1 ギルドへの登録
ここから2話ずつ投稿していきます。
私はマーオ町に戻ってきた。
五年ぶりの実家の自室から外の景色を眺める。
青空が広がり、太陽が大地を照らす。
綺麗な空気が穏やかに草木を揺らし、道端の花は明るく輝く太陽に向かって元気よく微笑んでいるようだった。
学園にいた頃とはまた違った空気を胸いっぱいに吸い込んだ私はふと見下ろした。
(懐かしいな……)
サラ、とまだマーオ町で暮らしていた時呼びかけてくれたニーナがいて、そしてマイクやリクス達とともにギルドに通っていたっけ。
まだ五年。
もう五年。
長いようで短いそんな年月に私は一人口端を上げて、そして寝間着から着替えた。
□
「もう…、一人で大丈夫だよ」
私は私を引き留めるお父さんにそういった。
家の敷居をまたぐ瞬間のこと。
お父さんは青ざめた表情で朝早くに出かけようとしていた私を引きとめたのだ。
実は昨日無事学園を卒業出来た私を祝うために、お父さんは秘蔵のお酒を出して、お父さん一人でお酒を飲んでいたのだ。
私の卒業を祝うためなのだから、私も一緒じゃなくていいの?と思うかもしれないが、この国での成人は十六歳。
私は学園を卒業したとはいえ、まだ十五歳の為アルコール飲料を飲むことは認められていないのだ。
そのためお父さんは一人で飲んでいた。
え?お母さんはって?
確かに私が子供の頃からお母さんがお酒を飲んでいる姿はみたことがなかった。
もしかしてお酒が苦手なのかな?
とにかく、お父さんは一人でお酒を飲んでいたのだ。
その為二日酔いで表情を真っ青に青ざめたお父さんが私を引き留める。
冒険者登録をしようと出かけようとしている私を心配しているようだが、今のお父さんを見ていると私よりもお父さんの方が心配だ。
「引き留めないで、ここは素直に見送ってあげなさい。
というか、貴方が昨日ガバガバお酒を飲まないでいれば一緒についていけていたでしょう?!」
お母さんがお父さんにいうと、お父さんは耳…というより頭を押さえて縮こまる。
「で、デカい声出さないでくれ……」
そういって頭を抱えるお父さんに、お母さんはため息をついて私にウィンクをした。
『行きなさい』という合図だろう。
五年ぶりという期間はあるが、それでもそんな年月を感じさせないお母さんに私はくすりと笑って駆け出した。
「行ってきます!」
そういうと、お母さんは私に
「気を付けるのよ!」
と声を掛ける。
私は手を振ってお母さんに答えた。
□
王都や今まで通っていた王立学園に比べればそれほどでもないが、それなりに広いマーオ町にあるギルドは、町を囲っている柵の外側に位置している。
なんでもギルドはマーオ町が出来た当初からあるわけではなかったらしく、後から設置の申請が行われ、柵の外に作ったそうだ。
当時の人の考えがどんなものかはわからないが、町の外に作るだなんて、なんとも大雑把な考えを持った人がいたのである。
とにもかくにも、私はギルドの前までやってきた。
五年ぶりのマーオ町だけど、今まで自分が生まれ育ってきた町ともあって、迷わずやってこれた。
そうして訪れたギルドは本当に久しぶりだった。
朝から冒険者に依頼する為にくる人達や、そんな依頼を引き受けに来る冒険者の人達でごった返している。
中には朝ごはん目当てで来る人もいたりして、受付の人にご飯の有無を聞いている人もいた。
「…本当に、久しぶりだわ」
目の前の光景に感動している最中ではあったが私はすぐに意識を切り替える。
だってこれから私は冒険者として冒険者登録をするのだから。
私はまず受付に足を向けた。
こんな田舎町では冒険者になろうとする登録者すら稀なのか、依頼受付と新規登録者の窓口は一緒だった為に大人しく行列に並ぶ。
どれぐらい時間がかかるのだろうかと、内心嫌々していたが実際にはそんなに時間はかからずにすぐに私の番になった。
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
見知らぬ顔の人が私に尋ねた。
私は冒険者として登録がしたいと申し出ると、二枚の用紙を差し出した。
「ではこちらの紙に書かれている内容を確認の上、承諾していただけるようでしたらサインをご記入ください。併せてもう1枚に書かれている質問事項にもお答えください」
そうして差し出された紙に目を通すと、後ろに並んでいた筈の人がのぞき込む。
「今は“こんな感じ”なんだなぁ」
「…はい。昔は口頭で説明していたそうですが、聞いていないと主張する冒険者も多く…、こうして紙でお渡しし確認してもらった後でサインをいただく形となりました」
受付の人は私と、そして声に出して呟いた人にも答えるようにそう言うと「なにかご不明点はありますか?」と尋ねる、
実際に尋ねた人は空いた受付の方に行き、私は気にせずに違うことについて尋ねた。
「ではランクについて教えてください」
「はい。まずギルドの冒険者ランクは7つのランクから区別されます。
Fから始まり、E、D、C、B、A、そして一番上のSランクです。
Bランクまでは依頼の達成数と成功率、そして累計報酬金額等で評価され自動的に昇格されますが、Aランクは先程の評価基準に加え、ギルドからの試験を合格した者のみランクを上げることができます。
そしてSランクですが、これはAランクの冒険者が最低条件であり、国から認められたもののみが与えられるランクとなります」
「え、国?」
「はい。この国の太陽であらせられる国王陛下の承認の元、Sランクへの昇格が認められるのです」
受付の説明を聞きながら、手渡された紙に目を通してみてもAランクまでの昇級内容しか書かれていないことを見ると、恐らく見込みがある人物にしか伝えてなかったのだろう。
今回は私が聞いたから教えてくれたのかもしれないが、それでもS級になるためには王様から認められる事が条件というのは大変そうだ。
Sランク冒険者という目標は変わらないが、とりあえずはAランクになることを目標として励もうと私は心に決める。
そしてその後は質問内容が書かれている紙に答えていき、ようやく冒険者登録が終わった。
冒険者の証として、手の甲にギルドマークが刻まれる。
といっても魔力を通すと浮き出る仕組みで、通常は見えない仕様の為気にするようなことではなさそうだ。
ちなみにこれも、昔はカードが発行されていたそうだが紛失する者がギルドの想定を超えていたために、改めたらしい。
時代は進歩するものだ。
しかもこのギルドマークには様々な仕掛けがあるらしい。
ギルドは勿論、各領地の門番等に置かれている魔道具にこのマークをかざすことで、個人の情報が浮かぶ仕組みになっている。
だから登録時に記入を求められた名前や学歴など、公開して問題ない情報、そして損に繋がらない情報などを選択して設定する。
今もし仮にマークを魔道具でかざされたとしても、私の名前、性別、出身、登録ギルド、学歴、ギルドランクのみが表示されることだろう。
遂にあらすじに書かせていただいた冒険者編スタートです!ここから動き始めます!!




