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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~五学年~
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32 閑話 視点変更 悲しみ溢れた卒業パーティー




■視点変更



卒業試験も終わり、各科分かれて卒業パーティーが行われていた。


パーティー会場に使用している練習場は普段の姿を変え、設置されたいくつもの大きなテーブルの上にある銀の食器には色とりどりの料理が並び、シャンデリアが照らす下でたくさんの人々が談笑していた。


魔法科は魔法科クラスで、人数が少ない騎士科、サポート科、経営科は同じ会場で。

参加自由なパーティーとはいえ、保護者も参加することから殆どの生徒か参加するパーティーの中、一人の生徒が涙を浮かべていた。


「おい、もういい加減元気出せよ…」


筋肉隆々な体つきで、卒業とはいえ学生とは判断が難しいほどに鍛え上げられたその肉体の男は、男性よりももう一回り大きい体をした男性の背中を撫で、必死に慰めていた。


涙を浮かべている生徒の名前はユーゴ・ガストン。

騎士科の中で一番の成績優秀者だ。

誰よりも励み、誰よりも先に共鳴に辿り着いた人物。

だがその成果を驕ることはなく、クラスメイトのムードメーカーとして存在していたユーゴは同じクラスメイトに慕われていた。

だからこそ卒業という祝い事、また学生最後の思い出としていいパーティーとなるよう楽しもうという気持ちの中で、涙を浮かべるユーゴを誰も放置することなく寧ろ時間の許す限り慰めていたのだ。


「だって、パーティー会場が別だとは思わなかったんだ……」


パーティーのエスコート役を申し込もうとしたユーゴは、サラの担任でもあり魔法科の先生であるヒルガース先生にご家族との時間を大事にさせてやってほしいという言葉に諭された。

勿論今でもその時の気持ちは変わっていない。

学生時代一度も帰省することが出来なかったサラのご両親に会えずに寂しかった気持ちを考え、自分ではなくご家族との時間を優先して欲しいと考えた。

だからエスコートも取り下げ、「話って何?」と聞いてきたサラに「あ、いや、なんでもないんだ」と挙動不審気味に答えた。

でもだからと言って全くの思い出もなく終わらせようとなんて思ってもいなかったユーゴは、一度だけでもダンスをしてほしいという気持ちがあった。

卒業試験である武器との共鳴化を長時間維持することに成功したユーゴは、いそいそと皺ひとつないスーツに身を包み、どう誘えば好印象を与えるだろうかと考えていた。

だからこそ会場自体が違うことが分かった瞬間泣いた。

そして会場の隅に小さく丸くなったユーゴには、錯覚なのかキノコが育っている幻覚が見える程だ。


ユーゴの気持ちを知っているクラスメイトは小一時間、悲しむ友達の姿に眉を下げる。

周りは_といっても騎士科以外の生徒だが_楽しんでいる中、ユーゴだけが悲しんでいるのだ。

ちなみに騎士科の親御さんたちは腕っぷしを比べ合うために親通しで腕相撲をしていた。

勝利した者に敗者が何度も挑んでいたり、武器の持ち込みが禁止であるにも関わらず何故か己の武器の自慢をしていたりした。

魔法科のパートナー会場よりもカオスな空間である。

だからこそユーゴの親もこの場に居たが、慰めることも叱咤することもなかった。


「そんなにいうなら、魔法科の会場に行ってみるか?」


クラスメイトはそういった。


パーティー会場が何故わかれているのかというと、保護者が参加する為十分な空間を確保するためを理由としているが、いくら貴族だからと言っても筋肉自慢が繰り広げられる状況はあまりにも笑えなかった。

無礼講といっても流石にそれは…と、楽しめるパーティーも心から楽しめることが出来ない人が続出したからこそ、人数の関係という理由で分けられた。

ではサポート科、経営科はどうかというと騎士科に比べると真面な生徒と親が揃っていた。

当たり前だ。情勢を把握して主に必要な魔道具を生み出すサポート科と、後継者となってこれから家紋を引き継いでいくものが、頭のネジが外れていたらどうにもならない。

だが、だからこそこういう_筋肉主義_考えの人がいるのだと、平和を保つためには魔法だけではなくその人_筋肉主義_達も必要なのだと知らなければならないという、ななめ上の考えからパーティー会場が一緒になっていた。


そしてクラスメイトの何気なく発した言葉にユーゴの目が開いた。

泣いて腫れて赤くなった目が、見開いたのだ。


クラスメイト達はやっと元気になったかと喜んだ。

そして氷を持ってきて、腫れたユーゴの目に当てた。

「そんな目で行く気か」「サラさんが心配してダンスを踊れないかもしれないぞ」「袖もびしょびしょじゃないか」「着替えはあるのか」

と心配する声の中ユーゴは立ち直った。


そしてクラスメイトに見送られる中ユーゴは魔法科のパーティー会場に向かったのである。

羽が着いたかのように足取りは軽く、スキップで移動してもそのスピードは速い。

そもそもユーゴにはゆっくり移動する考えはなかった。

小一時間程泣いたとはいえ、その後も目の腫れを治すために冷やしたり、涙で濡れた服を着替えたりと、色々時間がかかったからである。

参加自由なパーティーではサラがいつ帰るのかまでは誰もわからない。

それこそサラと同じクラスメイトだってわからなかった。


そして魔法科のパーティー会場に辿り着いたユーゴは、ご両親の元から少し離れた場所にいるサラのことを見つけた。

何故サラの担任であるヒルガース先生の近くにいるのかという理由まではわからなかったが、ダンスを申し込むのなら今だと会場に踏み込んだその時だった。


誰か_といっても時間短縮のために生徒を良く転移させる人物は特定できる_の発動した魔方陣がサラの足元に現れ、そして黄色い魔力に包まれたサラは姿を消す。


ユーゴの目の前で、ユーゴがダンスを申し込む前に、サラが姿を消したのだ。


ユーゴはその場に座り込んだ。

そして止まった筈の目からは涙が零れ落ちる。


学園最後の思い出を作る生徒が多い中、一人の生徒が涙したパーティーであったことは、ユーゴに気付いた人だけが知ることだった。



視点変更終わり

ユーゴを最後に出したくなりました…(笑)

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