11 追求
次の日、私は窓から柔らかく注がれる日差しで目を覚ました。
ベッドに横になったままの状態で大きく体を伸ばす。
一緒にあくびも出てしまうけど、しょうがないよね。朝だもん。
そして体を起こすとシャワーでも浴びたのか髪が濡れた状態のレルリラと、何故か目の下に隈を作り一夜にしてやつれたマルコがいた。
なんだか一晩中起きていたようなやつれ方だが、レルリラの方はそうでもない。
少しスッキリとしたような、そんな感じだ。
「…………おはよう?」
「ああ」
「…はよ」
疑問形になってしまったが、それぞれがちゃんと返してくれるので問題ないようだ。
「もしかして私うるさかった?」
「いいや。サラはとても静かだった」
「そう?マルコが寝れてなさそうに見えるけど」
例えていうならお腹を下して、一晩中トイレにこもっていたような顔色だ。
私は実家でも寮でも一人部屋なので、他人が寝れない程に睡眠中うるさい体質なのかを知らない。
そうだったら本当に申し訳ないと告げると、そうではないと答えられた。
「じゃあ朝からトレーニングいってたの?起こしてくれれば私も走ったのに」
「いや、……少し寝汗をかいたんだ」
「そうなの?」
昨日はそんな汗をかくほど暑かっただろうかと私は疑問に思いながらも、制服を手にして隣の部屋へと向かう。
異性と一緒の部屋でも気にせずに寝ることは出来るけど、着替えが出来るかといったらそれは違う。
流石の私でも着替えは無理だ。
そう言ってトイレで着替えることも選択肢にあったが、マルコが「俺が着替え中に見られたくないんだ」と、乙女かといいたくなるような仕草で体を隠しながらいうので、シャワーだけじゃなく着替えもレロサーナ達の部屋にお邪魔することになったのだ。
(これ、半年も続けるのか)
一晩過ごしただけならマルコの方が大変そうな目に合ったようだけど、私も私でレロサーナ達の部屋に何度もお邪魔する生活を考えるとちょっと複雑に思い始めた。
■
朝飯を食べてそれぞれ決められた場所に向かう。
私もレルリラと一緒に向かった。
「…レルリラ」
「なんだ?」
「もしかしてだけどさ、…マルコになんかした?」
途中転移の魔方陣があるとはいえ、目的地まで結構遠い。
私はその間に朝から未解決の疑問をぶつけてみることにしたのだ。
するとレルリラらしからず、動揺したのか激しくむせた。
「ちょ、大丈夫?」
「あ、ああ……」
「…で、マルコになにかしたんでしょ?なにしたの?マルコがあんなやつれるなんて普通じゃないわ。私の所為じゃないっていうし、他に原因っていったら同室のレルリラしかいないじゃない」
言いづらい内容なのか、視線を逸らすレルリラに私は詰め寄る。
私が話すまで逃がさないって気持ちが伝わったのか、レルリラは遂に観念して話し始めた。
「…昨日眠れなくて、トレーニングに付き合ってもらったんだ…」
「それだけ?」
「ああ」
おかしい。
年に数回のレベルではあるけど、マルコだってレルリラのトレーニングを受けたことはある。
もっぱら私が巻き込んでの状況だけど。
でも疲れたという表情はしても、やつれたような表情は見たこともない。
「……ちなみにいつやってたの?」
「…夜」
「夜からいつまでやってたの?」
「………朝方まで」
「は!?!?」
私は口を顎がはずれそうになるくらい開いた。
ついでに目も目玉が飛び出そうなくらい開いた。
そして急に痛みだした頭を押さえるように手を当てる。
「そりゃあやつれるわ……」
レルリラのトレーニングは年を追うごとに魔力の消費量が上がっていく。
それは魔力量の上昇を狙ってのことだからだ。
魔力量の上昇には一般的に使い切ることにある。
人間の体というのは不思議なもので、魔力を使い切ると飢餓状態になり、魔力の総量が増えることがあるのだ。
だけど、その後はちゃんと休んで魔力回復を促さなければならない。
そうじゃないと体が持たないからだ。
そしてやつれたマルコを見る限り、魔力を消費だけして回復していない状態だろう。
まぁそれなら魔力を回復させるマジックポーションでも飲んでおけば問題にはならないだろう。
「…マルコ、ポーション持ってるのかな…?」
私が呟くとレルリラが答える。
「持ってるって言ってた」
ちゃんと確認しているあたりレルリラも悪いと思っているのだろう。
私はこれ以上なにもいうことはせずに、今日のことに気持ちを切り替えた。
「…今日は私からやるね」
「わかった」
そしてヘルムートさんのもとに着いた私たちは、早速昨日同様魔物との実戦を積むために挑んだ。
私が戦っている間、レルリラとヘルムートさんがどんな話をしていたかわからないけど、宿舎の部屋について何か手違いがあったとかで今日からちゃんと男女別れて寝られるように手配すると、後で言われたのだった。




