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蘇った吉良上野介  作者: デギリ
16/20

Xデー前のそれぞれの思惑(元禄15年秋〜冬)

その頃、大石以下の赤穂浪人は吉野の山中で武装訓練を受けていた。


「そろそろ、藩士を吉良襲撃方と幕府への示威行動グループに分けよう。

主君の仇を取るということは大切な大義名分。これは先祖伝来の筆頭家老である大石殿をリーダーとして、50名の藩士で構成しよう」


次席家老大野に憑依した高師泰はそう言い、その中に前世の47士とお目付役として自分の配下を入れる。


大石はその中に長男の主税、副将格の吉田忠左衛門、武闘派の堀部安兵衛や武林唯七が含まれているのを見て、頷いた。


確かに主君の仇を討つと言うのであれば、筆頭家老である自分が率いるしかない。


大石は、吉良を討ち、現幕府に示威行為を行って政権を転覆するという構想にいまだに懐疑的であったが、莫大な金を費やして自分たち赤穂浪人を養っている者がいる以上、言われるがままに動くしかない。


(まるで操り人形だな)

赤穂藩の時以上の給金を与えられ、喜び騒ぐ藩士をよそに、大石はため息をついた。


3月、綱吉待望の桂昌院へ従一位の叙位のための勅使がくる。

義央は万事を取り仕切り、つつがなく式は終わる。

吉良家はその働きにより、更に一万石を加増され、綱吉や桂昌院の話し相手として重用される。

高家筆頭を長く勤めて京都に詳しく、上品でかつ若い頃の美男子の面影を残す吉良上野介は、伊賀での活躍もあり、綱吉達の格好の話し相手となる。


柳沢は寵臣の座を奪われることを恐れ、虎視眈々と吉良の失脚を狙っていた。


念願の叙位が叶い母への孝行ができたと喜ぶ綱吉であったが、その一方、愛娘の鶴姫が亡くなった。

伊賀越えでの辛苦のためか、江戸に戻った後も体調が悪く、ついに死去する。


いずれ綱教と鶴姫の子供が将軍を継ぐという綱吉の希望はなくなり、鶴姫の婿である紀州綱教を後継とする理由も無くなった。


反綱吉派は家光からの血の繋がりを言い立て、ますます甥である綱豊を押し立ててきた。


綱吉自身の体調も優れず、政局が緊迫感を増す中、江戸市中では幕府高官や親綱吉派の藩の重臣への辻斬りが横行し始める。


彼らは

「天誅!

我らは赤穂義士。

主君の仇を討ち、幕府の不義の糺す!」

と叫び、夜に通り道で襲撃を繰り返す。


その第一号は吉良上野介。

綱吉や桂昌院との歓談を終えて、夜に帰宅途中に襲われたのだ。

護衛とともに義央自身も刀を振るい、ケガを負いながらもなんとか窮地を脱する。


それを皮切りに、老中や若年寄などの高官や紀州藩江戸家老などが襲われる。

命を落とした者はいないが、幕府役人達はパニックとなった。


幕府による必死の捜索も虚しく、犯人は挙げられない。

彼らは吉良屋敷に匿われていた。

義央の負傷は自作自演である。


義央は襲撃によるケガと高齢を理由に隠居を申し出た。

綱吉は強く慰留したが、柳沢は渡りに船とばかりに綱吉を説得してそれを認めることとし、この機会に吉良の屋敷も遠方に移すこととする。


(吉良め!

奴がまずは赤穂浪人の標的であることは明らか。

奴の屋敷を襲いやすい郊外に移し、あやつを餌として、赤穂浪人を誘き出してやろう)


柳沢はライバルを蹴落とし、同時に暴れ回る赤穂浪人を罠にかける一石二鳥の策に笑みを浮かべた。



「色部、久しぶりだのう。

主君の父の金食い虫が赤穂浪人に殺されなくて残念だったな」


見舞いに訪れた上杉家江戸家老の色部又四郎に義央は皮肉を言う。


普段温厚な仮面を被る義央がこんなことを言うのは珍しいが、前世を見ていた時に、己の父の仇を討てと叫ぶ綱憲を止めて、お家の為と言って赤穂浪人の凱旋を傍観させたこの男には心底怒っていた。


「いえ、そのようなことはありませぬ」

と冷や汗をかきながら言う色部に対して、


「では赤穂浪人が押し寄せてきたら加勢に来てくれるのかな」

と尋ねると、色部は無言であった。


彼の元には内々に柳沢から加勢に赴けば、上杉家を取り潰すとの脅しが来ている。

また、これまで何度も上杉家の金を借りていた義央を嫌っていた。


「お前ならそういう反応だと思ったわ。

まあいい。

我が家も加増され大名となれた。

今まで借りていた金は色をつけて返そう」


そう言って義央は借りていた金の倍くらいの金を積み上げる。


「これで貸し借りなし。

いや、吉良が貸しを作ったくらいか。

さあ、これを持って帰るがいい」


そう言う義央の顔は無表情である。

色部は迷った。


この金があれば借財に悩む米沢藩には焼け石に水とはいえ、一時的にたすかるのは事実。


しかし、援軍の言質も与えず、これを持って帰れば吉良とは実質的な手切れ、他人と思うという意味である。


(大名になったとはいえ、実力者の柳沢様の不興を買い、赤穂浪人にも狙われる吉良と親しくするのは百害あって一利なし。

ここで金をもらって縁を切れればこんないいことはないだろう)


黙って色部は金を受け取り、去った。


色部が帰った後、義央は噂を流させる。


「暗躍する赤穂浪人の背後には支藩を潰されたことを不快に思う安芸浅野家がいるぞ」


「吉良の支援には息子が当主の上杉家が立ち上がるとのことだ」


「では、浅野は綱豊派、上杉は綱吉派で参戦か。

赤穂浪人が吉良を襲うのを邪魔されないよう、浅野は上杉を牽制するのだろう。

有力外様も戦いに加われば面白くなる」


「いずれにしてもまず狙われるのは吉良の爺さんだな。

あれは賄賂好きの悪どいジジイらしいから、赤穂の浪人に殺されちまえばいいや」


太平に慣れた江戸庶民は戰物語を語るかのように、楽しげに噂する。

全ては他人ごと、面白おかしくあればいいのだ。


忍者から市中の噂を聞いた義央は面白そうに言う。


「奴らは面白ければそれでいいのよ。

そうやってわしは何百年もこの国の民に憎まれ、嘲られてきた。

ならばわしも自分の面白くなるようにさせてもらおうか」


世には、怒った綱吉が綱豊を弑するとの噂が飛ぶ。

もはや敢えて噂を流布しなくても様々な人間が思惑を持って噂が流してくれる。

義央達の思う通りの展開である。


綱豊は江戸城に登城するのをやめ、屋敷を堅く防備し、その支援者の水戸家は江戸からの近さを生かして、所領から藩兵を派遣し、尾張藩もそれに呼応しようと動き始める。


それを見た柳沢は直参の旗本や御家人を動員し、紀州藩も国元から兵を送り込む構えを見せるなど、江戸は一発触発の雰囲気となる。


中立派の親藩である会津藩や松山藩などが仲裁に入り、両派とも江戸から兵を引くこととなったが、根本原因である世継ぎの問題については膠着状態が続いている。


赤穂浪人と名乗る武装集団は相変わらず暴れており、江戸の夜の街を歩く武士は武装することが必須となる。


いつ爆発が起こるのか、おそらくそれは吉良屋敷への襲撃がきっかけであろうと誰もが考えた。

吉良上野介と赤穂浪人がいつ接触するのか、将軍から庶民までがそれに注目していた。


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