37 進級試験③
「な、なに!?」
「うわっ!」
魔法とは発動したい場所に魔方陣を組み立て、そして発動する。
それが一般的。
それなのに先生たちの魔方陣は、ダンスに合わせて動き続けていた。
まるで舞い散る花びらのように可憐に動く魔法陣。
こんなの今迄みたことない。
いや教育上でしか知らないから見たことがないのは当たり前のことだと思うが、それでも位置情報を定めた筈の魔方陣を動かす先生の巧妙さが衝撃的だった。
「サラ!無理だ!」
セファルドが音を上げる。
私だって一定の場所に留まらない、しかも動き続ける魔方陣にどう対応していいのかわからないけれど、でもこれは進級試験なのだと思い直すと引きたくない気持ちでいっぱいになる。
だってここで音を上げてしまったら、もしかしたら退学になってしまう可能性だってあるのだ。
「だ、だめ!ちゃんと対策しないと!」
「だけどこれじゃあ解除魔法なんて出来るわけない!」
セファルドの言う通りだ。
魔方陣を組み立てることが出来ても、その魔方陣に場所を指定しなければならないから。
(どうしよう、どうすればいいの…!?)
相手の魔方陣を捕らえなければ魔法を解除できない。
先生の複雑に動く魔方陣を事前に予測することなんて……
「……そうだよ!」
「どうした?!」
「なにも解除魔法にこだわらなくてもいいじゃない!!」
先生だって試験が始まる前にいっていた。
『方法は任せる』って。
だからなにも解除魔法にこだわる必要なんてないのだ。
解除できないのなら、魔法で相殺できるように魔法をぶつければいい。
<ゲル_氷結>
私は実際に飛んできた火の矢も水の魔法も氷魔法で凍らせた。
そしてセファルドに振り向いた。
「セファルド!まだ終わりじゃないよ!私達が取得した無詠唱魔法みせてやろう!」
私が普通に魔法を発動したことに驚いたのか、呆然とした様子のセファルドに告げる間にも先生たちは次の魔方陣を展開していく。
本当に容赦のない先生たちだ。
その先生の魔法たちに私は思わず笑ってしまう。
「ほら!ぼうとしてないでやるよ!」
「だ、だが…」
「魔物だって動いて攻撃するんだから一緒よ!それに動く魔方陣だってどこで発動するかわからないだけで、先生たちの魔法展開のスピードも変化ないし、最初同様発動魔法だって口に出して教えてくれているんだから!
だから黙って私達も魔法で対抗するよ!」
「…わかった!」
セファルドの瞳に光が宿ったことを確認して、私達は解除魔法ではなくそれぞれ属性の魔法を発動する。
魔方陣が動くことで相殺できなかった魔法もあったけれど、そういう魔法は自分自身に当たらないように避ければいいだけ。
先生たちが楽しそうに笑みを浮かべる間、私達も先生達に対抗していけていることを実感でき、それが自信に繋がった。
だからなのか、
(…楽しい…!)
魔法が嫌いとか思ったことは一度もない。
出来なかった魔法が出来るようになった時には、その分楽しく思えた。
だけど今この時間、魔法を使うことが楽しくて仕方ないとそう思えた。
試験の最中なのにそう思うのは、相手が楽し気な様子を見せてくれているからだということ、そしてリーベル先生達だからというのもあるだろう。
だって、リーベル先生は私に常に気品を持つ心構えを教えてくれた先生なのだ。
そんな先生たちが楽しそうにしてくれていることが、なんだか嬉しくて、だからこそ楽しく思えた。
私もセファルドも先生たちの魔法を相殺する為の魔法を繰り広げているが、どちらも先生たちのダンスの邪魔だけはしなかった。
優雅に、そして楽しそうに踊る先生たちの邪魔をしたくないと思った気持ちが強かった。
試験だけど楽しみたい。
好きな魔法をもっともっと楽しみたいと思ったから。
そして私とセファルドが互いの背を合わせた時、笛の音が鳴り響く。
宙に浮かんでいた先生たちの魔方陣がスウと消え、先生たちは優雅な仕草で腰を曲げた。
後半戦はずっと先生の攻撃を避けようと激しく動いていた為か、息を切らせていた私達は背中合わせになった状態で顔を見合わせる。
「終わったのか。…疲れた」
「ハハ、確かに疲れたね」
座り込むセファルドに、私は笑う。
そんな私達にリーベル先生たちが近づき「とても楽しかったわ」と声を掛けてくれた。
礼儀作法の先生に楽しいと思わせられたことが嬉しく感じ、「私も楽しかったです」と素直な気持ちを伝えると、終了の合図を鳴らした先生がパチパチと手のひらを合わせる音が鳴り響く。
例え外でも闘技場で壁に囲まれているからなのか、音が反響して聞こえた。
「皆凄いじゃないか!」
ヒルガース先生が続けて言った。
「まさか全員が解除魔法を成功させるは思わなかったよ。流石俺の生徒たちだな!」
先生のその言葉に、私達の目が輝く。
「じゃあ、じゃあ試験は…」
「皆合格だ!」
やったと喜ぶ私達に、ヒルガース先生だけでなく対戦相手となってくれた先生たちが拍手を送ったのだった。




