29 卒業パーティー
そして表彰式。
表彰式と言っても特に大げさな催しはなかった。
一位と二位の私とレルリラは、おめでとうと真っ黒なぬいぐるみを貰った。
「先生、これなんですか?」と思わず尋ねた私に、「先生がデザインした今回の卒業試験で登場したオートマトンだ。かわいいだろ?」と先生は答える。
あれ、先生がデザインを考えたんだ。
触手みたいな手足が虫のようであまり可愛いとは思えなかった私は、先生の言葉にどう反応していいのか悩んだものだ。
ちらりとレルリラをみると、何故かじっとぬいぐるみをみて固まっている。
もしかして男子にはこれがかわいくみえるのかもしれないと考えた私は、意外と疲れているのだろう。
そして一番盛り上がったのは試合で上位三位になった五人で、誰が勝つのか決めたこと。
他クラスの生徒を倒した五人はすぐに棄権を訴えたようだが、アコが最初に口にしたことから他四人がその座を争うことになった。
そして行われるもう一試合。
私はこれで時間が取られるから、私とレルリラの試合の決着がつかなくても、強制的に終わらせられたのかと悟る。
そしてシェイリンが三位に決まり、サー、マルコ、キアがその後に続いて順位が決まったのだった。
■
雨の日のトレーニングとして使っていた練習場は殺風景な印象を与えていたのに、高級そうな生地を使い作られたカーテンやキラキラと輝くシャンデリア、そして綺麗に設置されたテーブルクロスや食器、豪華なディナーたちによって印象をがらりと変えていた。
そしてそんな会場に驚く私は、アコ達貴族令嬢が連れている従者の手によって、綺麗にドレスアップさせられていた。
肩に余裕でつくほどに伸びた髪の毛は結い上げられ、まっすぐ伸びた前髪は目にかからないように緩くカールを掛けられた。
そして、お嬢様はもっと輝けます!と目を輝かせた女性に薄く化粧を施された私は、薄く口を開けた状態でパーティー会場内を視線だけで見回した。
パーティは自由参加だ。
好きな時に参加して、好きに過ごす。
学生の中には平民も混ざっていることから、目に余るほどの無礼ではない限り、無礼講な学園の風習がパーティーにも適用されていた。
だから私は準備を終えるとレロサーナとエステルと共に会場へとやってきた。
会場には既に大勢の人がいて、大体の人が大人であることから生徒たちのご両親だろうと考えられた。
なら、と私はきょろきょろと視線を彷徨わせ、お父さんとお母さんを探す。
「サラ、エステル、私お父様とお母様の所にいってくるわ」
私と同様に両親を探していたレロサーナが、一番に見つけたみたいでそう言った。
私とエステルはレロサーナに「またね」と告げると、再び両親を探す。
その中で嬉しそうに両親の元へと向かう皆の様子を見て、私は羨ましく思いながらも、胸をドキドキさせて探していた。
そしてやっと見つける。
他の生徒の両親もいる為駆け出すことはしなかったけど、それでもいつもよりも早くなる足取り。
ドキドキと胸が高鳴って、近づく私に気付いたお父さんとお母さんが振り返った瞬間、私は二人に抱き着いた。
「お父さん!お母さん!」
「サラ!」
ぎゅうと私を抱きしめるお父さんに私は涙がこみ上げる。
試験の前にお父さんとお母さんの姿を見た時は平気だったのに、こうしてお父さんに抱きしめられたらなんでか涙が溢れてきた。
お父さんが力を緩めて体を離すと、今度はお母さんが私を抱きしめる。
安心できるお母さんの匂いに、私は化粧していたことも忘れて首元に擦り寄った。
「サラってば甘えん坊ね」
そんな私の様子にお母さんはくすくすと笑う。
「久しぶりだもん、しょうがないよね」
「でもせっかくのお化粧が崩れちゃうわよ。パーティーはこれからなんだから」
「あ、そっか」
そして胸を張って答える私に、お母さんは指摘する。
私はお母さんの言葉ももっともだと思い、すぐにお母さんの首元から顔を退けた。
そしてお父さんの視線を感じる。
「綺麗になったな」
そういってお父さんは私の頭に手を伸ばすと、躊躇しているのかお父さんの手は宙を彷徨ったまま動かない。
どうしたのと尋ねると、セットされた髪を乱すのではないかと心配しているようだった。
「気にしなくていいのに」
「お父さんが気にするんだよ。折角娘がこんなに綺麗になってるんだから」
「……へへ」
親の欲目もあるかもしれないけれど、私は褒められて嬉しくなった。
緩んだ顔で笑っていると、お父さんは私に「そ、それで…試合前にお前の隣にいた子はなんだ?」と尋ねる。
私はそんなお父さんの言葉に、この学園に通って出来た大切な人たちの事を思い出した。
「そうだ!紹介したい人がいるの!」
来て!とお父さんの手を引いてその人の元へと向かった。
途中お父さんが一人で百面相していたけど、いつものことだから気にせずに、私は足を速めた。
お母さんも後ろを付いてきて、私はこっちだよと二人に言いながら先頭を歩く。
そしてレロサーナに駆け寄った私は体を硬直させる。
私だけではなく、この場に居る殆どの生徒たちは今ご両親と一緒にいるのだ。
だからレロサーナもレロサーナのご両親と一緒にいて、私はその姿を目にいれると引き返したくなる衝動に駆られる。
でも出来ない。
元気よく「レロサーナ!」とかいって駆け寄った私に、当然のように気付いたレロサーナとレロサーナのご両親は私に視線を向けているのだ。




