第87話
「何も無いですけどゆっくりしてってください」
「急に来たからな、気にしないでくれ。私はユーマを紹介したかっただけだ」
「じゃあ俺が作ってるアイスと飲み物出しますね」
「ユーマが作るものはすごいんだぞ」
「モニカさんにも畑は毎日手伝ってもらってますけどね」
「それももうゴーさんが来てからはあまり必要なくなった。今の私はユーマの家の1部屋を貸してもらってるだけで、何も返せるものがない」
俺としてはモニカさんに結構助けられてるし、もう一緒に住んでるのが当たり前の感覚なんだけどな。
「あの、ユーマ様はモニカさんと一緒に住むことはどう思ってるんですか?」
「どう思ってるとは?」
「住みにくいだとか、助かってるだとか、居てほしいだとかありませんか?」
「そういう意味だとモニカさんは居てくれると嬉しいですし、助かってますね」
「それはどういったところでそう思われるのですか?」
「一緒に居て楽しいですし、困った時は助けてくれたりアドバイスをくれますから。もう俺としては勝手にユーマ家の仲間というか、家族みたいに思ってますね」
「ユーマ!! 私は嬉しいぞ!!」
モニカさんがそう叫ぶと、俺に抱きつくという普段と違い絶対にやらない大胆な行動をとってきた。
「モ、モニカさん! 抱きつかれても困りますって! 離れてください」
「ユーマ、私はユーマのその気持ちに安心した。迷惑をかけていないか、早く出ていく方が良いのではないかと考えたこともあったのだが、家族ならそんなことを考える必要なんて無いよな!!」
「そ、そうですね。なのでそろそろ離れて。カーシャさんも見てますし。カーシャさん勘違いしないでくださいね! こんなことされたの初めてですから!」
「は、はい(やっぱりこの2人は出来てたの!? プレイヤー様との禁断の恋よね。やっぱり最初はユーマ様からアタックしたの……)」
カーシャさんは俺とモニカさんの関係を現在進行形で物凄く勘違いしていってる気がするが、この状況を止めることが出来ない。
「ウル達もこの状況で食べ続けるのはどうかと思うぞ!」
「クゥ?」「アウ?」「……?」
「(あの魔獣達の反応からして、やっぱり普段からあのようなスキンシップを……)」
「ユーマ、今日私の家族に挨拶する時に、ユーマの家にこれからも住み続けたいと言って良いか?」
「良いですけど、なんでこの状況でそんなややこしくなるような爆弾発言をしてしまうんですか!」
「か、家族に挨拶!?(もうそこまで話が進んでいるなんて……)」
「カーシャさん絶対に誤解してますよね? あの、聞こえてます?」
「(もしかしてモニカさんが冒険者として活動しているのは、これから2人で生活するお金……)」
「なんか1人の世界入っちゃいましたけど、カーシャさんには後でモニカさんの方から説明しといてくださいね」
「ん? パーティーメンバーにはこれからもユーマの家に住み続けることは伝えるつもりだ」
モニカさん、どうか俺の意図を読み取ってください。モニカさんと俺の間に恋愛関係はないってことを言ってほしいんですよ。
ただ、これをストレートに俺から言うのは、それはそれで恥ずかしくて出来ないんだが。
「モニカさんがパーティーメンバーの皆さんに話す際は、必ずどんな経緯でいつもどのように家で過ごしているか、そして何よりも俺達の関係をきっちりと伝えてくださいね! くれぐれも変な誤解を生まないようにしてくださいよ」
「どんな誤解を危惧しているのか分からないが、ユーマがそこまで言うならしっかり説明する」
「それだと助かります」
「はっ、すみません。少し妄想が」
「カーシャさん、俺とモニカさんには何もないですからね」
「ユーマ、酷いではないか! 私達はもう家族のようなものだと先程言ってくれたのに」
「きゃーーー! モニカさんのそのストレートな言葉、最高です!!」
「め、面倒くさい」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
このあとカーシャさんが何度も勝手に興奮しては1人の世界に入るのを繰り返し、俺は誤解を解くまでに相当な時間と気力を使った。
「お邪魔したな」
「これからもモニカさんとパーティーを組めるので良かったです。どうかこのあとのご家族との再会を楽しんでください。あと、ユーマ様も第一印象は大事ですから、頑張ってくださいね!」
「だから俺とモニカさんは友達だって」
「いや、私にとってユーマはもう友達以上の存在だぞ」
「きゃーーーっ、大胆です!(やっぱりモニカさんはユーマ様のことを意識し……)」
「私は友達と呼べる者がそもそも少ないが、ユーマは短い付き合いながらも親友に近い存在だと思っている」
「カーシャさん今のとこ重要ですよ、聞いてました? ここが大事な話でしたから、聞こえてますかー?」
「(モニカさんはあの美貌だし、たまにプレイヤー様にも声をかけられてるけど、ユーマ様と……)」
また妄想モードに入ったカーシャさんはもう放っておいて、俺はモニカさんを連れて家を出る。
「はっ、また意識が。ユーマ様、モニカさん、また来てくださいね!」
「また明日な」
「お邪魔しました」
こうしてカーシャさんの家を出たのだが、何故か家の前に人が集まっている。
「あ、あの人美人だな。プレイヤーか?」
「もしかして魔獣を連れてるあの人は、あの伝説のカジノプレイヤー、いや、カジノブレイカーじゃないか?」
「あ、俺最前攻略組が好きでいつも見てたんだけど、前のメンバーの人だよ。確かユーマって名前だった気が……」
「ゆ、ユーマ、随分と私達が目立っているようだが、なんなのだ?」
「いや、俺にも全然分からないです」
カーシャさんの家を出たらプレイヤー達がいっぱい居たのだが、何故なのか本当に分からない。
「あ、皆集まってくれてる。でもそっち見てどうしたの?」
「あ、アリスちゃんだ!!」
「あ、ホントだ。アリスちゃーん!」
「あのアリスちゃんと呼ばれているプレイヤー様は誰なんだ?」
「俺も分からないですけど、有名人っぽいですね」
カーシャさんの家とは反対側にある家から出てきたアリスちゃんというプレイヤーに、さっきまでこっちを見ていた人達も全員振り返った。
「今日は告知してた通り、カジノで誰が1番チップを増やせるか競いまーす。皆頑張ってねー!」
「うぉーーー! 俺は絶対に優勝してアリスちゃんパーティーの一員になるんだ!」
「そんなの言ったことないよ〜」
「俺も優勝してアリスちゃんと一緒に住む権利を貰うんだ!」
「だからそんなこと言ってないよー。もしかして皆あの人みたいにBANされたいの?」
「それだけはやめてくれー」
「俺もっとコネファン遊びたいよー」
「なら最初からそんなこと言わなきゃいいのに。じゃあ皆にはせっかくここまで来てもらったけど、西の街のカジノに移動するよ〜」
「「「「「はーい」」」」」
「(たぶんアリスさん? アリスちゃんさん? は配信者ですね。ライブ配信している方だと思うので、これだけ人が集まっていたんだと思います)」
「(なるほど、だがユーマも一部の人に知られていたような気がするが)」
「(俺というよりも、俺が前組んでいたパーティーが有名なだけですけどね)」
モニカさんと小声で話していると、いつの間にかアリスさんがこちらに向かってきていて、俺達に話しかけてきた。
「ごめんなさい。何かご迷惑をお掛けしましたか?」
「え、いや、ちょっと隣にいるモニカさんが注目されたくらいです。ただ、すぐにアリスさんが来たので何か話しかけられたりすることはありませんでした」
「私は何も問題ない。ユーマも隣に居たしな。プレイヤー様達が多くて驚きはしたが」
「そうですか。なら良かったです」
「あ、やっぱりユーマさんだ! あの最前線攻略組の人ですよね!」
「最前線攻略組!? あの男の方か?」
「隣の人かわいくね?」
アリスさんが俺達に話しかけてきたので、自然とギャラリーも俺達の方に気付く。
「最前線攻略組の方なんですか?」
「いや、もう辞めましたよ。このコネクトファンタジーからは1人で遊んでます。動画投稿はしてるので、俺の方はプレイヤーに何か言われる覚悟はしてるんですけど、横のモニカさんはこの世界のNPCなんで、あまり目立つようなことは避けたいです」
「そうなんですね。あの、ユーマさん、うち……私とフレンド登録だけしてもらってもいいですか?」
「えっ、まぁ大丈夫ですけど」
「ありがとうございます!」
成り行きでアリスさんとフレンド登録をすると、周りのプレイヤー達からの視線が少し怖いものに変わった。
「おい、あのユーマって奴アリスちゃんとフ……」
「もしかしてあいつそれを狙ってここに……」
「横の美人が居るのにアリスちゃんまで……」
俺にプレイヤー達の声は聞こえているのだが、それはアリスさんにも聞こえているということでもある。
「あ、ごめんなさい。ちゃんと皆には言いますから」
「は、はい。お願いします」
アリスさんとフレンド登録をしたあと、アリスさんは後ろを向いて皆に話し出す。
「うちが誰とフレンドになろうと勝手でしょ? いつものノリで私に気持ち悪いこと言ってくるのはまだいいけど、他の人に対して気分の悪くなるようなこと言わないで。そんなことするならもうこういう参加型の企画もやめるから」
「やめてくれ〜! 誰だ! アリスちゃんの機嫌を損ねたやつは!」
「そうだそうだ! お前らどの立場で言ってんだよ!」
「そういうのもやめて。別にうちは喧嘩してほしいわけじゃないの。ただ誰にも迷惑かけずに自由に楽しく遊びたいだけだから」
アリスさんのおかげで俺達に対する視線は減ったが、この一件で何も悪いことをしていない人達の気分まで下げてしまったようだ。
「じゃあこれで。またお詫びしますから」
「はい、なんかすみませんでした」
「アリスだったな。助かった、ありがとう」
こうしてアリスさんは大勢のプレイヤー達を引き連れて、街のクリスタルへと歩いて行くのだった。