23 念願の食材
ギルド内からも落ち着きが見え始めた頃、私は二人と共にクエストが貼られている掲示板の前にたって吟味した。
ちなみにマイクたちとパーティーとなった時手続したあれは、正式にメンバーに入る場合のもので、一時的に組む場合は手続きは不要とのことだ。
だけどクエストを受注する際と完了報告をする際、全員揃った状態でないと受理されないと説明を受ける。
「どれがいいかなー」と楽し気に掲示板を見ているアレグレンさん。
「確かサラ…さんは、Cランクだったな」
「サラでいいですよ。ランクはルファーさんの言う通りCランクです。
でも実力はあるつもりなので任せてください!」
会った時にBランクと自分たちを紹介したルファーさんはパーティーを組む私のレベルが気になるのか、楽し気にクエストを探すアレグレンさんに「最初は簡単なものにしろよ」と念を押している。
私もルファーさんの考えに同感だ。
ランクが私より上ということ、そしてCランクから旅をしてきているということは場数も経験してきている二人というのは確実だけど、初めてのクエストは互いのことを知るために簡単な内容にした方がいい。
「じゃあこれなんてどうだ?」とアレグレンさんが指さしたのは『周辺捜査』。
多くの魔物が現れ討伐したということだが、ギルドとしても周辺の安全確認はしたいということだろう。
本当に脅威がなくなったのか、町周辺の捜査を依頼したいという内容のクエストに私もルファーさんも頷いた。
もうお昼を過ぎていたけど、町の周辺が安全ということを確認するだけなら大して時間もかからないだろう。
そして受付に提出して私達はクエストを開始する。
捜査なだけで討伐ではないことから達成基準もあやふやだけど、危険性は高くないことから難なく許可を貰えた。
アレグレンさんとルファーさんも亜空間鞄を持っていて、クエストに出発する前アレグレンさんは鞄から剣を取り出し腰へと付ける。
本人曰く『常にぶら下げてるとしゃがむとき邪魔なんだよね』ということで、通常は鞄の中に忍ばせているらしい。
ルファーさんは腰に備えている短剣を確認し、問題ないと頷いた。
二人とも握手をしたとき感じたことだけど、剣だこがしっかりと出来ているから相当振ってきているのだろう。
剣をメインにしていると考えてもいいようだ。
(だけど、ユーゴ達騎士科の生徒のように共鳴、っていうんだっけ?それが出来るわけではないよね?)
学園でも私達の年で卒業できたのは三人だと聞いているから、共鳴が出来るまでどれだけ辛い鍛錬をしなければいけないのか、騎士科の授業内容を実際に体験したからこそそのハードルの高さがわかる。
「サラちゃんは水属性かな?武器を持ってないところを見るとメインは魔法?」
「あ、はい。アレグレンさん達は武器がメインなんですね」
「そうそう。魔法も使うんだけどポンポン打っていたらすぐに疲れちゃうからね。温存的な意味で武器を使ってるんだ。
ちなみに属性は見ればわかると思うけど、俺は火属性で、ルファーは雷属性ね」
歩き進めながら私達は情報を共有する。
その中でルファーさんだけが霊獣と契約しているということも教えてもらった。
私が「アレグレンさんはしてないんですか?」と尋ねると、泣き真似をするアレグレンさん。
「どうやら攻撃系の属性は好かれないみたいなんだよね~」
と話していたが、同じ攻撃系でもある雷属性のルファーさんが契約しているのだから、きっと違う理由なのだろう。
本人目の前にして聞くのはあれだから、あとでフロンに聞いてみようと思う。
ルファーさんは霊獣を呼び出してアレグレンさんと共に跨った。
霊獣の見た目は大きなライオンって感じだ。
迫力があってかっこいい。
私はフロンに大きくなってもらって、二人と同様に跨り移動した。
周辺の捜査なのだからまずは空から見てみようということになったのだ。
「ちょ!ルファー!止まって!止まってくれ!」
ゆっくりと上空から森を見下ろして異常がないか確認していると、突然アレグレンさんが声を上げる。
バンバンとルファーさんの背中を叩いているが、そんなにしなくても気付いていると思う。
「なにかあったのか?」
「キラービーだよ!しかもでっかい巣まで作って…うわぁ!珍しい!」
目をキラキラさせてアレグレンさんが言った。
「…コイツ目が異常な程にいいんだ。
で、すまないがキラービーの蜂蜜を取りにいってもいいだろうか?」
ルファーさんは私にそう言った。
キラービーは蜂のような魔物で、一匹一匹は大して強くはないけど、毒を持っていることと群れとなったときの凶暴さから、ギルドではCランク相当に区分けされている。
だけどアレグレンさんがこんなに目を輝かせるには理由があって、キラービーの集めた蜜はとても美味で、どこの店でも高値で取引されているというのだ。
勿論私は食べたことない。
学園でもレルリラがキラービーを相手したと聞いてはいるが所詮幻影魔法のキラービーなので討伐後の蜂蜜は手に入らないのだ。
「私も蜂蜜大好きなので」
そういうとルファーさんはアレグレンさんの指示の元、少しキラービーから距離を取って地上へと降りる為私も続く。
そしてこそこそとアレグレンさんの後に着いて行くと、確かにキラービーと大きな蜂の巣があったことを確認した。
「サラちゃん、あそこだけ凍らせることって出来る?」
遠いけど、と続けられたが私は「できます」と即答した。
確かに距離はあるが私の射程範囲内ということは確実だからだ。
私はタイミングをアレグレンさんに確認し、いつでもいいという言葉から無詠唱ですぐに魔法を発動させる。
そして木にぶら下っている大きな蜂蜜……じゃなくて巣を凍らせた瞬間、キラービーが周辺を警戒した。
ギラリと鋭くなった瞳で周囲を警戒するキラービー。
これからどうするのかとアレグレンさんを見上げると「今のって無詠唱魔法!?凄いね!」と興奮したように話された。
「ちょっ、そんなに大きな声を出したら…」
流石にというか、予想通りというかキラービーに気付かれた私達は巣を凍らされ、とても怒っているキラービーに取り囲まれる。
「サラちゃん結界はれる?」
「…え、張れますけど」
「じゃあ自分に張ってて!」
行くよ!ルファー!とアレグレンさんが腰にぶらされた剣を抜いてキラービーに向かって駆けていく。
長い剣先を自由自在に操り、一匹一匹確実に撃ち落とすアレグレンさんの剣捌きも見事なものだけど、ルファーさんも両手に短剣を構え目にも止まらないスピードで倒していく。
CランクからBランクになるまでずっと旅をしていたと語る程に経験が見てわかる二人の動き。
私は二人の実力を感じるとともに今の自分が嫌になった。
(…なんか守られているみたいだ)
自分だけ結界を張って、戦っている二人を安全な場所で眺めるだなんて。
そんなの無性に腹が立つじゃない。
こんなの私が思い描いている冒険者の姿じゃない。
「…<ラーメー・デオー_水刃>」
二人のいる場所には魔法が行かないよう私は工夫しながら戦いに参戦する。
飛ぶ小さな標的は苦手だけど、怒りでいっぱいのキラービーは一直線に向かってくるからとても軌道がわかりやすかった。
それでも巧みに避けるキラービーもいるから、私は魔法の大きさを小さくし、それと同時に数を限界まで引き上げる。
どこに逃げても当たるように。
正直魔法陣の乱発で魔力というより、頭が疲れるような感覚がしてくるけど、そんなの関係なかった。
そして最後の一匹をルファーさんが倒すと、「すっげぇ……」とアレグレンさんが呟いた。




