6 冒険者の現実とパーティーの脱退
そして次の日、私は現実を知った。
Fランクのクエスト内容は確かに小さな子供でも出来るほどに簡単な内容ばかりが並ばれていたが、Dランクのクエスト内容も特に変わらなかったのだ。
確かに魔物の討伐だって出来るようにはなったが、それでも制限がかけられていたのだ。
わかりやすくいうと、Dランクが認められている討伐対象の魔物は、私が四学年の時に初めて学園の幻影魔法ではあるが魔物との実戦訓練で戦った時のレベルだ。
いや、寧ろもっと優しいかもしれない。
大剣を振り回すマイクと短剣を扱うリクスの先には小さなスライムが数十匹いて、フィナは二人に支援魔法を、エルゼはその周りの薬草採取をしていた。
役割分担もいいけれどあまりにも持て余している感が担えない。
「ちょっと!貴女!何をサボっているの!!」
目くじらを立ててフィナが私にそう言った。
いや、だってね……。
スライム相手に私の出番なくない?
寧ろフィナの支援魔法もいらないんじゃないかな?
いや、この場合はエルゼの手伝いをした方がいい?
「アンタ!魔法なら何でもできるんでしょ!?なら倒してみなさいよ!」
あ、薬草採取じゃなくて討伐の方を言われていたのね。
思わずフィナの言葉に目が点になってしまうが、私は気を持ち直してスライムたちに視線を向けた。
「………私が倒してしまってもいいんだよね?」
そう問うと鼻を鳴らすフィナに同意したものと判断して、スライムの方向へ手をかざす。
「<ラーメー・デオー_水刃>」
私以外にも人がいるから、メンバーに危害を加えないよう敢えて地面から空に向けて水属性で刃を生み出し、そのままスライムたちを両断する。
両断されたスライムは形をぐにゃりと崩し、そのまま地面へと吸い込まれた。
マイクたちがいる周辺のスライムを片づけた後は、次に私の向かって右側に大量にいるスライムを同じように討伐し、そして左側も同じように魔法を放つ。
そしてあっという間にスライム討伐のクエストは完了した。
「すっげー!サラすげーな!」
「ほんとほんと!あっという間に終わっちゃったよ!サラちゃんって天才!?」
キラキラとさせた目を私に向けるマイクとエルゼに私は悪い気はせずに「それほどでも~」と答えていると、気に障ったのかフィナが声を荒げた。
「………ッ!なんなのよ!!!」
キッと私を睨みつけるフィナに、たじろぐ私。
そんな二人の間にマイクが入った。
「ちょ、ちょっとフィナどうしたってんだよ?」
「どうしたもないわ!ちょっと魔法が出来るからって!」
「いや、ちょっとってレベルじゃないだろう。普通にすご_」
思わず口にしてしまったのか、フィナを逆立てるような発言をしたリクスははっとして口を押えた。
口に出してしまった以上フィナの耳にも届いているだろう。
流石に私も居心地が悪く感じてくる。
「マイク!この女が入ると私達のパーティーのパワーバランスが滅茶苦茶になるわ!
やっぱり私はこの女がパーティーに入るのは許可できない!今すぐ出て行って欲しいくらいよ!」
そう叫ぶフィナにマイクが眉間に皺を寄せる。
「昨日はフィナも許可していただろう!それにこの女ってなんだ!サラは俺たちのパーティーメンバーだぞ!」
「私は認めてないわ!アナタがどうしてもって頼むから頷いただけよ!」
「それを認めたっていうんだよ!大体サラが何をしたっていうんだよ!昨日から感じ悪いぞ!?」
私は小さく息を吐き出した。
雰囲気が明らかに悪くなり、私を庇おうとしてくれたマイクには悪いと思ったが、このままではいけないと考え、二人の間に割って入る。
「なによ!?」
「サラ!俺がフィナにちゃんと言い聞かせる!」
マイクの言葉はとても嬉しい。
幼馴染として、なにも言わずに離れた私のことを今でも親しい友人と思ってくれているからこそ、告げてくれている、そんな気持ちが伝わってくるから。
だけど今、マイクがフィナの気持ちを無視して、無理やりにでも押しこめようとすると本当にヤバいと私でもわかる。
マイクが築いてきたパーティーを途中から入ってしまった私の所為で、ダメになるなってことはあってはならない。
私は気持ちをしっかりと持つために深く息を吸った。
「……私が原因でパーティーの雰囲気が悪くなっているのなら、私はこのパーティーから抜けさせていただきます」
「なっ!?」「!」
驚愕に目を見開くマイクと、嬉しさに口元を緩ませるフィナ。
両極端な二人の反応に、私は思わず苦笑する。
そして申し訳なさそうな表情を浮かべるリクスと、不安そうなエルゼを私は視界にいれた。
大丈夫。
すぐに今まで通りに戻るから、もうちょっとだけ待っててね。
そんなことを伝わる筈もないのに、心の中で呟いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺はサラにいてもらいたいんだ!
フィナが分かってくれれば、雰囲気も悪くならないだろう?」
「なにをいってるのよ!この女が自分から抜けるっていってるんだから、それで済む話じゃない!
引き留めなくてもいいわ!」
「お前は黙ってろ!」
「なっ!?」
「私から言うとマイクも黙っててほしいわ」
「サラ?!」
私のことを庇うマイクに対し酷い事とはわかっていても口にすると、悲痛な声を上げるマイクに私は向き直る。
「…私、確かにマイクにパーティーに誘われて嬉しかったわ。だって幼馴染に久しぶりに出会えて、それでもう一度仲良くしようと言って貰えるのって、普通に考えて嬉しいでしょう?
でもね、私はマイクやリクスが積み上げてきたパーティーの絆を壊すような存在になんてなりたくないのよ。
だから、今日をもってパーティーから抜けさせていただきます」
「サラ…」
私の名を呼び呆然とするマイクを見てから、私は今度はフィナに体ごと向ける。
「フィナさん。ご迷惑をおかけしました。
今後は同じ冒険者として、顔を見合わせることがあると思いますが、仲良くしていただけたらと思います」
「……」
にこりと微笑みかけてみたが、ふいっと顔を逸らされたため私は苦笑するしかなかった。
まぁ、勝手に恋敵認定されてしまっているから、いい返事なんて期待できるわけないわね。
「エルゼ、リクス、短い間だったけど楽しかったわ。ありがとう」
そして不安そうな二人に近づいて私は感謝の言葉を伝えると、二人は眉尻を下げて微笑んだ。
エルゼの目元には涙が込み上げている。
短い期間で、全然交流を深めたわけでもないのに、別れを惜しんでくれる彼女に胸を打たれた。
「サラちゃん…、私も楽しかったよ!」
「すまんかったな…」
こうして初めてのパーティーはあっさりと幕を閉じ、次の日から一人で行動することになった。
貴族も平民も、色恋沙汰にはもう勘弁だわ!




