間話9
「ダンジョンはもう行きたくないかも」
「俺もだな」
「わたしも」
「あんなに最初はやる気だったのにか?」
「もう普通の探索がしたい」
ダンジョンから出てきたパーティーは、南の街を歩きながらダンジョンの話をしていた。
「ずっと同じことの繰り返しはしんどいよな」
「もっと俺達が強かったら下の階層にサクサク行けるんだろうけど、出て入って歩いて戦って、また出て入って歩いて戦っての繰り返しはもうしたくない」
「目標の10階層は行けたし、しばらくダンジョンは行かないことにしない?」
「賛成」
そんな話をして歩いていると、目の前に同じマークのついた装備を着たプレイヤー達が、大声で話しているのが聞こえてくる。
「攻略に興味のあるものは俺達のクランである『鋼鉄の砦』まで来てくれ。今は入団者を探しているが、すぐに締め切る可能性もある。個人でもパーティーでも大歓迎だ! 入団希望者は俺達のクランハウスである……」
「あれは何なの?」
「クランの募集かな」
「最初は結構クランメンバーを募集してる人達居たけど、最近はあんまり見なかったな」
「スタートダッシュも落ち着いて、ここらでメンバー増やしたかったんじゃない?」
もう少し話を聞いてみると、第2陣のプレイヤー達にこのままだと抜かされてしまうぞというような言葉もあり、第2陣への対抗意識のようなものはあるのかもしれない。
「あんまりわたし分かってないんだけど、クランって何?」
「簡単に言うと、パーティーよりももっと大きな枠組みでの仲間かな?」
「クラン全員戦闘職とか生産職もあるしクランによって方針が全然違うから、これがクランだ! っていうのは難しいかも」
「仲間の人数が増えると単純に楽しいしね」
「じゃあわたし達はクランを作ってクランメンバーを探したり、クランに入ったりはしないの?」
「そう言われてみればそうだな。どこか入ってみてもいいかもしれない」
「攻略組のクランに希望してみるのはどうだ?」
「俺達がそんなクランに入れるわけないだろ。それと、もし入れたとしても雑用係で終わりだよ」
「結局クランに入るにもメリットとデメリットがある場合が多いからな。今はこのままで良いんじゃないか?」
「あ、そこのパーティーの方。クランに興味ありませんか?」
「うぇ!? えっと、あの、どうする?」
「早速勧誘されたな」
「まぁ少し話を聞くのは良いんじゃないか? 今は特に予定もないし」
「そうするか」
このあとも3つのクランに誘われ、色々なクランの話を聞くのだった。
「ミカ〜、この宝箱早く開けるよ」
「はいはい」
宿屋についたミカとくるみはユーマに譲ってもらった宝箱を開けようとしていた。
「楽しみだね」
「うん」
「よーし、開けるよ!」
「良いものが入ってますように!」
10万G、騎士の置物、魔玉、何かを吹く犬のぬいぐるみ、装備品『黄金の槍』、綺麗なクモの糸、ゴーレムの核、ひび割れた高級な皿
「こんなにいっぱい入ってるんだ!」
「何に使うか分からないものもあるけど、これは凄いかも」
「この置物とぬいぐるみ貰うー」
「ゴーレムの核ってことは、もしかしたらゴーレムを作れるのかも?」
「え! じゃああたしがゴーレム使う!」
「そもそも作れるのか分からないし、作れたとしても役割的に使うのはくるみじゃないと思うな」
「えー、そっか。やっぱ魔力高い人が使う方が良いの?」
「たぶん?」
その後も宝箱の中身を確認していくが、価値があるのか無いのか判断できないものが多かった。
「お金だけでもユーマさんと分けるほうがよかったかな?」
「良いんじゃない? ユーマもこんなことで怒らないって。それよりもあたしらが使えるものがあんまりないから、これほとんど売ることになるかも」
「確かに」
宝箱から出たアイテムを全てインベントリに入れ、今後のことについて話す。
「ダンジョンの道はもう覚えたし、優美なる秩序の皆が来たらダンジョンでレベル上げしよっか」
「宝箱から10万G出たし、2人でもう1回行く?」
「2人だとボスまで行くのに時間かかるし、ユーマさん達も居ないから絶対にさっきみたいには倒せないよ?」
「そっかー。じゃあ南の街の奥の方でも探索してく?」
「そうしよ」
こうしてミカとくるみは宝箱の中身を確認したあと、南の街の外へと2人で向かうのだった。
「ここで私が紹介できるポイントは全てです」
「なぁ、あそこに居るパーティーに声かけようぜ」
「そりゃいいな。もしかしたらそこが採取ポイントかもしれないし」
「おやめください! 他のパーティーが居る場所には……」
「ちょっと話すだけだから大丈夫だって」
「そうそう、たまたま近くを通った時に、たまたま相手が採取ポイントに居るだけだからな」
夜中南の街の外をサポーターを連れて探索していたこのパーティーは、何回か他のパーティーに話しかけたが大した情報を得られなかったので、道から最も離れている明かりを目指して、そこにいるパーティーに声をかけることにした。
「あ、どうもこんばんは」
「こんばんは。サポーターは居ないんですか?」
「南の街……」
魔獣を連れたプレイヤーに話しかけたは良いものの、さっきまでのパーティーとは違いルール違反だと言われてGMを呼ばれ、気が付くとチュートリアルの時のような空間に飛ばされていた。
「ど、どこだ?」
《少し確認しておくことがありましたので、こちらに転移させていただきました》
「な、なんですか?」
《ではまずこの……》
そこからは人なのかAIなのか分からない者によく分からない質問をされ、それにただただ答えるだけの時間が続いた。
《以上です、長々と失礼いたしました》
「あの、俺って、俺達ってどうなるんですか?」
《先程あなた以外のパーティーメンバーの2名に迷惑行為が確認されましたので、あなたを含めた4名は今後の行動に気を付けて遊んでいただければ問題ありません》
「俺以外の2名?」
《個人情報になりますので詳細をお伝えすることは出来ませんが、今回のこととは関係なく他のプレイヤーへの迷惑行為が確認されましたので、一定期間ログインを控えていただくことになりました》
詳しいことは教えてもらえなかったが、現実で接点のあるプレイヤーに対して迷惑行為をしたらしい。
「あいつらがリアルの友達に迷惑行為か」
《これ以上の詮索はおやめください》
「分かりました」
蓋を開けてみれば俺達がこの空間に飛ばされたのはあいつらのせいだったが、もう調子に乗って他人に迷惑をかける事はしないと誓う。
「じゃあとりあえず俺は大丈夫なんですか?」
《はい。これからもコネクトファンタジーをお楽しみください。ただ、今回のようなことは控えていただけると、他のプレイヤー様も快適にゲームを楽しむことが出来ますので、どうぞよろしくお願いします》
こうして別空間から街に転移させられコネファンの世界に戻ってきたが、最初6人だったはずのパーティーメンバーは4人になってしまったのだった。
「あ、モニカさんおはようございます!」
「「「「おはようございます!」」」」
「あぁ、おはよう」
冒険者ギルドに着くと大きな声でパーティーメンバーが挨拶をしてくる。
「モニカさんは今日も朝ごはん食べてきました?」
「食べてきたぞ。私は朝もしっかりと食べるからな」
「あたしは朝は軽くしか食べられないなぁ」
「わたしもー」
「モニカさんってプレイヤー様のお家に住んでるんですよね?」
「あぁ、それがどうした?」
「いや、珍しいなと思って。しかも男性と同じ屋根の下で暮らすなんてあまり想像がつかないなって」
「別にユーマとは何もないぞ?」
「それはそうだと思いますけど」
女性だけのパーティーということもあり、恋愛の話が始まるとなかなか止まらない。
「じゃあなんでモニカさんはプレイヤー様の家に居候してるんですか?」
「確かに。これまで聞けませんでしたけど、不思議に思ってました」
「モニカさんの美貌なら絶対に良い男捕まえて家を買わせるくらいできますよ!」
「私をなんだと思ってるんだ」
「家には事情があって帰ることが出来ないのは聞きましたけど、だからって男性プレイヤー様の家に普通住みます?」
パーティーメンバーの1人が自分の家に一緒に住むことを提案したり、他の者はおすすめの宿屋なんかを教えてくる。
「皆の提案は嬉しいが必要ない。私は1人で誰とも会うことのない生活をしていた頃に、ユーマに出会って助けられたんだ。当時自分ではその生活がそれほど苦ではないと思っていたが、今思うととても楽しいと言えるようなものではなかった。」
「モニカさんにそんな過去が」
「私は1人の生活から抜け出すのが怖くなっていたのだろう。そんな時に声をかけられ、気がついたら今の状況になっていた。私は過去の経験から自分の容姿が多少整っていることも自覚しているが、ユーマにはそこも配慮してもらっている。誰かとパーティーを組むよう私にアドバイスしたのもユーマなんだぞ?」
「そうだったんですか」
冒険者ギルドにはモニカの組んでいるパーティー以外にも冒険者達が続々と集まってきた。
「だから私と出会えたことを喜んでくれるなら、ユーマにも感謝してくれ」
「それならわたしもモニカさんと一緒に住めたりしないかな? わたし宿屋住みだし」
「あ、それならあたしもー」
「なんなら皆で押しかけてみる?」
「み、みんな、ちょっと、それくらいにした方が、い、いいよ」
「もうその話はやめて!」
「? どうしたの?」
先ほどまで機嫌が良さそうだった者が1人、急に負のオーラを纏い始めた。
「もう一度聞かせてもらおうか。お前達は、なんて言ったんだ?」
「「「へっ?」」」
「誰が、ユーマの家に、住むって?」
「「「い、いえ、何も」」」
「(モニカさんの地雷ってプレイヤー様のユーマさんなんだね)」
「(さっきの話からもモニカさんにとってユーマさんは恩人って感じだし、気をつけないと)」
いつも女性パーティーを見るために早起きしてくる冒険者達が、今日はそのパーティーがあまり元気がなさそうに見えて、喧嘩でもしたのかと心配するのだった。
「おい、これはどうする?」
「やっとここから本格的にゲームが始まるような感じがするね〜」
「これからが楽しみ」
「僕もより一層頑張りますね!」
「そんなこと聞いてんじゃねぇよ。こいつらをどうするかって話だ!」
最前線攻略組は南の街から帝国領前のボスを倒し、更に進んだ先にある街の冒険者ギルドに来たのだが、そこでプレイヤーである彼らに絡んできたこの世界の冒険者が居た。
「あ、あいつら強すぎる」
「プレイヤー様はたった10日くらい前にこの世界に来たんじゃねえのか?」
「流石に10日であの強さはあり得ねぇ」
そして最前線攻略組は絡んできた冒険者をすぐ無力化し、周りの冒険者達に実力を示したのだった。
「NPCにまさか煽られるとは思わなかったな」
「このゲームPvP無しだし、結構初心者向けな感じだったから、勝手に人と戦う事はないって思ってたな〜」
「煽られたら、やり返す」
「流石にこれでNPCの好感度が下がるような鬼畜仕様だったら俺は許さねぇ」
「僕はちょっとワクワクしてます。ユーマさんに対人戦も教えてもらってたので」
最前線攻略組が好き勝手に話している間も、絡んだ冒険者はその場を動くことが出来ないでいる。
「この冒険者ギルドのギルドマスターは居るか?」
「あ、あの、少々お待ちください!」
「リーダー怖がられてるね」
「ここの冒険者が問題起こしたことに焦ってるのもあるだろ」
「これは何かのイベントっぽいな」
「僕もそう思います」
「うちはこの世界の人達相手に戦うことがあるって知れて良かったな〜」
「オカちゃんは、対人戦得意」
「お、おまたせしました!!」
「お、来たな」
そこからは最前線攻略組に絡んできた冒険者に対する罰則や、今までの街とは違いこれから行く先ではプレイヤーのことを良く思わない者も居ることを教えてくれた。
「情報助かった。これからもよろしく頼む」
「ギ、ギルドマスターとしての役目を果たしただけですので」
「またリーダー怖がられてる」
「あれはリーダーが怖がられてるな」
「お前達、聞こえてるぞ」
最前線攻略組は帝国領に入って冒険者ギルド内で冒険者に絡まれるという経験をしたが、実力で黙らせるどころか、ギルド内で一部始終を見ていた者達にプレイヤーは敵に回してはいけないという意識を植え付けるのだった。