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間話10

「俺らって結構弱かったんだな」

「わたしもっと強いと思ってた」

「まぁ皆他のゲーム経験者の人だから」


 このパーティーはクランに入ったは良いものの、自分達が思っていた以上に周りのレベルが高く、少しだけ自信を無くしていた。


「まぁ正直俺はこれくらいだと思ってたけど、皆に言うのも空気壊しちゃうかなって思って言わなかったんだよな」

「俺、冒険者ギルドでまた戦闘指南受けてこようかな?」

「どちらかと言うと戦い方よりゲームにかける時間の差じゃないか?」


 クランメンバーの中にはこのパーティーと同じようなレベル帯のプレイヤーも居るのだが、そのほとんどが生産職であり、戦闘職のプレイヤーはほぼ全員自分達よりも3レベル以上高かった。


「まぁクランの人と比べるのは一旦やめよう」

「そうだな。俺達は固定パーティーだし、そこまで気にすることじゃないだろ」

「生産職のプレイヤーと同じくらいのレベルだっただけでも良かったと思おう。いつか戦闘職のプレイヤー達にも追いつけば良いさ」

「そうね。じゃあ今日は何する?」

「そうだな、せっかくクランに入ったんだし、まずはクランのためになるようなことを少しはしておこう」


 クランメンバー同士でやり取りが出来るチャットに挨拶を返しつつ、皆で今後の予定を決める。


「じゃあまずはモンスターの素材か?」

「確か南の街の外には鉱石が掘れる場所があるって聞いたけど」

「そう言えばサポーターと一緒に行けば色々教えてもらえるって」

「わたし宝石を自分の手で掘るのも素敵なことだと思うわ」

「俺達の中に戦闘職以外居ないけど行けるのか?」

「それもサポーター次第かな?」


 細かく何をするのかは決まらなかったが、南の街に行くことは決まった。


「あ、また新しくクランに入ったメンバーがチャットで挨拶してるぞ」

「これ、わたし達凄く大きなクランに入っちゃった?」

「まぁ人数が多いならあまり悪いことにはならないと思うぞ」

「俺もクランで嫌になった事があるのは大体人数が少ない時だな」

「でもこれだけ人数が集まって強いクランを目指し出したら、俺達はポイッだと思うけどな」

「そうなったらそうなったでそのまま抜けようぜ」

「だな」


 自分達のレベルがクランの中で低いこと、そしてクランの人数がどんどん増えていくことに少し不安を覚えるパーティーだったが、せっかく入ったクランのために素材集めをしようと、南の街の冒険者ギルドへ向かうのだった。




「ねぇ、もしかしてミカとくるみが会ったのってユーマじゃないかしら?」

「え、さっき話してたテイマーの人です?」

「そう。ユーマは今テイマーだし、それくらい強いのはユーマしか思いつかないわ」

「本当に団長はユーマさん大好きですね。最近ずっと動画見てますし」

「だって、どのゲームでもいつも挨拶してくれるもの」

「いや、それは普通ですって」


 女性2人はコネファンとは違うゲームで遊びながら、ボイスチャットで会話を続ける。


「普通じゃないわよ。大体軽く頭を下げるくらいか、無視するかで終わりよ」

「でもメンバーは皆団長に挨拶するじゃないですか」

「仲間は別よ。他の攻略組のは・な・し」

「そうですか。まぁ確かにピリついてはいますよね。おまけに最前線攻略組のリーダーはあんまり話しませんし」

「それもあってユーマの良さは更に際立つわ」

「あ、それレアドロップです」


 ゲームも一段落し、一度ログアウトして通話アプリで話の続きをする。


「でも、もう冗談でもユーマさんを勧誘するのはやめてくださいね?」

「あら、自分で作ったパーティーに勧誘しちゃ駄目かしら?」

「ここに入るには女性っていうのが絶対条件じゃないですか」

「じゃあ条件にユーマを除くってつけるわ」

「はぁ、なんでこうもユーマさんが関わるとこの人はポンコツになるのか」

「どうせ勧誘しても来ないわよ」

「来たらどうします?」

「入れるわ」


 ゲーム後に少しだけ話す予定だったのだが、まだまだ終わらない。


「でも、仮にミカとくるみが言ってたプレイヤーがユーマさんだとして、どう関わっていきますか?」

「敵対することは絶対にしないわ」

「たぶんコネファンってそういうゲームではないですけど、団長の固い意思は伝わりました」

「これは本気で言ってるのだけど、ユーマに変なちょっかいをかけたりしたら絶対に駄目」

「ユーマさんを虐めるやつは許さない的なやつですか?」

「ユーマって愛されてるのよ」

「団長に?」

「それもそうね」

「真面目に会話しましょうよ」

「そっちが茶化すからじゃない」


「とにかくコネファンに入ったらすぐレベルを上げて、最前線攻略組の居る位置まではどの攻略組よりも早く到達するわよ」

「例のごとく最前線攻略組はきりのいいところで待ってくれるでしょうしね」

「ユーマが居なくなった最前線攻略組がどの程度なのかも楽しみね」

「弱体化していると?」

「まぁそうかもしれないけど、あそこのリーダーはそんなことで崩れるような男じゃないわ」

「随分評価してるんですね」

「だってユーマが褒めるんだもの」

「またユーマさんですか」


 こうして女性2人の話はゲームをプレイした時間よりも長く続くのだった。




「あなた、ハティが行ったわよ」

「あぁ、そうだな」


 タルブ家の玄関ではユーマとハティを見送ったあと、その扉をしばらく2人で見つめ立っていた。


「少し私はハティを大切にし過ぎたのかもしれないな」

「私もそう。あなただけの問題ではありません」

「しかし私はハティの気持ちを考えずに色々押し付けてしまった」

「私も貴族の娘としての教育ばかり力を入れてしまいました」

「だが、こうして本人に感謝されるのは嬉しいものだ」

「ハティに抱きつかれた時のあなたの顔、緩みきってたわよ」


 2人は使用人にコーヒーを頼み、リビングに移動する。


「私は間違っていたのだろうか」

「全て間違っていたら感謝されることなんてないわ。ハティにも私達の気持ちはしっかりと伝わっていたと考えましょ」

「だが、私はハティを騙すようなやり方でしか守ることが出来なかった」

「途中で逃げるように指示した冒険者をつけたこと?」

「あぁ、ハティがサポーターをすると言った時は流石にサイだけに任せるわけにはいかないと思ってな」

「でもそれもすぐバレていたと思うわ。あの子は聡い子だもの」

「失礼します。コーヒーをお持ちしました」

「ありがとう」


 使用人からコーヒーを受け取り、2人はまた会話に戻る。


「サイから事前に聞いてはいたが、先程私よりも酷いテストをしたようだ」

「あの人もハティが大好きですから」

「そうだな。西の街から帰ってきた直後、自分は一睡もしていなくて疲れていただろうに、私に向かってハティを怒らないでくれと真っ先に頭を下げてきたくらいには、ハティを大切に思っているのは知っている」

「それはそうね、でも、あの日は本当に心配したわ」

「サイが居るなら大丈夫だと信じてはいたが、それでも眠ることは出来なかったな」

「夜までに帰ってこなかった事も驚きましたけど、まさか外で寝るなんて」

「誰に似たんだろうな」

「私だと言いたいのかしら?」

「昔怒って外に出た時、夜中まで地面に寝転がっていたのはどこの誰だ」

「そんな昔の話は知りません」


 使用人に空になったコップを預け、また2人だけの空間になる。


「ユーマさん、私達よりよっぽどハティのことを考えていたわ」

「サイからはハティを泣かせたとも聞いたが」

「私達があの子の夢を、本心を聞き出せなかったからよ。ハティは自分のために本気で叱ってくれたって思ったんじゃないかしら」

「私達も本気だったんだがな」

「ハティのためって思いながら、どこか自分達のためだったのは否定できないわ」

「それはそうだな。私もハティのためなら何でも出来ると思いながら、危険なことはハティが興味を持ったものだとしてもやらせないようにしていた」

「でも、まさか冒険者とはね。誰に似たのかしら」

「本の趣味が同じなのは良いことだ」

「そのうち実際に本に載っている出来事と同じ体験をするかもしれないわね」

「なに! やはり、冒険者は、冒険者は危険過ぎる!」

「ハティにそんな姿見られないようにね」


 こうしてタルブ家の夫婦の話し合いは、頭を抱えて叫び声を上げる主人を見た新人使用人が、何事かと騒ぎ立てることで終わりを迎えるのだった。




「レイ様、聖なる種をどこに植えるおつもりですか?」

「これは治療院に送ろう」

「もうエマ様が行かれることは無いと思いますが」

「エマと同じような病気で苦しむものも居るだろう。これで少しでも良くなるのであれば、役立ててもらいたい」

「ではそのように。ですがユーマ様にはその事を伝えなくてもよろしいのですか?」

「ユーマくんのことだ。それなら聖なる花も、そしておそらく不思議な苗から出来た実も渡すと言い出すだろう。だがそれは私達の都合であってユーマくんには関係のないことだ。幸いにもユーマくんからもらったアイスは治療院の患者にとても人気らしくてね。食べると少し身体が楽になるというし、今はそれだけでも十分だよ」

「そちらもユーマ様は私達が食べていると思っておられますが」

「ずっとこのまま隠し通せるとは思わないけど、ユーマくんに余計な事を考えさせないようにしたいんだ」


 そしてさっきユーマと交渉をしていた人物を思い出す。


「ベラさんだったかな? ケーキ屋とパン屋をしているって聞いたけど、ユーマくんの商品が出るならチェックしておかないとね」

「それもまた治療院に送るためですか?」

「それはもちろん私が食べるためだよ。セバスも食べるだろう?」

「さっきまであんなに真剣な話をしていましたのに」

「さっきはああ言ったけど、治療院もそこまでお手上げ状態なわけでもないからね。あくまでも自分ができる範囲での支援をすることが重要だと私は思う」

「ではもし神聖な置物を治療院に送るとユーマ様が言い出したらどうします?」


 時が止まったかのように固まったあと、勢い良く口から心の声が漏れる。


「それは困る! やっとエマとターニャ、家族皆で暮らせるようになったのに! でも、ユーマくんがそうするなら私からは何も言えないが、でもそれはあんまりではないか! せめてあと1年はこの生活を送りたい。いや、もういっそのこと治療院の近くに私も住むか? でもこの家はどうなる? ユーマくんとのつながりもどうなる? だがエマの身体を考えると……」

「例えばの話ですからそこまで考えないでください」

「あぁすまない。……大きい声を出したら喉が渇いたよ。紅茶をお願いしていいかい?」

「かしこまりました」


 そして部屋を出てすぐの場所で、こちらの会話に聞き耳を立てていた人物へと声をかける。


「エマ様、レイ様はあのようにもう二度とエマ様と離れたくないという気持ちをお持ちです」

「……はい」

「もちろんあの方はエマ様に自由にしてほしいと願っていらっしゃるので、理由がない限り自分からエマ様と過ごしたいと無理に言うことはないでしょう。ただ私はエマ様が病気で苦しんでいた時、レイ様も同じように苦しんでいたことを忘れないで欲しいのです。どうかエマ様の方から時間がある時はレイ様に話しかけていただけないでしょうか?」

「はい。分かりました!」


 早速部屋の扉を開けたエマは、ずっと会えなかった父親に対して少し距離を置いていた事を反省し、明るい声で話しかけに行くのだった。


「お父さん、今時間ある? モニカさんとの訓練で着る服を買いに行きたいんだけど、一緒に選んでほしくて」

「あ、あぁ! 時間ならあるから、今から行こうか! いや、さっきセバスに紅茶を頼んだんだが、エマも一緒にどうだい?」

「じゃあそれを飲んでから……」


 普段は主をからかって遊んだりする執事だが、尊敬する主を喜ばせることに全力を出し、その姿をそっと影から見守ることが1番の幸せであるのだった。




「遠くねぇか?」

「確かに遠いですね」

「3人で討伐は流石にないよな?」

「うちはそれでも良いけど」

「皆に任せる」


 現在最前線攻略組はクランメンバーを帝国領に連れていくための話をしていた。


「今回はボス前まで本当に遠いですよね。生産職の皆さん自分でボス前まで来てくれないですかね?」

「レベルも高くない生産職だけで来れるわけねぇだろ」

「うちはそれよりも何人でボスを倒すかが重要だと思うな〜」

「3人でいけると思うのか?」

「倒せるけど、メンバー全員生きてるかは、微妙」

「まぁ4人なら俺もいけると思うが、そうなると効率が悪いよな」

「効率も何も死なせたらまた1からだろうが。失敗するのが1番効率悪ぃんだよ」


 そしてこれまで会話に入らなかったリーダーが口を開く。


「生産職の者の中で、ボスの攻撃をある程度避ける能力のあるものは3人、そうでないものは4人俺達が入って戦うことにする。この組み分けはレベルとこれまでの経験から判断するが、おそらく避けることができる者はそう多くない。ほぼ2人ずつこの街に連れてくることになると思っておいてくれ」

「まぁそうなるよな」

「となるとやっぱりボスまでの道を何回も走ることになるんですね」

「ボスまでの道のりは他の戦闘職のプレイヤーに任せて、うちらはボスを倒すのに集中するのが1番じゃない?」

「結局ボス前まで走るのが面倒」

「この作業が終われば自由時間を考えている」

「すぐ終わらせよ〜」

「食べ歩きする」


 ということで早速最前線攻略組は2つのグループに分かれて生産職のプレイヤー達を連れて行く。


「そういえばボス討伐ビジネスの人居なくなったっぽいね」

「あんな奴ら居なくなって当然だろ」

「行動力は良かった」


 3人になってもモンスターにやられるような気配はなく、プレイヤーを守りながら話す余裕すらある。


「そろそろ1人でボス討伐もやりたいな〜」

「終わったらやればいいだろ」

「食べ歩きする」

「確かにうちも食べ歩きはしないと」

「それもこれが終わってやればいいだけの話だ。今話すな!」

「こんな事も話したら駄目なの?」

「ケチ」

「お前らさっきから話すだけで全然モンスターを倒さないからだろうが!」


 このように少し連携に不安の残るグループ分けにはなったが、最前線攻略組はクランメンバーを次の街に連れていくため、何度も何度も同じ道を進むのだった。




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