第77話
「ユーマさん、これで大丈夫ですか?」
「良いよ。そんなに心配しなくても俺の照明もあるから大丈夫」
1度ログアウトしてトイレだけ済ませてまた帰ってきて、今はハティの住む街から連合国領の最初の街に向かって進んでいる。
「そんなに楽しい?」
「はい!」
「なら良かった」
最初モンスターが襲いかかってきた時は、キプロの怖がり方が可愛く思えるくらい悲鳴をあげていたが、今は少しマシになった。
「でも、夜の探索より明るい時が良かったです」
「まぁそれは今後いっぱい経験できるんじゃない? そもそも夜に探索するのなんてプレイヤー以外ほぼいないから」
正直基礎的なサポーターの動きは役に立つかもしれないが、夜中にどういったことをするかなんてハティに教えてもプレイヤーと行動する時以外あまり役には立たないだろう。
「ここで今の場所の確認だな」
「こんなにこまめに確認するんですね」
「夜中は周りが見えないからな。知らない場所で迷ったら朝になるまでほぼ動けなくなる。洞窟でも同じだが、洞窟は朝が来ないから更に気をつけるべきだ」
「覚えておきます」
ハティは一生懸命サポーターの役割を覚えようとしている。
「それにしてもモンスターが強いな」
「ユーマ様、少しお話したいことが」
「キャーーーッ、もう、サイ! 急に出てくるのはやめて!」
「失礼いたしました。そして話なのですが……」
護衛のサイさんはハティの話を無視して俺に小さい声で話してくる。
「……以上でございます。探索途中に失礼しました」
「……分かりました。タイミングがあればやってみます」
「もう、次からはもっと普通に出てきて!」
「では私はこれで」
そう言うとサイさんはまたどこかに消えてしまった。
「ユーマさん、サイに何を言われたんです?」
「まぁ個人的なお願いをされたかな」
「嫌なら断っていただいていいですよ」
「まぁ難しそうだったら諦めるよ」
サイさんと話した内容はぼかしながら、ハティを連れてどんどん進んでいく。
「とりあえずこのあたりを中心にして周りのモンスターを狩ってこうかな」
「分かりました。えっと、こういう時はこの場所に何か目印を……」
ハティが準備している間に、ウル達に声をかける。
「(もしかしたら俺がおかしな動きや指示をするかもしれないが、ウル達には上手く合わせてもらいたい)」
「クゥ?」「アウ?」「……?」
俺が何を言ってるのか分からないだろうが、ハティが来たので話を切り上げる。
「ユーマさん準備できました」
「よし、じゃあまずはそっちからぐるっと回るようにモンスターを狩ろうか」
「はい!」
俺もそれほど詳しいわけではないので、ハティと一緒にサポーターのするべき行動を考えながらモンスターを倒していく。
「結構モンスターが強いから、こういう時はハティが後ろで、俺達は前で戦う方がモンスターを倒しやすい」
「分かりました。自分は後ろに下がってますね」
「あのー、なんだ、後ろだからといって気を抜くなよ」
「もちろんです!」
ウル達はハティのことを心配そうに見るが、そんなウル達を俺は前に行かせる。
「じゃあ行くぞ」
「クゥ」「アウ」「……(コク)」
「頑張ってください!」
暗闇から襲いかかってくるモンスターに苦戦しながらも、ハティが後ろから撒いてくれるヒカリゴケの助けもあり順調に倒していく。
「クゥ!」「アウ!」「……!」
「ハティ! モンスターだ!」
「えっ」
ハティの後ろからモンスターが襲いかかり、どう頑張っても俺達には助けることができない。
「ユーマさん! ごめんなさい!」
そう言うとハティは帰還の魔石を使い、その場から消えた。
「サイさん、これでよかったですか?」
「ええ、ありがとうございました。これでハティお嬢様も自由にサポーターを続けることが出来るでしょう。私はお嬢様が今起きたことを大事にする前に伝えに行かないといけませんので失礼します」
そう言い残しハティに続いてサイさんも消えた。
「まぁ結果的には良かったな」
「クゥ?」「アウ?」「……?」
「ウル達にも話しておくか」
今回ハティが帰還の魔石を使って逃げたことは、サイさんによって仕組まれたことだった。
「ウル達に説明する時間はなかったけど、ようはハティが危険になった時に正常な判断が出来るかを試してくれってお願いされたんだ。だから普通ならハティを真ん中に居させるところを後ろに行かせたり、わざわざモンスターが隠れて後ろから襲ってきやすそうな道を選んだりしたんだ」
「クゥ」「アウ」「……!」
「サイさんがハティの安全は絶対に約束するって言ってたからモンスターを襲わせたけど、ちゃんと帰還の魔石を使えてたし良かった。サポーターを目指し出してすぐにこんな試すようなことをするのは酷だと思うけど」
ハティがいなくなったことにより、松明の明かりが消えてモンスターと戦いにくくて仕方がないが、嘆いても何も変わらないので頑張って街へと進む。
「気を抜くなよ。これで俺達が倒されたらハティは絶対に逃げたことを後悔するからな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
「よーし、街が見えた。ウル達もお疲れ様」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
来た道を戻っただけなので、あまりモンスターに襲われることもなく意外とすぐに街には着いた。
「ユーマさーん!!」
「お、ハティだな」
門の前に立ってこっちを向いているのが2人見える。
「ユーマさん! すみませんでした!」
「いや、俺の方こそごめんね。いきなりあんなことしちゃって」
「サイから全て聞きました。ユーマさんは何も悪くないです!」
「そう言ってくれるとありがたいよ」
サイさんも横でこちらに頭を下げている。
「これでハティお嬢様は自身の身を守れることを証明いたしましたので、本当の意味で自由に動くことが出来るようになりました。これまで通り私はお嬢様の側におりますが、冒険者をこちらで手配するなどということはもうないでしょう」
「良かったな」
「少し複雑な気分ですけど、お父様とお母様に認められたのは良かったです」
「じゃあまだ時間あるけど、外で探索する?」
「はい! あ、その前に一言だけお父様とお母様にお伝えしたいことがあります」
「いいよ」
そしてハティの家に着くと、待っていたかのように玄関にはハティの両親が居た。
「お父様、お母様、今までご迷惑をおかけしてすみませんでした。もう自分はすぐに諦めるようなことはいたしません。これからも心配させることはあるかもしれませんが、どうか信じて見守っていてください」
「ということは、サイのテストには合格したということか」
「自分の身を守るためにユーマさんを犠牲にして、ですが」
「えっ、いや、犠牲になった覚えはないけど」
「ですが自分はユーマさんを見捨てました! サポーターとしての判断は良かったかもしれませんが、自分の気持ちとしては今でもあれが正解だとは思いません!」
「ハティ、落ち着きなさい」
ハティのお母さんが感情的になっているハティを落ち着かせる。
「ハティ、お前の判断は正しい。私は仮に誰かを犠牲にしてでもハティには生きてほしいのだ」
「ですがお父様、自分は誰かを犠牲にしてまで生き残りたいとは思いません!」
「なら強くあれ。今そんな事を言ったところで、私には何も響かん」
「あなた、少し言い過ぎよ。ハティ、難しいことは考えなくていいの。私達はハティに楽しく生きてほしいだけ。それだけよ」
「お母様……」
うん、気まずい。サイさんに言われたからハティをモンスターに襲わせたとはいえ、死んでも死なないプレイヤーである俺にこの話は気まずい。
「あの、俺ってプレイヤーだし、ハティの言う見捨てるとか、犠牲にするとかには当てはまらないんじゃないかな〜、なんて」
「プレイヤー様も冒険者も自分にとっては同じです!」
「そうだぞユーマ君、今のに関してはハティの言う通りだ」
「ユーマさんはもっと自分の命に責任をお持ちになってください」
「え、あ、すみません」
ハティにも、ハティのお父さんにもお母さんにも叱られてしまった。
「あの、とりあえずハティはこれからサポーターを経験しつつ冒険者を目指すことは許してもらえるのでしょうか?」
「あ、そうでした。お父様、お母様、自分はもう決めました。反対されたとしても絶対に諦めません!」
「そうか。あまり危険なことに興味を持ってほしくなかったんだがな」
「あなたが女の子らしい趣味を押し付けるから反発してこうなったのではありませんか?」
「うっ、まぁ好きな事をすれば良い。私はハティが無事で居てくれればな」
「お父様!」
「おっと、ハティ、急に抱きつくなんてはしたないぞ」
「そう言う割には、あなたの顔嬉しそうよ」
結果的には家族にも認められて、ハティはこれから冒険者を目指すことが許された。
「このあともう少しサポーターとして頑張ってきます!」
「気を付けてね」
「ハティを頼む」
こうして俺達はハティの家族に見送られて、街の外へと向かうのだった。