第8話
「ありがとうございました。ユーマさんのおかげでもう大丈夫です!」
配達窓口のお姉さんにそう告げられ、配達依頼はこれで終了となった。
なんか俺の敬称が様からさんに変わっているが、この変化は距離が近づいたようで嬉しい。
「じゃあ俺とウルはこれで失礼します」
「クゥ!」
こうして冒険者ギルドの配達依頼が終わったので、楽しみだった捕獲依頼へ挑戦することにする。
「この道具は最後に使うケージで……。これは途中で暴れたときに傷つけないためか。……この網はどう使うんだ?」
捕獲依頼をするにあたって、いくつか道具が支給されたのだが、捕まえたあとに閉じ込めておくケージ以外が、いまいちどう使うのか想像できない。
カシワドリは現実で言う茶色の鶏のようなもので、群れで行動しているらしい。
なので数自体はいるだろうが、どうやって気づかれずに近づくのか、そもそも気づかれても逃げないのか、全く分からない。
「まぁ相手はこの世界の生き物だし、現実と同じだと思い過ぎるのも良くないか」
カシワドリが5体入るケージは、インベントリに入れていたから良いものの、なかなかの大きさだ。
1体捕まえてしまえばそこからはインベントリに仕舞えないので、思ったよりも難しい依頼だったかもしれない。
「ここだな。俺は準備するからウルはあいつらに逃げられないよう今は大人しくしといてくれ」
「クゥ」
ケージを出し、手袋をはめて、虫取り網のようなものを組み立てる。
「準備はOK。じゃあ早速やりますか!」
「クゥ!」
なるべくケージの近くで捕まえたいので、そーっとこちらに背中を向けている1体のカシワドリに近づく。
『ゴゲーー!』
「うわっ、暴れないでくれよ!」
網で捕まえたはいいが、こいつの鳴き声で他のカシワドリが逃げてしまった。
「ケージに入れてもずっと鳴き続けるのか」
『ゴゲ、ゴゲゴゲーー!』
このままだとこいつを持っている間は、絶対にカシワドリの近くまで行けない。
「ウルもお疲れさん」
「ク、クゥ」
ウルにも手伝ってもらって、なんとかこちらまでカシワドリを寄せるように頑張ってもらったのだが、こいつの鳴き声が聞こえた瞬間みんな逃げていった。
「一旦持って帰ってまた来るか?」
効率は悪いが現実的なのはこの方法だ。さっきから近くでカシワドリの鳴き声を聞いているからか、どっと疲れが出てきた。
「クゥ」
「分かった。一旦おやつにするか」
インベントリからアポルの実を出して一緒に食べる。
『ゴケッゴケッ!』
「なんだ、お前も欲しいのか?」
カシワドリもこっちを見て欲しそうにしているので、少し分けてやる。
「美味いか?」
『…………』
「夢中になるくらい美味いのか、腹が減ってたのか……!? ウルは今のうちに他のカシワドリをここまで連れてきてくれ!」
このタイミングを逃してはならない。
気まぐれであげたアポルの実をもう1つ追加して、カシワドリが食べ切れないようにする。
「クゥクゥ!」
「よくやったぞ!」
『ゴケ』『ゴゲー』『ゴゲゴケ』…………
想定以上のカシワドリ達がケージの中のアポルの実にとびつく。
『……』『……』『……』
「いや、食べる時音しないの怖いな。行儀がいいと思えばいいのか」
「クゥ!」
「ウルもありがとな。今は急いで魔獣ギルドまで持ってかないと」
ウルのおかげでカシワドリを大人しくできたし、ウルのおかげで何体も連れてくることができた。
「俺は持ってくので手が離せないから、道中のモンスターは頼んだ」
「クゥ!」
角ウサギやスライムはウルだけでも大丈夫そうだし、レッサーウルフが来ても数体ならそこまでの危険はないだろう。
『ゴゲ』『ゴケー』『ゴゲゴケ』……
アポルの実が遂に食べ尽くされた。元々量が少なかったこともあって、途中でうるさくなるのは分かってたが、何体も集まると更にうるさい。
「ケージいっぱいにカシワドリが詰まってるおかげで、多少揺れても怪我は大丈夫そうだな」
街の近くまで来るとプレイヤーからもNPCからも注目を集めてしまい、居心地が悪かったため早足で魔獣ギルドまで向かう。
「ウルはここで見張りお願い」
「クゥ!」
流石に魔獣ギルドの中まで連れて行くのはまずいと思ったので、俺だけ入って確認する。
「すみません。捕獲依頼で捕まえた生物って、どこに連れてけばいいでしょうか」
「ユーマ様ですね。配達依頼の時と反対側のギルド横に持ってきていただきたいです」
やっぱり中まで持っていくわけではないようで、外に置いてて良かった。
「分かりました。ちなみに依頼された数より連れてきちゃったんですけど、どうにかなりませんかね?」
「一度捕獲依頼分を確認してからまた話しましょう」
「ありがとうございます」
ギルドの中からでも少し声が聞こえるくらい、カシワドリ達は元気に鳴き続けている。
「ウルありがとな、あっちの方に預けるらしい」
ギルドの人が目の前まで迎えに来てくれて、一緒に行く。
「ユーマさんですよね。配達依頼の次は捕獲依頼ですか。あまりプレイヤー様がやらない依頼を受けてくれてありがとうございます」
「いえ、結構好きでやってる部分もあるので。俺もあまりやりたくない依頼は他の人に任せますよ」
そんな会話をしながらギルド横の捕獲窓口まで来た。
「捕獲依頼としましては5体なので、まずはその分の報酬をお渡しさせていただきます」
これで3,000Gが手に入った。これだけでウサギ肉150個分の報酬だ。
「そして余りの数なんですが、7体もいましたね。ケージは比較的大き目のものを用意させていただいたのですが、2倍以上の数は流石に想定外でした」
「なんか壊しちゃったりしてないですか?」
「それは大丈夫です。本来10体は入るようにできていますし、壊れたとしてもこちらが負担します。壊れた理由によっては依頼受注者の方に払っていただきますが、依頼を行って壊れた分には基本的に問題ありません」
とりあえずこれからも捕獲依頼を受ける時は安心してケージを使えそうで良かった。
「じゃあ7体のカシワドリってどうなります?」
「魔獣ギルドで買い取ることも出来ますし、他のプレイヤー様に売ることもできます。プレイヤー様に売る場合は、商人ギルドへの登録をおすすめします。最後に、料理店等に直接売るということも出来ますが、その場合はユーマ様がお店から直接依頼を受ける形になりますね」
今ある選択肢の中では魔獣ギルドに売るしかないな。このゲームで知り合ったプレイヤーはガイルだけだし、商人ギルドで登録してまで高値で売りたいわけでも無ければ、料理店につてもない。
いや、1つだけあるな
「ちょっと個人でやってる屋台の人に聞いてみたいので、それだけ確認してきてもいいですか? いらないって言われたら魔獣ギルドの方に売りたいです」
「かしこまりました。魔獣ギルドではオス1体につき400G、メス1体につき1,000Gで買い取らせていただきます。ちなみにメスは1体おりまして、捕獲依頼の方では全てオスを選ばせていただきました」
窓口のお姉さんはなんて親切なんだ。
詳しく聞くと、メスが欲しい場合は依頼に性別の指定があるそうで、オスだけでいい場合はわざわざ性別の指定をせずにオスだけだった場合の報酬額で捕獲依頼を出すらしい。
「じゃあちょっと行ってきます」
魔獣ギルドにカシワドリを預けたまま、俺とウルは串焼きの屋台まで向かった。
「あいよ」
「ありがとうございます」「クゥ」
串焼き屋台について、せっかくなので串焼きを注文した。今回は500G分の串焼きをお任せで頼んだ。
「あの、相談があるんですけど、カシワドリって扱ってたりしますか?」
「ああ、この前お前さん達が食べた中にもあったぞ」
「実は捕獲依頼……」
事情を説明し、値段はギルドで買い取ってくれるのよりも低くなければ良いと言ったのだが。
「お前さん、ギルドはだいぶ安く買い取ってるのは分かってるのか?」
「それはもちろん。でも、ギルドってそういう役割の場所じゃないですか。仲介料は引かれるけど、ギルドがないと俺たちは依頼を受けるのが難しいし、依頼したい人も難しい。安く買い取って高く売る分、それが必要な場所に届けてくれるのかなって」
「そうか。分かってるなら良い。俺の方で全部買い取ろう。そのうちいくつかは知り合いのところに渡すが良いか? 俺の方で中抜きなんて真似はしねえが、そこは安心してくれとしか言えねえ」
「ではお売りしますね。信じてますし、そもそも売った後のものに文句は言いませんよ」
そうして串焼きの屋台のおっちゃんに、オス6体とメス1体、全部で6,000Gで買い取ってくれることになった。
「ギルド価格でも良いんですけど」
「お前さんが言ってた通りギルドはあの値段が妥当だが、俺らが買う場合の値段はこんなもんだから変わらねえよ」
「じゃあありがたくいただきますね」
そうしてまたギルドに戻り、串焼きのおっちゃんのところに7体を売る話をする。
「かしこまりました。ではこのカシワドリはこちらで預かり、ギムナさんに渡しておきますね」
初めてあの人の名前を知った。
というか、あっさりお金を渡して危機感がないななんて思ったが、ギルドに預けておけるからか。
「じゃあよろしくお願いします。行こっか」
「クゥ!」
俺たちは捕獲依頼を無事に終えて、魔獣ギルドをあとにした。