第64話
「おつかれ、これなら夜までに間に合いそうだな」
「クゥ」「アウ」「(コク)」
俺達は四つ首トカゲと森クラゲの群れを倒し終わり、その場所で少しだけ休憩を取る。
「やっぱり途中強引にでもモンスターを無視して走ったのが良かったな」
あれがなければまだ俺達は四つ首トカゲ亜種の場所にすら辿り着いていないはずだ。
「ルリもトカゲ相手にタンクを1人で出来るようになってたし、ウルもエメラもずっと攻撃し続けてくれたから助かったよ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
ルリはすぐに修正して四つ首トカゲの顔を攻撃してたのも良かったし、ウルとエメラはずっと攻撃してダメージを出し続けてたのが偉かった。
後ろから魔法で攻撃をするのは簡単だと思われがちだが、先程のように自分を近くで守ってくれる仲間が居ない場合は、攻撃しながら自分の身を自分で守らないといけないため、常に周りを警戒しながらの攻撃になる。
それなのに集中力を途切れさせず攻撃し続けてくれたのは良かった。
「じゃあ行こうか」
「クゥ」「アウ」「(コク)」
時間に余裕があるわけではないので、俺達はまた奥に向かって歩き始めた。
「よし、とりあえずボスエリアには着いたな」
少し襲ってくるモンスターが居たので倒したが、すぐ近くにボスエリアがあった。
「なんかめちゃくちゃでかい木が立ってるな」
本当はここで色々と準備はしたいが、あと1時間くらいで暗くなってしまうので、早速ボスエリアへと入る。
「もうちょっと話し合いたかったけど、まぁそこは連携でどうにかしよう」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
目の前のボスの名前を見てみると、肥大せし大樹と見える。
「配置はいつも通りで、今回はウルも俺と一緒に敵の弱点を探してくれ」
「クゥ!」
少し迷ったが、敵の体力を削るよりもまずは弱点探しからすることにした。
「エメラは気をつけてくれよ。俺達は基本的に助けに行けないからな」
「……!」
長い木の枝を使った攻撃は後ろにいるエメラまで届くので、ルリにはなるべく頑張ってボスの注意を引きつけてもらわないといけない。
「どこを攻撃しても大したダメージにはならないか」
やはり物理攻撃と相性が悪いのか、ボスの体力はあまり減っていない。
「ウルの氷魔法が今のところ1番ボスに効いてるんじゃないか?」
もう少し経っても弱点が見つからなかったら、ウルには弱点探しから攻撃に回ってもらおう。
「まぁそれにしてもでかいな。冷静になって考えてみるとなんてものを俺達は相手にしてるんだ」
ボスが移動することはないからこっちから攻撃はしやすいけど、逆にボスの攻撃もエリア全体に届くのがきつい。
もし端っこの方にまでボスの攻撃が届かないなら、ウルとエメラで一方的に攻撃して倒せたんだが、流石にそれは無理だった。
「木の枝の攻撃がとにかく厄介だな」
無数にある木の枝がこちらの動きを邪魔してくるし、何より相手の攻撃に対してカウンターのようなものが出来ない。
結局また新しい枝が伸びてきて攻撃されるだけなので、攻撃してきた枝を切り落とす事もあまり意味がない。
「よし、ウルはここから攻撃に回ってくれ。今回はウルの氷魔法とルリの攻撃がメインで行こう」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
このままだと時間がかかりすぎてしまうので、ウルにはもう攻撃に回ってもらう。
「お、良くやったルリ! その調子で攻撃を続けてくれ」
「アウ!」
これはルリの使っている武器が手斧だからだろう。先程からルリが攻撃したところは他の人が攻撃したところより明らかに削れている。
「エメラはボスの攻撃がルリに届かないように守ってやってくれ。ウルはサポートなしでも攻撃出来るか?」
「……!」「クゥ!」
魔獣達にボスの体力を減らすことは任せ、俺はひたすら色んな場所を攻撃する。
「ないなぁ、もう弱点はこいつにはないのか」
もう見つからないので、そろそろ俺も攻撃に回ろうと思った時、ルリの方から声が聞こえた。
「アウ!」
「おお! 良くやった! このまま全員であの場所を攻撃するぞ!」
ルリが攻撃していた場所が更に奥の方まで削れて、明らかな弱点として出てきた。
「弱点は同じ場所を攻撃し続けて削り取って露呈させる、だったか。これだけ攻撃できる場所が大きいとそれぞれ違う場所を狙っちゃうよな」
俺は完全にこのボスを生み出したものの手のひらの上で踊ってたわけだ。
いろんな場所を攻撃して弱点を見つけるつもりが、1番弱点を見つけることから遠ざかる選択をしていた。
これはルリに感謝だな。
「よし、ウルの氷魔法もめちゃくちゃ効いてるぞ」
「クゥ!」
ルリが削った場所に氷魔法を撃つと、近くの水分を含んだところが凍ってしまうのか、どんどん朽ちていき弱点が広がっていく。
……ドシーーーンッ……
「あぁ、来たな。一旦下がろう」
「クゥ」「アウ」「(コク)」
ボスが操る木の枝全てを地面に叩きつけたと思ったら、次はボスの根っこが動き出し地面を揺らす。
「みんなでウルに掴まろう」
地面からどんどん根っこが引き抜かれていき、ずっと視界が揺れている。
「はぁ、まさか動くなんて言わないよな?」
ボスが喋ることはないが、そのまさかだと答えるように少しずつ前に出てくる。
「こっからは枝だけじゃなくて根っこも攻撃してくるのか。ルリには攻撃に回ってもらいたいけど、さっきの弱点も随分上の方に行ったし、ルリには根っこを切り落とすのお願いしていいか?」
「アウ!」
「ウルとエメラはルリが削ってくれたさっきの弱点に引き続き攻撃を頼む」
「クゥ!」「……!」
移動する速度は遅いし、あんまりボスが動けるようになったことは問題ないが、枝に加えて根っこが攻撃してくるのが厄介過ぎる。
さっき攻撃していた場所も、根っこが地面の上に出てきたことによって相当上の方に行ったし、遠距離攻撃が出来る仲間が居て本当によかった。
「今回は俺は皆にバフかけてサポートに回ろうかな」
もし自分1人でこの相手と戦うなら根っこを飛び移って1回1回あの弱点まで攻撃しに行っただろうが、そんなことする必要はウル達のおかげでないため、後ろの方でエメラに攻撃してくる枝と根っこを切り落とすことにする。
「俺がルリに魔獣ヒールするから、エメラは樹の癒やしは使わなくていいぞ」
「……!」
できるだけウルとエメラには攻撃してもらい、俺が皆にバフをかける。
「ルリ、俺が回復するから今は多少強引でもいい。エメラには魔獣ステータス強化、ウルには魔獣スキル強化をかけたから、今のうちに2人とももっと攻撃してくれ」
「アウ!」「……!」「クゥ!」
ウル達は俺の指示通りに動いてくれて、ほぼボスの体力は0に近いところまで来た。
「ここだぞ、みんな気を付けろ!」
「クゥ」「アウ」「(コク)」
もう何度もボスを相手してきたから、この体力になると何か仕掛けてくることは全員分かっている。
「!? 全員今すぐ攻撃しろ!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
瞬時に魔獣達にバフだけかけて、俺も前に出てボスを攻撃する。
「今は相手の攻撃は警戒しなくていい! もっと全力で攻撃だけしてくれ!」
そう言うとウル達は更に攻撃をしてくれる。
……ドシーーーンッ……
「構わず攻撃だ!」
ボスも全体攻撃をしてくるが、それだけで倒されるほど俺達は弱くない。
「みんなで削りきれ!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
すると肥大せし大樹はついに体力がなくなったのか、後ろに倒れるとそのまま粒子になって消えた。
《ユーマのレベルが上がりました》
《ウルのレベルが上がりました》
《ルリのレベルが上がりました》
《エメラのレベルが上がりました》
《王国領前のエリアボスを初めて討伐しました》
《王国へ続く道を解放しました》
名前:ユーマ
レベル:27
職業:中級テイマー
所属ギルド :魔獣、冒険者、商人
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ
スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『中級テイマー』、『片手剣術』
装備品:四王の片手剣、四王の鎧、四王の小手(暗闇の照明)、四王のズボン(協力の証)、四王の靴、幸運の指輪 (ビッグ・クイーンビー)
名前:ウル
レベル:27
種族:ホワイトウルフ
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『ホワイトウルフ』『氷魔法』
装備品:黒の首輪(魔獣)
名前:ルリ
レベル:27
種族:巨人
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ
スキル:忍耐、超回復、成長、インベントリ、『巨人2』
装備品:黒の腕輪(魔獣)、銀の手斧(魔獣)、銀の小盾(魔獣)
名前:エメラ
レベル:27
種族:樹の精霊
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ
スキル:支配、成長、インベントリ、『樹の精霊』『樹魔法』
装備品:黒のチョーカー(魔獣)
「みんなおつかれ。もう薄暗くなってきたし、ちょっと休憩したら進もっか」
「クゥ」「アウ」「(コク)」
最後はボスの体力が回復しだしたのを見て、急いでウル達に攻撃してもらった。
放置してたらどこまで回復したかは分からないけど、回復する前に削りきれてよかった。次はちゃんと時間も確認して、余裕を持って行動できるようにしないと。
「じゃあ行こうか」
俺達はボスを倒した余韻もそのままに、次の街へと歩き始めるのだった。