第81話
「とりあえずこんなもんでいいかな」
「クゥ」「アウ」「……!」
結局新しい畑にはベラさんが確実に買い取ってくれるアポル等の苗とメロンやイチゴしか植えなかったが、今後新しいフルーツの種や苗を見つけたら植えていきたいと思う。
「今日はすぐ時間が過ぎてくな。もうお昼か」
「クゥ」「アウ」「……!」
「ログアウトするから、俺も現実で食べてくるよ」
家に帰りウル達とご飯を食べてから、俺はログアウトして現実に戻って来る。
「ゲームでも昼ご飯、こっちでも昼ご飯か」
ゲームと違うのはお湯を入れたカップ麺であることと、一緒に食べる人が居ないことくらいか。
「ちょっとだけゲームに戻る前に最前線攻略組の動画を見てみるか」
1秒でも無駄にしたくないため、動画を見るのはスマホなんかではなくもちろんカプセルベッドの中だ。
「見るのはコネクトファンタジーがスタートした直後の動画だけにしようかな」
帝国領がうんたらかんたらと書いてあるサムネイルでネタバレを踏まないようにしながら、数日前の動画を少しだけ見る。
「お、ゆうたがちゃんと動けてる」
攻略を競い合うライバルパーティーが居ないからか、新しいメンバーのゆうたに合わせているからかは分からないが、比較的最前線攻略組の攻略速度はゆっくりに感じた。
「やっぱり最前線攻略組は俺が抜けても強いな」
言葉ではそう言いながらも、俺がいた時よりも連携が取れているかと言われればそうは感じないので、少しだけ嬉しい気持ちもある。
「駄目だ。人の悪いところを見て喜ぶのは2流だよな」
これもリーダーに教えてもらったこと。
他の攻略パーティーの攻略速度が遅くて、他のパーティーなんか待たずに先へ行こうと言った時や、先に他のパーティーにボスへ挑まれ、そのパーティーが負けて帰ってきて喜んだ時、リーダーにそう言われた。
「真正面から勝負して、自分達の実力を見せつけて勝つことに意味がある」
リーダーは強いプレイヤーを集めているが、一度も他のパーティーから引き抜こうとしたことはないし、絶対に自分達だけで情報を独占して攻略することもしない。
どこかで区切りをつけてほとんどの情報は世に出してしまうのだ。
「それでも1番を取るってのがカッコよかったし、気持ちいいんだよな」
ボスの倒し方の解説動画もあるし、第2陣でコネファンに入ってくる人達は、下手したら今コネファンで遊んでいる人達よりゲームに詳しい可能性もある。
「見るのはここまでにしとくか」
今さら大鷲のボスを倒した時の動画なんて見ても今後の役に立ちそうなものは無かったが、かつての仲間が戦っている姿を見て少し懐かしい気持ちになったと同時に、俺も頑張ろうと思えた。
「たぶん最前線攻略組もこのあたりで攻略は一旦止めるだろうし、第2陣のプレイヤー達が来る前に会ってみてもいいかもな」
コネファンが始まってすぐの頃オカちゃんにゲーム内で話しかけられた時は、こんなに攻略組のようなことが俺に出来るとは思ってなかったが、なんやかんやで最前線攻略組の足元くらいにはしがみつくことが出来ている気がする。
「よし、行こう」
見ていた動画は消してコネファンを起動し、俺はゲームの世界に入るのだった。
「帰ってきたぞ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
俺がログアウトしている間にチャットがきていたので見てみると、ガイルからだった。
「ガイル達が家に来るってさ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
ガイルが家に来ることに了解と返事をし、俺達はクリスタルの前まで行くことにする。
「出来てるよ」
「ありがとうございます」
職人ギルドに鉱石を預けていることを途中で思い出し、インゴットを受け取ってからクリスタルに向かうと、もう2人は来ていた。
「お、ユーマ」
「お久しぶりです」
「お待たせ。ガイルもメイちゃんも久しぶり」
「2日目で手に入れたって噂の家を案内してもらおうじゃねぇか」
「別にそんな言い方しなくてもいいでしょ」
「楽しみです」
「チュン」
ガイルとメイちゃんの装備を見ると、結構レベルも上がって強くなってそうだ。
「あの短剣の使い心地はどうだ?」
「へっ、あぁ、あれはまだ使ってないというか、使う場面がないというか」
「まぁそうだろうな。別に気にしてないからいいぞ」
「せっかく作ってもらったのにごめん」
「もう持ってても邪魔になるだけだろ。俺がまた今度もっと強い武器を作ってやるから、先にそれは返しといてくれ」
俺が使ってないと分かって嫌な空気にならないようにしてくれるガイルは、とことん気遣いのできる良い男である。
「着いたよ、あそこが俺の家」
「え、あれか?」
「大きいですね!」
「立ち入り許可渡すから待ってね」
「ちょっと待て! 俺は要らねえぞ」
「え、なんで?」
「もう俺とメイは西の街に工房を貰ってるからな。それにこんなデカい家勝手に出入りしてるところプレイヤーにでも見られたら、後々面倒なことになる」
メイちゃんもガイルがそう言うならということで許可は要らないと言われた。
「まぁ2人がそれでいいならいいけど。じゃあどうぞ」
「おう」
「お邪魔します」
家の中には誰もいないが、裏の厩舎にハセクさんは居るだろう。
「デカいな」
「広いです」
「はいこれ、うちで取れたフルーツ」
「チュン!」
メイちゃんの魔獣のピピがフルーツに夢中になってる間に、ガイル達と話をする。
「で、今日は遊びに来た感じ?」
「それもあるが、メインはこの前言ってた装備装飾品の話だ」
そう言うとガイルはインベントリから装備装飾品を出す。
「これが俺とメイで作ったやつだな」
「まだまだ弱いと思いますけど、作ることは出来ました」
装備装飾品『敏捷の珠』
名前:敏捷の珠
効果:敏捷+2、一部スキル発動速度上昇
説明
製作者メイ:サファイアをベースに作られた装備装飾品。敏捷値、一部スキル発動速度を上昇させる。
「おぉ、ドロップ品しか見たことなかったけど、やっぱり作れたか」
「性能はイマイチだと思うが、ないよりはマシだろ」
「これはガイルさんと一緒にユーマさんへ作ったものなのでどうぞ」
「ありがとう」
「ユーマが置いてった素材で作ったからな」
早速敏捷の珠を靴に付けておく。
「これにいち早く気付くことが出来たのは大きい。これから先俺は武器を、メイは装備装飾品をメインにしばらく作ることになるだろうな」
「装備装飾品を作ると錬金術師としての経験値がすごく溜まってる気がするので、ポーション作りはしばらく休止です」
「装備装飾品なんて情報はまだほとんどのやつが知らないだろう」
「でもそろそろ出回るかもね。最前線攻略組が知らないわけ無いし」
「だとしてもしばらくは他のやつが作るよりも、メイが作る装備装飾品の質の方が良いはずだ」
メイちゃんが今よりもこのゲームを楽しめるようにガイルが協力してあげてるのだと思うと、ほんとに良いやつだなと思う。
「一番話したかったことは話せた」
「そうですね」
「じゃあ鍛冶部屋と錬金部屋でも見てく?」
「確かにそれは興味あるな」
「お願いします!」
ということで2人を案内することに。
「おい、お前これ、いや、なんでもない」
「一応知り合いのNPCの鍛冶師が使った時は、凄いって言ってたよ」
「そうだろうな」
「ユーマさん! これ凄いですね!」
「そっちはまだ誰も使ったことないかな」
魔法の金鎚と魔法の錬金釜を見せると、2人ともいいリアクションをしてくれた。
「あ、ちょうどいいしメイちゃんにゴーレム作ってほしいかも」
「ゴ、ゴゴ、ゴーレムですか?」
「お前なんてもん作らせるんだよ」
「素材は出しとくね。本当は昨日の夜自分で作ろうと思ってたんだけど、宝石削りに夢中になっちゃって。あと今考えるとその時金属のインゴットも持ってなかったし、これはメイちゃんに作ってもらえってことだったのかも」
「が、頑張ります!」
インベントリから少しずつゴーレムのための素材を出していく。
「まだあるのか?」
「うん、まだまだあるけど」
「メイに判断してもらって、要らないものはインベントリの中に入れないと、ゴチャゴチャになるぞ」
「確かに」
「えっと、これは使えるかも。これは要らないです。これも要りませんね。これは……」
このゴーレムの素材選びが結構難しいらしく、いくつも質問される。
「ユーマさんはどのようなゴーレムが必要なんですか?」
「家事と農業をしてくれると嬉しいかな」
「他には何か希望はありますか?」
「その2つができれば、あとは何でもいいかな。色々なことが任せられたら嬉しいし、自分で行動できるならありがたいけど、とにかく重要なのはその2つかも」
ゴーレムの方向性も決まり、素材選びがまた始まる。
「贅沢だな」
「戦闘能力があっても外に連れて行く気は今のところ無いしね」
「これはどうだろ? あ、それならこれとこれ、あとこれも混ぜるといいかも?」
少しメイちゃんの独り言に疑問符が多くて不安になるが、どうやら素材は決まったらしい。
「では、やります!」
メイちゃんは錬金釜にどんどん素材を入れていく。
「これは錬金術なの? 錬金術だけでこんなことできるとは思わないんだけど」
「まぁ錬金術は確実に使ってるだろうが、他のスキルも使ってるだろうな。俺も錬金術のスキルは持ってるし、メイも鍛冶師のスキルは持ってる。生産職は皆自分の職業以外の生産職スキルを使えるのはコネファンだと結構当たり前だ」
「へぇ〜、そうなのか」
「ユーマが自分でゴーレムを作らなかったのは正解かもな」
メイちゃんはあの大量の素材を全て入れ終え、今はただただ錬金釜を混ぜている。
「お、そろそろ出来るんじゃないか?」
「どんな風に出来るんだろ」
「しっかり見とくほうがいいぞ」
ガイルにそう言われたので、見逃さないよう瞬き一つせずに錬金釜を見つめると、突然錬金釜がものすごい光を放って目がやられる。
「め、目がぁぁぁぁぁぁ!!」
「ユーマ、お前期待通りのセリフと反応してくれるんだな。それにしても俺が見た中でも今回は1番輝きが強かった気がするぞ」
「出来ました!!」
「あ、ホントに出来てる」
しばらく目の前に白いモヤがかかった状態で何も見えなかったが、それが終わると目の前には金属っぽい素材で出来たゴーレムがいた。
「えっと言葉は分かるか?」
「ゴゴ」
「名前を付けても良いか?」
「ゴゴ」
「じゃあなんだろう、ゴーさんで」
「ゴゴ」
こうして俺はゴーレムのゴーさんを仲間にすることが出来た。