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第73話

「ここはなんだっけ。教えてもらった通りの名前なら、アウロサリバ東のピオネル村か?」


 ホブゴブリンの一撃で俺が倒されて、復活のボタンを押したらこのクリスタルの前に出てきたのだが、横を見てもウル達が居ないことが更に負けた事実を俺に突きつけてくる。


「はぁ〜、負けちゃったなぁ」


 もう少し上手く戦う事は出来ただろうが、結局あのホブゴブリンは倒せなかったと思うと、そもそもゴブリンの巣に挑戦すること自体が間違っていた。


「1人で反省会する前に、皆も復活させないとな」


 俺はそのままクリスタルではじめの街に移動して、職業を決めた時に行った教会まで歩いていく。


「すみません、魔獣の復活をお願いします」

「かしこまりました」


 教会の中に初めて入った時とは全く違い、人がほとんど居ない。


「こちらでお待ち下さい」

「分かりました」


 教会の小さな部屋に案内され待っていると、若いシスターがやって来て魔獣の復活に取り掛かってくれる。


「お願いします」

「かしこまりました。少し下がっていてくださいね」


 そしてそこから何かシスターが長い詠唱をしたかと思えば、俺の周りに3つの光が集まり、次の瞬間にはウル達が眠った状態で現れた。


「今後このようなことがないことを願っております。神のご加護があらんことを」

「ありがとうございました」


 シスターにはお礼として5万G渡しておいたが、あとから聞いた話によると魔獣1体につき1万G払うのが普通だそうだ。


 魔獣の命に値段が付けられている気がして気分は良くないが、お金を払わないのも何か違う気がしたので、俺はシスターに魔獣を復活させてくれた感謝のお礼としてお金を渡したと思おう。


「もう少し待つか」


 自然に起きるのか俺が起こすのか分からないので、しばらく待つことにする。


「お金は減ってないし、アイテムもたぶん減ってない。ただ視界の上の端っこの方にデスペナルティって表示があるな」


 このデスペナルティに表示されている時間中はモンスターを倒しに行ったりすることは控えるほうがいいのだろう。ステータスも下がっていて、経験値も貰えなくて、アイテムも落ちないなら行く意味がない。


「シスターにはゆっくりしていいって言われたけど、流石にもう出ていくか」


 ウル達は起きる気配がないので仕方なく起こすことにする。


「よし、皆起きてくれ」

「クゥ」「アゥ」「……」


 皆復活したばかりであまり元気がない。


「一旦家に戻ってゆっくりしよっか」




「そろそろ元気出してくれないか?」

「「「……」」」


 3人はどうも俺の足を引っ張ったと思っているらしく、明るく話しかけてもだんまりだ。


「そもそもホブゴブリンが強かったからな。あのまま戦っても倒せなかったよ」


 レベルが足りてなかったのは本当なので、ウル達が落ち込む必要はないのだ。


「それにゴブリンの巣に挑戦するって決めたのは俺だし、元をたどれば俺の責任でもある」

「「「……」」」

「んー、皆で食事にするか? 今なら何でも食べていいぞ?」

「「「……」」」


 ウル達を元気づけようとするが、自分の手札の少なさに絶望する。


「えっと、ウル達は何をご不満に思ってらっしゃるのでしょうか?」

「クゥ!」「アウ!」「……!」

「うぉっ」


 そう俺が質問したと同時に、皆が俺に寄りかかってくる。


「え、お腹? 胸?」

「クゥ!」「アウ!」「……!」

「あぁ、ホブゴブリンに斬られた怪我? そんなのは全く残ってないから大丈夫だって」


 プレイヤーは痛みをあまり感じないようになっているし、ウル達の戦いを見ていても、魔獣もプレイヤーと同じようにあまり痛みを感じているようには見えない。

 今のところ考えられるプレイヤーと魔獣の違いとしては、スタミナという概念があるかどうかくらいだ。

 プレイヤーも精神的なスタミナはあるが、現実のように動き回って息が切れるというようなことはない。まぁ魔獣も元々のスタミナが多いからあまりプレイヤーとの違いとしては大きくないが。


「ウル達は最後倒されずに済んだか?」

「クゥ」「アゥ」「(コク)」

「なら良かった」

「「「……」」」


 主人が倒されてしまえばパーティーを組んでいる自分の魔獣も倒されたことになるので、ウル達の反応を見るに俺が倒されたことでゴブリン達に倒されることはなかったのだろう。


「まぁウル達からしたら死んでしまうのは初めてだもんな。でもこれからも色んなモンスターに挑戦するなら、同じことをまた経験することになる可能性は高い」

「「「……」」」

「レベルを極力上げて安全に行くなら違うかもしれないけど、こういうギリギリの戦いを続けていくならいちいち気にしてたら進めないぞ」

「「「……」」」


 ウル達はこのゲームの魔獣だから俺とは感覚が違うだろうが、これからも同じようにやっていくためには皆の意識を変えることが必要だ。


「別に俺は皆に倒されて欲しいわけじゃないし、無謀な挑戦をしたいわけでもない。ただ、これからもこういうことが起こった時、こうやって落ち込むだけの時間が勿体ないっていう話はしておきたかったんだ」

「「「……」」」

「俺も負けて悔しいしな。けど失敗を受け入れることは必要だ。そして何よりも次成功させるためにどうするかを皆で考える。これが大事だ、そうだろ?」

「クゥ」「アウ」「(コク)」


 やっと皆の顔に元気が戻ってきた。


「じゃあすぐにさっきの反省会するぞ」

「クゥ!」「アウ!」「……!」


 こういうのはすぐに話し合う方が、心にも深く残って反省する気持ちも強いままでいられる。


「まず最初に、もっと多くのゴブリンを仲間のゴブリンに気づかれないで倒したかった。あれは全員がもう少し慎重にすれば良かったな」

「クゥ」「アウ」「(コク)」


「そして次はウルが敵のトラップに引っかかったのがマズかった。これでウルが瀕死になって俺達の陣形が崩れた。あと回避のスキルをどこで使ったのか分からないが、重要なスキルは使い所をもっと考えて使わないといけない」

「クゥ!」

 

「そしてルリも超回復と仲間のヒールを頼りにして、敵の攻撃を少し受けてしまう癖が今回は悪い方向に出てしまった。自分に攻撃してくるゴブリンが急に増えて超回復じゃ間に合わなくなった頃には、エメラがウルの回復に精一杯でルリに回復を回す状態じゃなくなってたんじゃないか? 最初からルリの体力が減ってなければもう少し1人で耐えれたはずだ」

「アウ!」

 

「そしてエメラは最後までよくやった方だが、もっと多くの敵に1度の攻撃でダメージを与えるようにしないといけない。そもそも回復でルリを援護しようとするんじゃなくて、ルリに攻撃してくる敵を先に倒してやればもっと楽に戦えたはずだ。エメラは何でも出来るからこそ、その場で自分で考えて最大限出来ることをやってくれ」

「(コクコク)」


「そして今回は俺が1番マズかった。ゴブリンの相手は誰よりも慣れてるはずなのに遊撃に出て単独行動を取ってしまった。もっと皆に声をかけながらゴブリン相手に気をつけることをリアルタイムで話せば良かったんだ。そしてホブゴブリンを1人で探しに行ったのも良くなかった。一か八かで探して倒しに行くよりも、ウル達にテイマーのスキルを使って魔獣強化すれば、ホブゴブリンは倒せないにしてもあの状況は切り抜けられた可能性はほんの少しだけあった」


 色々と皆には話したが、結局1番後悔するのはいつでも自分の行動だ。


「良く聞いてくれ。俺達はエリアボスでも、ユニークボスでも、ダンジョンボスでもない。ゴブリンの巣に、ホブゴブリンに、ゴブリン達に負けたんだ! 絶対にこの負けを忘れるなよ」

「クゥ!」「アウ!」「……!」


 俺もまさかゴブリンに負けるとは思わなかったが、今回のことでやっとウル達を本当の意味でパーティーメンバーとして見れた気がする。


 これまではどこかウル達を最前線攻略組のメンバーと重ねていた部分があった。ウル達の成長が早くて俺も甘えていたのかもしれない。

 そしてゴブリンという俺だけが慣れた敵と皆で戦って、見事に崩壊した。


 最前線攻略組のメンバーなら絶対にトラップに引っかかることもなければ、周囲を囲まれることもなかったし、ましてやゴブリンの攻撃なんかかすることすら無かっただろう。

 最前線攻略組では絶対に起こり得ないことが起こったからこそ、俺はウル達のことを初めて最前線攻略組と比べることなく見れるようになった。


「ウル達が劣ってるわけではなくて、最前線攻略組とは違う良さが皆にはあるからな」

「クゥ?」「アウ?」「……?」


 経験は向こうの方があるし、レベルも高ければ攻略にかける思いも強い、今は人数も俺達より多いことを考えると、攻略の早さを比べるなら俺達が勝つことは出来ないだろう。


 だが俺達は好きな事を好きなだけやるし、魔獣達も仲が良くて居心地がいい、そして何よりも皆と何かをすることが楽しい。この事が俺を更にこのゲームへ深く沼らせる。


「皆はどうだ。まだ気持ちが追いつかないとか、動きたくないとかあるか?」

「クゥ!」「アウ!」「……!」


 これを見ると今回のことで3人は精神的にも強くなった気がするし、負けて成長した部分が早速見られて良かった。


「よし、じゃあこれからのことを考えようか。まずは……」




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