生徒を宙に浮かせ立ち上がらせてから姿を消す。


それにしても魔物に慣らさせるために至る場所に魔物を置くだなんて……、なんて常識破りなことをするのだろう。

魔物が逃げ出したりなんかしたらどうするのか。


でもこういう所が他の学園と違うところで、優れた教育を学べるところなのかもしれないと思いながら、私はふと思い出す。

高笑いして現れた先生の姿を。


…もしかして、すぐに先生が現れたのは生徒の驚く姿を見る為…だったりするのかなと思いながら、私はガシャガシャと檻に体当たりする魔物の横をビクつきながら通り過ぎたのだった。








「うわぁ…、すごい……」


私は今寮の前に立っていた。

学園と同じくらい大きい建物を見上げて、思わず渡された教科書を落としてしまいそうになる腕にグッと力を入れる。


「本当凄いよな。こんなデカいのに、俺たちだけっていうのが贅沢だ」


私が教室を出たすぐ後にマルコも教室を出ていたのか、いつの間にか隣に並び、私と同じように寮を見上げるマルコに私は無言で頷いた。


でも”私達だけ”の寮とマルコはいったけど少し違う。

目の前の建物は”一学年だけ”の寮なのだ。

魔法科に入った私達の他に、騎士科に入った生徒も同じ建物の寮を使っている。


寮の構造はこんな感じだった。

建物の真ん中にある入り口を潜ると広いエントランスホールがあり、食堂と談話室を兼ねているスペースがあって、そこから渡り廊下を渡って男子側と女子側で別れている。


渡り廊下を進むと、扉が勝手に開いた。

どういう仕組みになっているのだろうと思ったけど、両手に教科書を抱えていた今の私にはとても助かった。


扉を潜り抜けると、すぐ目の前には見取り図が壁に描かれており、浴場と書かれた部屋に、洗濯と書かれた部屋が一階部分にあったことを知る。

そして二階から上が全て生徒に設けられた部屋らしい。


事前に部屋の番号を教えてもらっていた為、私は迷うことなく自分の部屋に向かった。

扉を開けると、ふかふかなベッドに実家にあったクローゼットよりも大きなクローゼットと勉強机があって、さらに部屋にあった扉を開けるとシャワー室とトイレがある。


「一階に大きなお風呂があるのに、個別にシャワー室もあるだなんて…」


なんて至れり尽くせりなのだろう…。

部屋の大きさも実家の私の部屋よりも広く、これを一人一人に用意しているだなんて流石国一番の学園ね、と思う程だ。

しかも無料。すごくない?


設置されていた勉強机にどさっと持っていた教科書を置いて軽量化の魔法を解除した私は、部屋の真ん中に積まれていた荷物へと手をかけた。

実家から送っておいた配達物は各部屋へと届けられているため、今日配られた教材と共に荷解きを終わらせろという先生からの配慮である。


服に下着に…と、荷解きを終えた私は部屋がいつの間にか薄暗くなっていることに気付いた。

窓の外をみると空はオレンジ色に変わっていて、夕焼けに染まっていた。


こうしてみると王都といっても夕焼けの景色は同じだ。

日中私達を照らしてくれる太陽が沈む中、まるで今日も一日お疲れさまとでもいっているかのように空がオレンジ色に色づくのだ。






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