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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
章間①
103/253

1 聖女の召喚


◆◆◆◆


「遂に聖女サマを召喚したぞ!」


一人の男が感際立った様子で、地面に両ひざ両手をついた少女の前で嬉しそうに声を上げた。

男の名前はエルフォンス・ニック・キュオーレ。

この国の第二王子であり、そして聖女の召還を成功させた人物である。


そんな男性を不安な様子で見上げたのは、山田 眞子という少女だった。

眞子はこの世界にはない黒い髪と黒い瞳を宿していた。

何故この世界にない色だと言い切れるかというと、この世界の生物には魔力が備わっており、その魔力は属性という元素がもとにある。

火なら赤色。雷なら黄色。水なら青色。土なら茶色。風なら緑色といったように保持している魔力が外見にも表れるのだ。

五つの元素のどの色も持たない眞子は間違いなく異界の存在であり、聖女の召還が成功したといわれるのも当然の流れであった。


眞子は周りを見渡した。

高い壁にはどこかの宗教的なあれだろうかと思わせられる絵柄が細かく描かれており、その天井も高く、見上げると明るい青空が書かれていた。

周りには少し顔色の悪い大人の女性が数名膝をついており、そして眞子を囲う様に立っている大人の男性がいた。

眞子は視線を下げると、自分が座っているすぐ下にはみたこともない模様が描かれていた。


眞子は思った。

あ、これラノベの世界だわ。と。

もしかしたらゲームの世界かもしれない。とも思った。


今流行りの異世界転移の小説や漫画、アニメが眞子の周りには溢れていた。

基本的なストーリーはなにかの小説に入り込んでいることがポピュラーであるため、眞子も自分がそれに該当したのではないかとすぐに察した。

だが、今の段階ではこの現状に当てはまる物語が多すぎて検討が着かない。

眞子は現状把握とこれから先の事を対策するために、まずは自分がどこの世界観に迷い込んでしまったのか、ゴクリと唾を飲み込んだ。






聖女が召喚されたという事実は瞬く間に広まった。

というのも聖女を召喚したという話を、実際に召還に携わった第二王子であるエルフォンスが聖女と思われる眞子を引き連れながら声高らかに宣言しまくっていたのだ。

『この私が聖女の召還に成功したのだ!もうこの国は安心だ!』

と。


確かに異世界から聖女という特定の人物を召還するということは簡単なことではない。

今回も年単位で慎重に召還を行っていただけに、エルフォンスがはしゃぎまくるのも当然の事だった。

聖女を召喚するということはそれだけ凄い偉業を成したと言えるからだ。

そしてエルフォンスのその宣言を聞いた者たちは皆、眞子を見た瞬間安堵し、そして歓迎した。

誰一人持っていない色である黒髪が聖女の証なのだろうかと、眞子が疑問に思う程眞子をみた者たちは彼女が聖女であることをごく自然に受け入れ、否定する人なんて一人もいなかったのだ。


だがそれも三か月が経つ頃には変化を見せていた。

聖女に期待している“浄化”について、全くと言っていいほど成果が出なかったからだ。


キュオーレ王国では決まった周期ではないが、魔物に瘴気が宿るという報告があがる。

瘴気に侵された魔物の呼び方は瘴気の魔物だったり、黒いもやだったりと様々であるが、いずれも対応策は聖女だけが行うことが出来るという“浄化”をもって瘴気は祓われるとされているのだ。

その為瘴気の魔物が現れた際は異世界から聖女を召喚するという行為が行われる。

それしか術はないと信じられているからだ。

聖女が訪れない期間の臨時対策として、以前召還に応じてくれた聖女の子孫が作り出す聖水を使用し、浄化を行うという対策がとられていた。

直接聖水を掛けるというリスクはあるが、それでも聖女召喚の間の対応策として聖水を使用する策が認められていたのだ。


そして、聖女である眞子の召還に成功した第二王子のエルフォンスは、散々眞子という聖女の存在を広め、次の段階である聖女の力をみせつけるという取り組みに移行した。

だが早々に躓いてしまったのだ。

召還した聖女が、“浄化”を行えないということが発覚したからである。


だがその方法自体もいかがなものだと眞子は思った。


まず聖女は魔力という誰もが持つ力を持っていない。

これは異世界の人間という、この世に属さない異例の存在だからと考えられている。

ぶっちゃけチートはないのかと残念な考えも眞子にあったが、使い潰されることが想定されるため、これはこれでいいかとも思う。

その為召喚した大事な聖女の安全を確保する為に、瘴気におかされた魔物を別室に隔離させた後、聖女に“祈り”という浄化の為の作業を行わせるのだ。

目の前にいなくとも、近くにいるのだからその浄化の力は届くだろうと、そう考えられたのである。


眞子は指示された通りに祈った。

両手の手のひらを合わせるように握り、目を閉じる。

そして指示された通り「浄化」と呟いた。


正直眞子もこれで何かが起きるかなんて信じられないと思っていた。

自分が今迄いた世界で魔法なんて不可思議な現象、見たこともないのだから。

夏に特番が組まれる心霊的な現象はともかく、“浄化”とかそんな非現実的な現象なんて想像すらできない。


その気持ちが伝わったのか、それとも眞子に指示したその伝わってきたやり方そのものが違っていたのか、別室にいる魔物には変化が見られなかった。

何度も何度も祈り指示され、実際にその通りに行動するが、何度やっても変わらない。


眞子は思った。

そりゃあそうだろうと。


そもそも眞子は元の世界にいたときもただ普通の女子高生だったのだ。

そりゃあラノベやゲームものではチートスキルを神や女神に与えられ、逞しく輝かしくいきるものだが眞子は自分自身がそうではないと思っていた。

転移時に誰かに出会ってもいない。

チートスキルも与えられていないようだし、寧ろなにか与えられていたのならそれはいつ度のタイミングだったのかを問いたいくらいだ。

唯一与えられたと言えるのは、言語に不自由しなかったことだけである。

もしかして?と思ったが、それも召喚魔法にご親切に組み込まれていたのだ。

召還された聖女が言葉で不自由なく過ごせるように、この国の者たちが魔方陣に加えた能力。

寧ろこれが出来るなら、浄化という力も召喚する魔方陣に組み込んでくれと思ったりもしたがそれは出来ないらしい。


だから眞子はなにも持っていなかった。

ただ、多少霊感が少しだけある普通の女の子。

霊感があってもそれは強くなく、たまに霊が見えるだけ。

それもうっすら見えるくらいで、話すことも除霊することも出来ない、ましてや憑りつかれ体質でもない普通の女の子である。

運動神経も並み、勉強も並みレベル。

将来はどんな仕事に着こうかなんてまだまだ考えていない女子高校生である。


そんな自分が異世界に来ただけで特殊能力に目覚めているはずがないだろうと思っていた。

だって女神とか神とか、そういう人…といっていいのかわからないが会っていないし、なにも与えられていないのだから。

例えこれがラノベかゲームの世界なら、転移時に超絶美少女に変わっていることもあるだろうがそれもない。

三か月が経った今では眞子はただの事故に巻き込まれただけだと思うようになったのである。

寧ろこれは取り返しのつかない誘拐だ。拉致だ。

でも帰る手段はないと、そのように話を聞いた為もう諦めていた。


しかもだ。

眞子は祈った後の変わらない魔物の様子を強引に強制的に見せられた。

第二王子であるエルフォンスに「ちゃんとやっていたらあの黒い瘴気が取り除けられるはずなのだぞ!」と腕を乱暴に引っ張られ、怒鳴られたのだ。

正直初めて見る魔物に驚愕する前に、怒り狂ったように怒鳴り散らす第二王子の迫力に眞子は縮こまる。

勝手に誘拐まがいに呼んだ相手に何を求めているのか、その要求を果たせないからといって怒鳴り散らすのもどうかと思うが、それでも迫力のある第二王子の形相はゆとり世代を生きてきた眞子には辛かった。

眞子はその時初めて自分がこれから任されるであろう魔物をみた。

そしてその時思ったのだ。

やっぱり私はなにも持っていないのだと。

何故なら眞子に見えた黒いもやは皆が見えるもの。

元の世界では眞子だけが見える、所謂幽霊ではないということは、この時わかった。

何故ならあれを【幽霊】や【悪霊】ではなく【瘴気】や【黒いもや】と口にしていたからだ。

だから自分は聖女という特別な存在だと勘違いする場面がどこにもなかったのである。

例えその黒いもやに人か、魔物か、とにかく顔のようにみえるなにかが浮かんでいたとしても、それは皆が見えているものと眞子はそう思ってしまったのだ。


そして眞子は怒り心頭のエルフォンスの耳に入らないように、小さく小さく息を吐いたのだ。




やっと聖女様の話が…!まだ学園編は続きますが、よろしくお願いします!

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