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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編①
162/253

18 酒は飲んでも飲まれるな ※視点変更有







「あれ?」


パチっと目を覚ました私は、上半身を起こし辺りを見渡す。

見慣れた壁に机、カーペットやベッドを視界にいれて、ここが実家にある私の自室だということをすぐに理解した。


「なんで、…私、確かお店に…」


起きたばかりだが、はっきりと覚えている意識の中からできるだけ昨日の事を思い出す。


昨日はレロサーナからの手紙で久しぶりに三人で会おうよと王都に行き、レロサーナとエステルと共にご飯に行った。

手紙でやりとりしていて互いの情報はわかってはいるけど、それでも本人の口から直接聞きたいと思うことだってあるから、色々と話をしていた筈。

なのにいつの間にか私は自室のベッドにいる。


「…何故?」


頭をひねってもなにも出てこない情報に、私は早々に音を上げた。

そして当時その場にいただろうフロンを呼び出して、真相を確かめることに決める。


ボフンと煙を立てながら現れたフロンは、いつもは尻尾をピンと立たせているのに今回は私を見上げ、尻尾を垂れ下げていた。

まるで心配そうな眼差しを向けているようだ。


「昨日なにかあったか教えてくれる?」





□視点変更有り ※フロン視点とサラ視点が混在します□




三人で乾杯をし、早速初めてのお酒の味を堪能しようとしたサラを止めたのはエステルだった。


「サラはお酒は初めてだったわよね?」


「え、うん」


「ならちゃんと食べた方がいいわ。まだお昼ご飯を食べていないし、空腹状態でお酒を飲むとお腹にも悪いもの」


エステルに促されたサラは持っていたグラスをテーブルに置き、代わりに水が入ったグラスへと持ち替えた。

そして再び乾杯の動作をして水を飲んだ後、料理へと手を伸ばす。

とても美味しかったのか、目を輝かせながら食べていたサラは幸せそうだった。


(エステルとレロサーナはサラにとって面倒見がいいお姉さんのような存在なんだね)


サラがしっかりと料理を食べている間、レロサーナとエステルが一口だけワインを口に含み、「美味しい」と口にする。


「あらエステル、イケる口ね」


二人はサラとは違い飲みなれているのか、お酒の感想を言い合っていた。

そしてサラと同じように料理に手を伸ばす。


「そういえば冒険者ってギルドでわいわい飲んでいるイメージがあるのだけど、サラはお酒に誘われなかったの?」


レロサーナがサラに尋ねる。

サラは料理を飲み込むと答えた。


「さっきも言った通り平民の中ではお酒は十六歳になってからなの。マーオ町では成人になっていない人にお酒は進めないのよ」


だから飲んだことがなかったの。と答えるサラにレロサーナは「皆真面目なのね」と答える。


「そりゃあ十六歳って国で決められていると思っていたからね。バレたら捕まると思ってるんだからしょうがない」


サラはそういうと口元をナプキンで拭った。

そして遂にお酒がはいったワイングラスへと手を伸ばす。


そういえばサラの町のギルドでも冒険者の人たちはお酒を飲んでいた。

だけどコップが全然違う。

木で出来たようなまるで小さな樽のような見た目のコップを、サラの町の冒険者たちはよく手にしていたけど、今ここにいる三人の手にはちょっとでも力加減をミスってしまったら割れてしまいそうな軟弱なグラスをしていた。

だから乾杯時にもグラス同士触れることはさせずに、仕草だけしていたのだ。


「アルコールの匂いがするけど、…でも、いい香りね」


「でしょ?味もまろやかな中にコクがあってしっかりしているのよ」


グラスに花を近づけたサラはクンクンと香りを嗅ぐ。

サラの感想にレロサーナがうんうんと納得するかのように同意していると、サラはグラスに口をつけて一気に角度をつけた。

「あ」「ちょっとサラっ」と焦る二人の声と、ごくごくごくと喉を通過させる音が聞こえてくる。

グラスから口を離したサラが急ぐようにテーブルにグラスを置いて、口元を手で覆った。


「うっ!!!…な、なにこれ…、」


顔が真っ赤に染まるサラに僕は駆け寄った。

身体を摺り寄せると顔が赤くなるだけではなくて、サラの体の温度も上昇しているかのように少しだけ熱く感じる。


「さ、サラ?」


「どうしよう、…まさかここまで弱いとは思っていなかったわ…」


二人が席を立ちサラの周りに集まる。

はぁはぁと荒い呼吸を繰り返して、必死に空気を取り込んでいたサラに水の入ったグラスを渡した。


「とりあえず水よ!」


「そうね!サラ、水を飲んで!」


サラは差し出されるグラスを、まるで平衡感覚が麻痺したかのようなおぼろげな瞳で見つめていた。








『ここまでは覚えてる?』


首を傾げながら尋ねるフロンに、私は「な、なんとなく」と返す。


『じゃあ続きね』





「ふっろ~ん」


それからは顔を真っ赤に染めたサラが上機嫌で僕を構いだした。

頭を撫でたり、顔を摺り寄せたり。


サラに構われるのは好きだ。

本来なら星域に戻らずサラの傍にずっといたいけど、サラには一人の時間も必要だと理解しているから僕は素直に星域に戻っている。


だけど今のサラからはお酒の匂いがして、こういってはなんだがあまり気分が良くない。


サラは僕の体を床に押し倒し、体_毛_にぐりぐりと顔をうずめる。

僕はサラとエステルとレロサーナに視線を往復させた。


「ごめんね、フロン…」「本当に、ごめんなさい」


申し訳なさそうに謝る二人に、僕はふるふると首を振った。


こればかりは誰も悪くないからだ。

酒を飲んだこともないから、加減がわからなかったサラ。

サラが飲んだことがないから、どれぐらいお酒に弱いのか二人は知らなかったし、僕も知らなかった。


(ここまで弱かったことをしっていたら、流石に止めるからね)


そんなことを考えていると、急に体に重みを感じた。

視線を下げると、そこにはぐっすりと眠ってしまったサラがいた。


「どうしよう、眠ってしまったみたい」


「フロン、サラは王都に宿を取っているの?」


その問いに僕は首を振る。

霊獣は契約者以外には言葉が通じないからね。


「確かサラの町は王都から遠いのよね?だから休暇中も一度も帰らなかったわけだし…」


「あ、もしかして転移魔法が使えるようになったとか?」


僕は頷いた。

短い距離ではあるが、それでも転移魔法を使えるようになったサラは、練習がてら帰りは転移魔法で帰るつもりだったと言っていたからだ。


「さすがはサラね」


「本当ね。学園を卒業しても努力し続けるだなんて」


「私達も見習わないとね」


感心する二人だけど、今はそれどころではない。




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