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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編①
160/253

16 視点変更_嫌な夢② ※残酷な表現有




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「お、おい!聖女サマよ!早くしてくれ!」


剣で襲い掛かる魔物の動きを止めている男が、額から汗を流し顔色が悪い女性に向かってそう叫ぶ。


魔物の物理的な力が強い為か、魔物と交わう剣とその剣を操る男の腕がぶるぶると震えていた。

黒い瘴気の隙間から鋭い魔物の牙がきらりと輝き、男の首筋には一筋の汗が流れる。

もう少しで魔物の牙が男に触れるというその時だった。


「<我が手に集う炎よ!敵を焼き放て!>」


女に対し声を荒げた男の限界が来る前に、もう一人の男が魔物に対して炎を放つ。

さらりと軽やかに炎を避けた魔物に、炎の魔法を放った男が舌打ちをした。

放たれた炎は男が魔法継続を解除したのか、草木に広がる前にすっと消え去る。


「くそっ!おい!もう一度引き付けてくれ!」


「了解です!」


「お前もだ!ナックスと共に魔物の動きと止めろ!」


「はい!殿下!」


「強化魔法も付与しておけよ!」


「はッ!」


金色に輝く髪の毛を靡かせた男が周りの者たちに指示を出し、指示を出された者たちはその言葉通りに動く。

一人は剣を構え、再び魔物に対して剣を向ける。

一人は、腰に括りつけていた短剣を両手に構え、もう一人は他の男たちに対して強化魔法を付与するために呪文を唱えた。


そんな光景を、涙を浮かべながら一人の女性が見ていた。

恐ろしい魔物に対して勇敢に戦う四人の男たちを眺めている女性の体は、地面に尻を付けた状態で震えていた。

そんな女の様子に指示を出していた男が睨みつける。


「…本当に役にも立たないな!お前がぶるぶる震えている間にもナックスは傷をおいかけたのだぞ!?」


「あ、あたしは…!」


「言い訳する暇があるならば早く浄化をしろ!」


鋭い目つきを女性に向けて男が言い放った。

女はきゅっと口を結び、震える両手を合わせる。


「…じょ、…浄化!…」


その瞬間、じゅっと音がした。

対峙している魔物の体を覆っていた黒い靄がなくなり、魔物の体が元の色に戻り始める。

そして魔物の体が戻り始めたことをきっかけに、次第に弱まる魔物に戦っていた男たちが押し始めた。


剣が魔物の体を引き裂く。

赤い魔物の血が剣に絡みつき、振り落とす度に血が遠くまで飛び散った。


勝利を収める様子を見た男は安堵し心を落ち着かせた後、女性に向き直る。


「聖女サマよ、ちゃんと仕事をしてくれよ。

アナタが浄化しない限り戦いは終わらない。

アナタが浄化しない限り我々が、いやこの国全ての者達が傷つき、命を落としていくんだ。

そして浄化の力しかない貴方が一人になれば、誰が貴方を守るのか。よく考えよ」


男の言い分はもっともだった。


瘴気は聖女の持つ力でしか浄化出来ないことも、瘴気に乗っ取られた魔物は操り人形のごとくどこまでも戦い続けることも。

例え魔物の身が滅んだとしても、だ。

魔物を取り込む瘴気を浄化し、そのうえで魔物を倒さなければどんなに優れた人物でも最後は倒れてしまう。

だからこそ、男の言っていることは正しかった。


だが。


ゴフッと咳き込んだ女の口から、血が飛び散る。

咄嗟に口元を手で押さえても、血で染まった草と、指の間から流れる血は隠し切れなかった。


「はぁ」と小さく音がした。


女性はその小さなため息が誰のものなのか見てわからなくても、想像はついた。

何故ならこの状況で女性の近くにいたのは、先程女性に対し言葉を連ねた男ただ一人だけだったからだ。


女性の目に涙がこみ上げ始める。


(なんで、どうして)


想像もしていなかった現状に、女性の心が壊れ始めた。


_確かにあたしはゲームに似たこの世界で、聖女だと言われて、ゲームの中に入り込んだと歓喜した。


_でもそれはイケメンたちに囲まれて、現実世界じゃ出来ないような経験ができるんだって、ゲームのようにちやほやされるんだろうなって、そう思ったからだ。


_こんなのは聞いてない。


_最初は浄化の度に疲れたから、魔力がないと判断されたあたしは体力が失われているのだと思った。


_でもすぐにそうではないことに気付いた。


_頭がぐらぐらして、激しい頭痛が起こって。


_今では手も足も震えて、吐血までした。


_この力は一体なんなの?



咳き込む女性に一番近くにいた男性が近づき、背中を撫でる。

だが女性は気が休まることなどなかった。

背中を撫でる男の目が冷ややかだったからだ。


二人の様子に気付いた他の男たちも寄ってくるが、女性に対して何も口にすることはなかった。

先程の浄化に対して感謝の言葉すらもなかった。


そして女性が落ち着いたところで、旅が続けられる。


明らかに足取りが重くなった女性の様子をみる男性たちの目は冷たかった。

口では心配の言葉を発していても、休みを提案する言葉は誰一人として言わなかった。

『聖女サマ』と敬うような言葉を口にするが、血を吐き出す女性に対し、更に血を吐く原因と思われる浄化を促す。






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