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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~五学年~
135/253

26 卒業試験⑤






観客もいることから、休憩時間はほんの少ししか与えられなかった。

だけど先生達も考慮しており、体力の回復、そして魔力の回復の為に、これから試合に臨む生徒たちだけにポーションが配られる。

リスカール先生から手渡しでポーションを受け取った時には、あのゲロマズな記憶が思い出して躊躇してしまったが、味付けがしっかりとされた美味しいポーションで回復した私たちは、闘技場の会場内へと向かった。


属性関係なく、ポイント数が多かった生徒上位十五名が会場に立つ。

他の生徒たちは待機場で待っているらしい。

観客席は埋まっているからね。


試合の進め方はどうするのか、サーが言っていたようにトーナメント戦でもするのかと、私は私たちの前に立つ先生を見上げた。


『ルールは簡単だ。ここにいる皆で戦ってくれ。協力してもいいし、最後まで一人で戦ってもいい。誰に挑むかは個人判断だ。

勝敗は相手が気絶するか、参ったと言わせること。

誰が生き残っているか、敗北したのかがわかりやすいように今からハチマキを配るから、それで見分けろよ。

ハチマキがない相手に手を出した場合は失格とするし、敗者が妨害する行為も認めない。

それと魔法による外傷問題だが、お前らに配るこのハチマキが代わりに受けるように魔法を掛けているから、気にせず全力で挑むように。あ、苦痛はそのままだから無理はするなよ』


先生の手からハチマキがふわりと浮かび、生徒たちに配られた。

私はそのハチマキを手に取り、早速頭に巻きつける。


このただの布に見えるハチマキに、そんな魔法がかけられているなんてなぁと私は暢気に考える。


『順位はハチマキの数で決めることとする』


それじゃあ質問は?と尋ねる先生に、私達生徒は身構えた。いつ始まってもいいように。すぐに魔法陣を展開できるように、それぞれ態勢を作る。


『ないようだな。……それでは開始!』


先生は開始の合図を告げると、この場から消える。

転移魔法で移動したのか、一瞬で消えた。

だけどそれは今気にすることではない。


先生の合図で私はその場から離れて、周りの人から距離をとる。

他の皆も同様に距離をとった。


先生から名を上げられた十五名の内、Aクラスの生徒は七人だ。

レルリラに私、サーとマルコとキアにシェイリンとアコ。

他八人は他クラスの生徒。

ちなみに何気に平民メンバーが全員いるのと、水属性のシェイリンとアコがいることが嬉しいのは内緒だ。

この場にいない他の皆に悪いから。


私とレルリラ以外のAクラスメンバーが同時に動き出す。

向かっていった先は他クラスの生徒。

他クラスの生徒も同じクラスメイト同士が戦うのではなく、別クラスであるAクラスを先に倒した方がいいと考えたのか向かってくる。

サー、キア、マルコ、シェイリン、アコの五人で他クラスの五人と向かい合うが、残った三人は私とレルリラの元に来る。

赤茶色に近い男と、ピンク色に近い髪をした二人が私に向かい、程よく距離が確保できた場所で私に魔法を仕掛けた。

当たれば灼熱の様に熱いだろう炎が私を包み込む。


(レルリラよりも弱い魔法で私に効くわけがないじゃない)


しかもレルリラの魔法でも防げることは確認済みの防御魔法で私は自分の身を守っている。

私にダメージを負わせたいのならもっと魔力を込めないと。


炎の中で私ははぁと息を吐き出した。


そしてちらりと横目で二人の位置を確認し、頭の上に魔方陣を複数描いてからすぐにレルリラへと目線を戻す。

一つは強い衝撃を与えても壊れないような氷を描く為、もう一つは重量をより重くするため、そして更に落下速度を速める為の魔法陣だ。


私が炎の中から出てこず、反応を待っているのか二人はそれからのアクションがなかった。

ツメが甘いなぁと思いながら先程の二人の魔法発動を思い出す。

確か二人は詠唱魔法で私に魔法を使っていた。

先程の試験で倒したオートマトン相手なら詠唱魔法でも問題にならないが、人を相手にする場合は無詠唱の方が奇襲がうまくいくのにあえてしなかったことを考えると、二人は無詠唱魔法が苦手のようだ。

これでどうやって私のクラスメイトよりも多くのポイントを集めたのだろう。すごく不思議だ。


私は属性魔法で炎を消し飛ばしながら、二人の頭上に描いた魔法を起動する。


- ゴンッ -


鈍い音がした後二人が倒れた。

一発で倒れるなんて予想もしてなかったから、私は思わず二人に目を向け瞬いた。


「大きく作りすぎたかな…?」


容易に立ち上がらせないように重量まで加えたけど。

まぁ、いっか。


私は気絶した二人からふよふよと飛んできたハチマキを手に取り、自分の腕に巻きつかせた。

するとハチマキはリング状へと形を変えた。


便利だけど!邪魔にならないけど!

でもうようよ布が勝手に動く姿は気持ちいいものではない。鳥肌物だ。

うげっと、しかめっ面をしていると強い熱風が伝わってくる。

防御魔法で身を守っているのに伝わってくるほどの熱風に、私はレルリラの方を見た。

そしてレルリラに向かった一人の生徒の髪の毛が燃え、壁にめり込んでいる姿が目に入る。


あれ、外傷はおわないんじゃなかったの?


そんなことを思っていたら実況があるのか『どうやら髪の毛までは防御対象外みたいでしたねぇ』と楽し気に話している先生の声が聞こえてきた。


『それにしても今年は無詠唱魔法が出来る生徒が多いですね。無詠唱魔法の質もいい。なにか特殊な事でも?』


『とんでもない。私が受け持った生徒が大変優秀だったこともそうですが、他の生徒にも進んで教えるような生徒がいたことで、クラス全体の実力をあげたのです。

こんなにもお褒めいただけたのは生徒たちの努力の結果ですよ』


『ほぉ、それは是非とも我が騎士団に入団いただきたい人材ですね』


『私のクラスは皆優秀な人材ですから、どの子も気にいると思いますよ』


まさか先生の隣に、騎士団の人がいるの!?

どんなスカウト方法だよ!?と振り向きたいけど、振り向いたら終わってしまうと直感しているから、私はレルリラをまっすぐ捉えて離さない。


「…今ので、魔力消耗したとかいわないよね?」


「当たり前だろ」


ふっと不敵に笑うレルリラに、私も口端を上げる。


「レルリラ!“すぐに終わらせてあげるよ”!」


いつか言われた言葉を私はそっくりそのまま返してやった。

するとレルリラはきょとんと眼を丸くさせて首を傾げる。


「……もしかして、俺の真似か?」


「その通り!」


一匹狼のようだったレルリラに私が言われた言葉。

本人も覚えていたようでなによりだ。


そして互いに仕掛ける。


「<ドラゴン・ディー・フュー_火龍>」

「<ドラゴン・ディー・グラセー_氷龍>」


二年の時にも出した火の竜を再び出すレルリラに、私も対抗して氷の龍を魔法で作り出す。

そして周辺に広げていた探知魔法に馴染のある魔力を感じ、私は咄嗟に足を後退させてその場を飛び退ける。


すると小さな爆発が次々に起こるため、私は後ろに移動しながらも魔力を感知した場所、そしてレルリラに向けて魔法陣を描いていく。

打ち消し合う私とレルリラの魔法。

火属性と水属性だから、温度差もあってか打ち消しあった時に起こる煙が会場の中に溜まっていく。


「…見づらいな」


なにかを呟いた後レルリラが屈んだ。

すると目も開けられない程に強烈な強風が沸き起こる。


「うぅ!!!」


咄嗟に氷の魔法で自分の周りを固め、飛ばされないように防御する。

あまりにも強いレルリラの風魔法は、厚い私の氷を削っていく。


「くっ…!」


(あまりやりたくなかったけど…!)


止める気配のないレルリラの風魔法に私は上書きして、魔法自体を解除することを決意した。

どれだけ強い魔法にみえても、レルリラが発動している魔法は私も知っている魔法だ。

懸念していたのは解除に使う魔力量。

でもこのままレルリラの魔法を受け続けていると、あっさり場外負けで終わってしまいそうだ。

それだけレルリラの魔力量が多いことを私も知ってる。


「<ベント・フォート_強風>!」


解除魔法が成功するとぴたりと止むレルリラの風魔法。

私はホッと息をついた。

想像以上に魔力を使ったけど、それでもレルリラの魔法を止めることが出来たと笑う。

だけど、レルリラはなにが楽しいのか、私よりも嬉しそうに口角を上げていた。


「……?」


首を傾げる私の前を、ふよふよと飛んできた四本のハチマキ。

レルリラはそれらに手を伸ばすと腕へと巻き付け、合計五本の腕輪を付けていた。


「………え」


あれ?何で五本?

マルコ達は他クラスの生徒と戦っている最中でしょう?と見渡すと、先ほどの風魔法の所為かくるくると目をまわして気を失っていた五人を確認した。


「へ?」


『おーっと!ここで勝敗が決まったぁ!!

五勝で断トツのヴェルナス・レルリラが一位、続いて二勝のサラ・ハールが二位、一勝した五人が同一三位で決まりだあああ!!』


先生の声が会場内に響き渡る。

私はそんな先生の言葉にポカンとして、でもすぐにどういう状況かを把握し口元をひきつらせた。


「ちょ!先生!私とレルリラの勝負はまだついてないですーー!」


腕を大きく動かして主張しても先生に届いていないのか『最後は表彰だー!』といって試合を終わらせようとする先生。


「先生ーーーー!!待ってってば!!ねえ!!!」


そんな私にレルリラが近づく。


「“すぐに終わったな”」


ポンッと肩に手を乗せて、そのまま行こうとするレルリラに私は一瞬思考が止まった。

そして去っていくレルリラの背中をみて、言われた言葉にわなわなと体が震える。


「………ムカつくぅうううう!!!!!」


私の悲痛な叫びが会場の中に響いた。




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