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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
幼少期~学園前~
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10 もうすぐ試験






ギルドではこの国についての勉強を、お母さんから魔法を、そしてお父さんからは剣(木の枝を使った)と薬草についてを教えてもらい、遂に私は九才の誕生日を迎えた。


私の誕生日は雨季の後、つまり一年の終わり頃にある。


この国では一年を通して然程気温に変動がない。

また、一年を四つに分けるとすれば、明るい黄色が印象的なカラシナが咲く時期を始めに、少し強い日差しと暖かい気温が続く植物の収穫時期といわれる緑の季節と呼ばれる時期を過ぎると、ピンクや黄色、白色等カラフルな花のコスモスが咲く。

そしてコスモスが散り始めると2~4週間ほどの間雨が降り続き、最後に、真っ赤なポインセチアと呼ばれる花が咲く時期が来る。

つまり、カラシナの季節、緑の季節、コスモスの季節、ポインセチアの季節と続くのだ。


私はポインセチアの季節に生まれ、もっというともうすぐオーレ学園の入学試験が開始されるというわけである。


「サラ、勉強は順調か?」


誕生日だからと並べられたご馳走を口に含んでいると、お父さんが私に尋ねた。


今日を過ごして暫くしたら、王都に向かわなければいけないからだ。

これはギルドで教わったことだが、マーオ町から王都まで馬車で移動すると一か月はかかる程の距離がある。

移動で一か月もかかるのだから、途中どこかに宿泊するともっと日数がかかるだろう。

受験までもう二ケ月もない為、これ以上勉強時間を増やせないと思ったお父さんが私に進捗を尋ねたのだ。


そのお父さんの問いに答えようと、私が口の中の食事を必死に咀嚼していると、代わりにお母さんが答えた。

正直口の中にある柔らかくて美味しいお肉をまだ飲み込みたくはなかったために、代わりに答えてくれたお母さんには感謝である。


ちなみに肉だけで調理しないお母さんがステーキのように焼いて出すのは家族の誕生日の時だけ。

いつもは「ちゃんと野菜も取らないとね」とかいって、シチューや炒め物として野菜とお肉を混ぜた料理を作る。

そんな久しぶりのステーキなのだから急いで飲み込みたくはなかった。


「ええ!すごく優秀よ!

もうかなりの数の魔法陣も覚えたし、詠唱魔法も順調ね!」


「…それは凄いな」


私の歳で、という言葉が頭に着くだろうが、褒められると嬉しくなる。

私が口に含みながら笑っていると、どこか複雑そうな表情を浮かべたままお父さんが答えた。

なんでだろうと、首を傾げるとお母さんが優しく頭を撫でる。


「心配しないで、お父さんはかわいい娘に追い越されてしまうんじゃないかって不安になっているだけだから」


「なっ!」


「(ごくん)…不安にならなくても大丈夫だよ!

学園に通ってもっともっと強くなって、お父さんもお母さんも私が守ってあげるからね!」


「ふふ、頼もしいわね」


「っ、……無理するなよ」


そういったお父さんの顔はまだ不安そうにしていたが、お母さんはクスクスと笑う。

なんでお父さんは表情が暗く、そしてお母さんは笑っているのだろうと私は不思議だった。


「そうだ!王都にはいつ行くの?」


勉強の進捗に関してはお父さんに聞かれたが、実際にいつ出発するのかは聞いていない。

馬車でいくなら準備も色々大変だ。

替えの洋服も持たないといけないし。

勿論私よりもお母さんの方が準備が大変だと思うけど。


「そうね…、お父さんもお母さんも霊獣と契約しているから、そこまで急がなくてもいいかなって思っているわ」


「!」


私は目を瞬かせた。


霊獣とは魔法を使える動物といったほうがわかりやすいかもしれない。

霊獣と契約すると、霊獣は契約者の指示に従う代わりに、契約者の魔力を糧とするようになる。

その為、滅多なことでは召喚しないのが一般的で、お父さんも危険を伴うクエストに契約している霊獣を呼び出すくらいだ。


(私がもっと小さい頃、お父さんの霊獣と遊びたくて駄々をこねて召喚してもらったんだけど、結局すぐ戻ってしまったんだよね)


勿論召喚しただけでは魔力の消費はないに等しいが、子供というものはとにかく色々遊びたいと思うものだ。

だからあれして、これして、と色々言って、叶えてもらっていたからお父さんの魔力が持たなくなって霊獣もすぐに消えてしまった。

今となっては本当に困る我儘を言ってしまったんだなと思う。


だから、お父さんが霊獣と契約していることを知ってはいたが、お母さんも契約していたことを初めて知った。

契約者の魔力を糧にするという理由で、魔力の少ない人の中には霊獣との契約自体しない人も珍しくないからだ。


「お母さん霊獣と契約してたんだね!」


「そうよ。お母さんの魔力量でも契約自体は出来るからね。

何かあった時の為にと、契約はしていたのよ」


何かあった時の為にってなんだろうと思いながら、私は少し熱が逃げていったグラタンにスプーンを入れた。

掬うとチーズがとろりと伸び、そこからまだほかほかと暖かい湯気が出ていて、私はふーふーと熱を冷ましながら口に運ぶ。

けどやっぱりまだ熱くて、私は誕生日だからと特別に許されたぶどうジュースを急いで飲んで熱さを和らげた。


「二ケ月後に家を発つか。それなら十分試験に間に合うだろう」


今から二ケ月後というと丁度試験が始まる一週間前。

馬車で一か月かかる距離というのは知っていたけど、霊獣で移動した場合はどれくらいかかるのかを私は知らなかったから、少し驚いたぐらいだ。

だから不安はない。

自信満々にお父さんが言っているからだ。

寧ろ私は喜んだ。

だって二ケ月もまだ時間に余裕があるのなら、まだまだ魔法の練習だってできるのだ。


「うん!じゃああと二ケ月の間試験に受かるようにもっと頑張らないとね!」


「ふふ。でも今日はご馳走を楽しんで。せっかくお母さんが腕を振るったんだから」


はーいと返事をして、まだ温かいご馳走に再び手を付け、私は美味しいお母さんの料理ににこりと微笑んだ。







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