5 第二王子エルフォンスの事情④
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それからエルフォンスは神殿へと足を運んだ。
何をしても聖女召喚が成功しないことにイラつきを覚えながらも、何が原因なのかと魔方陣を何度も確認した。
神殿の関係者とも、魔法研究所の者とも何度も顔を合わせ、確認したのだ。
ある時ふと思いついたのだ。
聖女召喚の魔方陣に対しても、召喚時の日時にも、召喚の際の魔力量にも問題がないのなら、捧げものが必要なのではないかと。
ある者は言った。
『そんな巷で流行っている小説ではないのですから…』
ある者は言った。
『捧げものなんて非現実的なことを…』
ある者は言った。
『そんなことどの文献にも書かれていませんよ』
エルフォンスは言った。
『何が正解かわからないのだから、考えられること全てを試すべきではないのか。
それが例え小説の内容という非現実的な発想でも、だ』
と。
『捧げものと言っても人の命ではない。そんな方法で召還できたとしても誰の賛同も得られないだろう』
と。
『ならば何故お前らは時間が違うのではないかと思ったのだ?
月の光や太陽の光、朝方や昼間、そして夜の時間のどれも文献にはなかった。
なかったのに試した理由はなんだ?』
と。
正論をぶつけられた者たちは口を閉ざした。
だが、流石に捧げものという発想はありえないと否定する。
そしてエルフォンスも実際に何を捧げものに選べばいいのかわからないでいた。
結局は振りだしに戻るしかないのか…。
そしてふと思ったのだ。
『………、そういえば聖女の子孫は皆水属性、だったな』
『ええ、そうです。
ですが全ての水属性を持つ者が聖水を作れるわけではありません』
『ならば、その聖女の子孫の魔力で召還してみてはどうだ?
縁もゆかりもない者だから異世界の聖女が答えないのだとしたら、いや聖女に繋がらないのだと考えた場合、聖女の子孫である彼女らならば…』
エルフォンスの言葉に他の者たちは互いの顔を見合わせる。
捧げものというアイディアよりも真面な意見だったこともあるが、まだ一度も試していない手段だったからだ。
聖女の子孫は聖水を作る。
そのような固定概念が邪魔をして、聖女の子孫を召喚を行わせる者と誰一人として考えていなかった。
『だが聖水はどうするのだ?』
誰かが言った。
『召喚に使用する魔力量も時間もそう多くは取られない。
第一魔力回復のポーションを飲ませれば事足りるだろう』
そして第二王子の提案により聖女の子孫による召喚魔法で、聖女は無事召喚されたのだ。
第二王子であるエルフォンスは讃えられた。
聖女の召還を成し遂げたのだ。
今迄アルヴァルトよりも劣っていると陰口を叩いていた者も、今回ばかりはエルフォンスを讃えた。
それほどのことを成し遂げたのだ。
エルフォンスは初めての称賛に浮かれていた。
だが称賛の声はすぐに収まることとなった。
何故ならば召還した聖女が“役立たず”であったからだ。
魔力がない。浄化もできない。
第一王子である兄を誘惑できるような魅力もない。
いや、魔力についてはもともと聖女にはないと伝えられているため問題ではないだろう。
だが浄化が一度たりとも成功したことはなかったのだ。
聖女を召喚したエルフォンスはそのまま聖女を教育する役割を与えられたというのに成果がみられないことから、再び冷めた目を向けられているのだ。
エルフォンスはそんな現状に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、地団駄を踏んでいた。
どうすればいい。どうすれば…!
だが、聖女が聖女の力を使えることはなかった。




