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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~五学年~
137/253

28 視点変更 認知②






盛り上がる闘技場内。

今年の卒業試験では属性ごとでわかれ、合否を判断することに決めたようだ、とアルヴァルトは思った。


(私の時は先生達が作った魔道具たちを一人でどれだけ倒せるか、だったな)


仕組みは今回と同じく、まず卒業に対する合否判断の後、上位者たちで試合を行う。

ただ担任の考え方もその年ごとで違う為、全く同じ試験内容ということはない。

アルヴァルトの時は本当にその場に一人、数えきれないほどの魔道具たちに囲まれた状態でどれほど壊せるかが合否の判断材料となった。

要は完全実力テストである。

だが今年のテストはその後の試合の関係もあるが、予めポイント制度の説明もあったことから個人競技ではあるものの、生徒がどのように行動するかを含めて判断するつもりのようだと推測した。


そして試験が開始すると、闘技場の中には各属性ごとの映像が大きく映し出される。

また映像の横に名前が表示され、個人で獲得したポイント数がリアルタイムに増えていった。

生徒全ての映像を映し出すことは厳しいことに対する対応なのだろう。

映像に映っていなくても増えていくポイント数で、その生徒を応援している者は安堵できるような仕組みになっているのだろう。


(……普通に魔法を使っているな)


アルヴァルトは水属性の生徒が映し出される映像を見ながら思った。

眞子と同じ異世界から来たものならば魔法は使えないはず。

それなのに他の生徒と同様、いや他の生徒よりも今後の試合に備え魔力消費をいかにして抑えるか_実際には公平な試合を行う為に回復ポーションを与えられる筈なので気にしなくてもいいが、やはりそこまで教えられていないのだろう_その点を考慮しながら動いていた。

明らかにこの世界の人間で、この学園で鍛えられた存在。

眞子と同じ世界から来た人物とは思えなかった。


(他人の空似か…?)


だが明らかに似すぎている水属性の生徒と眞子の容姿。

確かに二人が並んだ際、全く同じとまではいかないだろうが、それでも年の近い姉妹か双子の様に顔立ちが似ているのだ。

疑ってしまうのも無理はなかった。


「…エイヴェル公爵よ、そなたの息子が試験前に親しくしていた女性がいただろう?その者とは入学前からも親しいのか?」


アルヴァルトの問いに公爵はすぐに答える。


「いえ、殿下。先ほど父が申し上げた通り、ヴェルナスは私の出征中父が教育を施しておりました。

その為どの令嬢とも接点はありません」


「ならば_」


アルヴァルトが続けて質問を口にしようとした時、前公爵が立ち上がった。

そして眉間に深い皺を刻みながら、ぶるぶると体を震わせている。


アルヴァルトはそのような姿に疑問を抱いたが、エイヴェルは想定内だった為に小さく息を吐き出した。


「父上、体に障りますので座ってください」


「いいや!エイヴェルよ!アイツは我が家紋ともいえる火属性魔法以外の魔法を使っているのだぞ!?これほどまでに重大な事に腹を立てずどこで建てろというか!」


「火属性魔法は我がレルリラ家のみの属性魔法ではありません。逆を言えば、レルリラ家でも他の属性を持っていたとしてもなんら問題にはなりません」


「お前はなにをいっているのだ!?」


怒りで周りが見えていないのか前公爵は見るも耐えないその表情をアルヴァルトに向けた。

そして体を硬直させる。

エイヴェルを挟み、前公爵の逆側には第一王子であるアルヴァルト殿下がいたことをすっかり忘れていたのだ。


アルヴァルトははぁと息を吐き出す。


「…すまないね。私は静かに観覧したいんだ。騒がしくするつもりなら出ていってもらおう」


そういいながらも指を鳴らしたアルヴァルトの指示通り、前公爵の返事も聞かず騎士は動き出す。

暴れる前公爵の首根っこを掴み、ズルズルと引っ張られる形で王族のみが使用する観覧室から放り出された。

その一連の様子にエイヴェルは楽し気に笑っているから、アルヴァルトとしてもいい事をしたと思えた。


「ありがとうございます。殿下」


「いや、大丈夫だ。それよりもラルクから事情を聞いていたというのに、なにも手助け出来ず申し訳ないな」


「とんでもございません。家庭の事情は家庭で解決しますので、殿下はお気になさらず、お心をお休めください」


「…ハハ。そうしたいところは山々なのだが、聖女の問題がある。こればかりは後に回すことも出来ないのだ」


「だから私をここに残したのですよね」


「流石は公爵だ」


アルヴァルトはにこりと微笑んだ。

なんでもいいなにか情報を寄こせと無言の笑みでエイヴェルに伝える。

確かに映像の隣には生徒の名前がずらりと並んでいるが、流石にどれがどの名前なのかがわからない。

映像は不規則に別の生徒に向けられるために彼女が倒した瞬間に増えた名前を確認できないのだ。

だからアルヴァルトはどんな情報でもいいから欲しかった。


そもそもアルヴァルトは聖女を預けるレルリラ公爵家だけには聖女、眞子の事情を話してあった。


なんの力もない女の子を国の王族が自ら召還してしまった。

眞子の言葉を借りるのなら、誘拐してしまった、に当てはまるだろう。

だが既に大勢の者に顔を披露してしまった為に、取り消すことはできない。

それに力のない眞子を魔物の前に突き出すということは、今後自分が守る国民に死ねといっているものだろうと、アルヴァルトは考えている。

その為に策略を立てずとも政治的立場を持っていて、そして自分の味方になってくれ、尚且つ聖女にあらぬ要望も行わない家門に協力をお願いするしかなかった。

それがレルリラ家だった。

一部の人物は欲をもっているようだったが、アルヴァルトが知っているエイヴェルはそのような人物ではないと胸を張って言える。

だからこそ聖女をお願いする段階で、聖女の事情を伝えていたのだ。

そしてエイヴェルは頷き、快く引き受けてくれた。

その為レルリラ家では聖女に教育を施しているが、それは魔法や聖女の力とは一切関係ない、淑女教育であった。


「ですが先ほども申し上げた通り、彼女の情報を私は持ってはおりません。

ただ知っているのは息子が彼女と交流があることのみです」


担任の先生からの手紙、そしてヴェルナスからの手紙を合わせると、必然的に彼女が一番仲がいい生徒なのだということはわかっていた為にエイヴェルはそのように答えた。

流石に性別までは手紙に書いていなかった為に、実際に息子の柔らかい表情が女性に向けている姿を見てどれだけ驚いたことか。


「……そうか。もし彼女が聖女になんらかの関りがあったのならば、聖女を戻してやることができるのではないかと思ったのだが…」


「流石にそれは難しいかと。聖女がいた世界とこの国は全く違うと聖女本人が申しておりました。

聖女と彼女との接点を探すよりも、他人の空似の可能性のほうがはるかに高いかと」


「そうだな…。だがあれほど似た容姿なのだ。多少でも可能性を考えて、彼女の情報を探っては貰えないだろうか」


「畏まりました」


エイヴェルは素直に頷いた。

元より息子があんな表情を浮かべて見つめていた女性のことを調べる予定だったのだ。

勿論前公爵のように弱点を探し出し否定するのではなく、息子がどんな女性を好きになったのか、純粋に知りたいという親としての欲求だ。

それをヴェルナスがどのように感じるかは別問題だが、それでも彼女の事は調べる予定だった。


そしてサラに対する問答はここで終わり、話は変わる。


「そういえば聖女は元気にしているか?私の婚約者が気にしているようなのだ」


「ライズ嬢ですね。勿論この国に馴染めるように知識を吸収していっていますよ。覚えもいいのでラルクも褒めていました。

ですが魔力を持たない為、今後聖女がどのような選択をしても問題にならないように最善を尽くさなければなりません」


「そうか…、それでも元気に過ごしているということには変わらないだろう。アデラインにはそのように伝えるよ」


「…あ、そういえば」


エイヴェルはふと思い出す。

少し前に届いた息子の手紙にラルクに渡すように入っていた一枚の紙きれ。

最初は何だろうと思ったが、どうやら聖女に確認を依頼したい文字のようなものだった。

そして、エイヴェルの手からラルクに渡り、聖女に文字の確認を行ったことを思い出したのだ。


「なんだ?どうしたのだ?」


「いえ、息子から聖女に確認して欲しい文字があると尋ねられたことがあったのです」


「文字?」


「ええ。なんでも魔法研究室で授業を受けた際に見た言葉だとか。

私も見ましたが確かにこの国のものではありませんでした。」


「何故魔法研究室で……、で、結果は?」


「聖女には読めるようで“確かに天気いいですね”と答えていました」


「ならばそれは聖女の世界の文字に間違いないだろう。だが何故…、聖女に関する物は全て王家が管理しているというのに。

……まぁいい。魔法研究室には私も依頼していることがある。ついでに私の方から聞いてみるので、公爵は彼女の事を調べておいてくれ」


「畏まりました」


そして二人は再び視線を闘技場に向け、生徒が懸命に励んでいる様子を楽しんだ。

アルヴァルトはあまりにも聖女に似ている女性を食い入るように見つめ、エイヴェルは卒業試験が終わり、次に行われた試合の最後、楽し気な様子で女性に何かを口にした息子と、何を囁かれたのかわからないが悔しそうに地団駄を踏む彼女の様子が面白く笑っていた。


試合、そして表彰式が行われてアルヴァルトが立ち上がる。


「サラ・ハールというのか……。ハールという貴族はいない、ならば平民か?」と小声で呟く。


最後までにこやかに眺めていたエイヴェルは、早く息子に会って話をしたいと思ったのだった。



視点変更終わり

※アルファポリス様のほうでは完結まで進んでいるので、早く続きが見たい方はそちらでみていただけたらと思います。

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