2 Fランクの私
ギルドに登録し終えた私は早速、ランクごとに貼られているクエストの掲示板の前に立ち、クエスト内容を吟味する。
「うーん、やっぱりFランクってクエスト内容が低いんだなぁ」
私は両腕を組んで眉を顰める。
元々Fランクというのは冒険者になり立ての人向けのクエストしかない。
つまりどういうことかというと、私が冒険者になりたいと思った子供の頃でも出来るような、“小遣い稼ぎ程度”に稼げるレベルまでのクエストしかないのだ。
つまり報酬が低いし、クエスト内容のレベルも低い。
“飼い猫のお散歩をしてほしい”
“お遣いに行って欲しい”
いかにも子供向けのクエスト内容だが、中には”話し相手になってほしい”という内容までもある。
(できればクエスト内容に贔屓しているようなことはしたくないけど…)
でもランク上げの為には依頼の達成と成功率、そして累計報酬金額が必要だ。
それがCランクまで続けられるとなればなるべく高い報酬を引き受けたい。
うーんと悩む私に一人の女性が声を掛ける。
「…サラちゃん?どうしたの?」
最近まで聞いた声。
「アラさん!」
□
悩みというほどでもないが、アラさんにクエスト内容に疑問を抱いた私は相談することにした結果、画期的な回答を頂くことが出来た。
それがポーション制作だ。
「まさか今ポーション不足だったとはね~~!」
Fランクの冒険者といってもギルドが貼りだすクエストのみが受けられるわけではない。
中には薬草採取のように常時募集しているクエストもあり、ポーション制作もその一つなのだ。
しかもアラさんの話ではよく出来たポーションは、薬草採取よりも高値で買い取ってくれるらしい。
学園でポーション制作を習った私向きのクエスト内容だ。
ルンルンといい気分でポーションを制作していくが、そこで一つ困ったことが出来てしまった。
「…容器はどうしよう…」
ポーションは基本防腐剤なしの飲料水だ。
保存期限を延ばすために防腐剤を取り入れてもいいが、使用する防腐剤に合わない人達が飲料することで発疹などの反応を示してしまうことがあることから、原則防腐剤は使用してはいけないこととされている。
だが保存期限が短い。ならその問題をどうするか。ということで魔法研究所で開発された容器のレシピが全国的に伝わった。
そして特別な容器にいれることでポーションの保存期限を引き延ばすことが出来ると広まってから、ポーションの容器戦争が始まったのだ。
見切り発車で始めたポーション制作。
容器のことも全く考えずに始めた為に、手元には質の高いポーションは出来たが保存する容器はなかった。
私は悩んだ。
このままではどんどん効力が失われてしまう。
下手したらポーションが悪くなってしまうと。
「…飲んで効果をみてもらおう」
私はそう決断した。
勿論飲んでもらうのは冒険者でもギルドの人達でもない。
大きな鍋に一つ作ったくらいではあったが、私のポーションを気に入ってくれる容器製作者がきっと一人くらいはいるだろうと、そう思いお父さんへと相談する。
そして
『そういえば、まだ見習いだがいるにはいるな』
というお父さんから教えてもらったのだ。
流石に容器製作には一般的には明かせない企業秘密というものがあり、その為一人前になるまでには長い年月が必要になるらしい。
だが見習いでも容器は作れるには作れるということで、私はお父さんにその人紹介してもらった。
そして大切な保管期限の効果も確かに確認できたことから、ギルドに納入。
買取を行って貰った。
容器分を差し引いてもかなりの金額になり、早々にランクアップを期待したのであった。
だけどランクアップには流石に他のクエストも行わなければいけないらしく、私は再び掲示板の前で腕組をする。
「畑の収穫作業、○○さん家の屋根補強そして△△さん家の草刈り、ポーション容器の材料集めに薬草採取…」
うーん。全体的に受けられるクエスト内容が低すぎる。
しかも薬草採取は常時募集のクエストだ。
マーオ町が田舎町だということもあるだろうが、それでも魔物討伐を授業でやってきた人としては物足りなさを感じてしまうのも仕方ないだろう。
だが、私は新米のFランク冒険者。
こういう塵も積もれば山となるを実行してこそ、真の冒険者よ。と自分を納得させて掲示板に貼られていたクエストが書かれていた紙を全てはぎとった。
「よし!出来るものから一通り引き受けますか!」
そして早速受付にはぎとった依頼達を差し出すと受付のお姉さんが少し困ったような表情を浮かべる。
いくらFランクとは言え複数の依頼を同時に、しかもパーティーも組んでいない人間が引き受けようとするのは稀なのか、それとも別の理由が……。
ハッ!
「…あの、もしかして一つずつ受けなきゃいけないとか、そういうルールだったりします?」
私は恐る恐る尋ねた。
するとお姉さんは首を横に振る。
よかった。そういうルールはないらしい。
ちなみに受付のお姉さんと私が言っているのは単純な理由だ。
私の知らない人だから。
流石に五年も町から離れていたら知らない人の顔も増えるわよね。
「複数の同時受注は可能ですが、流石にサラ・ハールさんは冒険者になられたばかりですので最初は一つ一つ行うことをお勧めします」
「えっと、……依頼内容的にすぐ終わるかと思うのですが、それでもダメ、ですかね?」
粘る私に受付のお姉さんが苦笑する。
「クエストはいずれも依頼者が冒険者の皆様に助けを求めてお願いしていることです。迅速に、そして優先的に行っていただくことが依頼者の為にもつながりますので、まだ冒険者になり立ての方には複数の同時受注はお勧めしていないのです」
私は受付のお姉さんの言葉を聞いて、そっかと納得した。
いくら私が出来るといって複数受けたとしても、私が他のクエストを優先して動くとその分他のクエストは後回しになってしまう。
でも受注せずに他の冒険者が引き受けたのなら、依頼者はその分早く終わらせてもらえるのだ。
私が出来る出来ないの問題ではなくて、依頼者目線で考えることも大切な事なのだと受付のお姉さんの言葉を聞いて思った。
「わかりました!では最初は_」
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