第63話
「フカさん、どうすればいいと思いますか?」
「そうだねぇ、とりあえず今はギルドの方で売ってもらって、また余裕ができたら自分達で売るのはどうだい?」
「たしかにそうですね。少し損はしますけど、まずは無理しなくて良い方法を取りたいと思います」
家に帰るとまだフカさん達が居たので、マウンテンモウのミルクが今余っている話をした。
「じゃあアイスにして売ることにしようかな。色んな素材を使うよりもそっちの方が難しくないし」
「ミルク絞りをハセクに任せているなら、ついでにアイスを商人ギルドへ持っていくのも任せたら良いと思うよ。ユーマくんからハセクに依頼って形でお願いすれば受けてくれるはずさ。配達依頼はそもそも安いし、本人もお金は求めてないと思うしね」
ということでフカさんが俺のアイス販売のために新しいアイスカップを用意してくれるとのことなので、それに入れて販売することになった。
「じゃあ今日はありがとう。またライドホースに乗りに来るよ」
「はい、俺もありがとうございました」
フカさんに相談したおかげで一気にいろんなことが解決した。
「ルリ、そんな顔するなよ。余ってるのを売るだけだから、自分達で食べるのは今までと変わらないって」
「アウ」
ルリはアイス好きだもんな。というかデザート全般が好きだからなぁ。
「じゃあ商人ギルドに一応登録してから、そのまま次の街行っちゃうか!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
こうしてもう一度先ほどの商人ギルドの人に事情を説明し、アイスの売り上げは俺が来た時にその都度渡してもらえるようになった。
《帝国領前のエリアボスが討伐されました》
《帝国へ続く道が解放されました》
《以降、ボス討伐、街の解放などのアナウンスには制限がかかります》
「お、あいつらもついに倒したか。まあちょっと遅いくらいだもんな。ていうか帝国ってことはついにこのゲームもチュートリアル的なのが終わって本格的に始まったってことか?」
今までは街の名前も分かりやすく方角だったし、やっとこのゲームのオープニングで見たような世界が広がってる場所に行けるようになるんだろう。
「お、なんかゲームからお知らせが来てる」
運営からお知らせが来ていたので読んでみると、最後にされたアナウンスの詳しい説明だった。
説明によると、これからは新しいボスを倒しても、新しい街を見つけても、全員にアナウンスされることはなく、近くのプレイヤーにしか知らされないらしい。
具体例だと、帝国領にいるボスを倒せば、その時帝国領にいたプレイヤーにのみボス討伐のアナウンスが届くらしい。
まだ帝国しか新しい国は見つかっていないが、こういうのを見るとこれからはどの国をメインに自分達が活動していくのかはとても重要になりそうだ。
そしてこれの例外として、新しい国や島が発見・解放された時などの規模が大きなものは、全体にアナウンスしてくれるらしい。
「これは俺達も行くしかないな。最前線攻略組がどこの街の先を進んだのかは分からないけど、北ではないだろう」
先に攻略されて悔しい気持ちは少しあるが、それよりも今は新しい国の存在が気になる。
ここからはもっとこの世界の人達が溢れている世界に飛び込んでいくのだと思うと楽しみで仕方がない。
「じゃあ行こうか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
「よし、そのまま倒すぞ! 多少雑でも良いから攻撃に集中してくれ!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
俺達は北の街を出発してから、できるだけ急いでエリアボスを目指していた。
「早く行かないと夜になる」
今日も夜が訪れない日だと思っていたが、途中で確認すると夜がある日だということが分かり、そこからはずっとこの調子だ。
「よし、急ぎたいけど少し慎重にな」
「クゥ」「アウ」「(コク)」
前回来た場所はもう過ぎているので、ここからはどんなモンスターが出てくるか分からない。
「あの四つ首トカゲはルリとエメラ、森クラゲはウルと俺でやるぞ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
そろそろエリアボスが近い事を証明するように、敵が強くなってきた。
「どうやってあのクラゲは浮いてんのかねぇ」
ウルに氷魔法で凍らしてもらったが、固まっても空中に留まっていたのはなんとも不思議だった。
「よし、ウルのおかげで早く倒せた。このまま向こうを助けに行くぞ」
「クゥ!」
四つ首トカゲは名前の通り4つある首でルリのことを攻撃していて、エメラもそのうちの2つを拘束することで精一杯なのか、なかなか攻撃することが出来ていない。
「エメラは攻撃に回っていいぞ! 俺とルリで前は抑える」
「(コクコク)」
すぐにルリのいる場所まで向かい、俺が2つ、ルリが2つと、敵の首を分担して相手する。
そして、ウルとエメラは攻撃することに注力し、俺とウルが来てからはあっという間に倒すことが出来た。
「やっぱここらへんからは普通のモンスターも気をつけないとな」
これまでと違ってレベルも高いし、相手の戦闘能力も高くなってきたのでなかなか前に進めない。
「でも夜になる方がヤバそうだし、急ぐか」
俺達は幸いにも回復手段があるため、ここからはより強行突破を狙うことにする。
「ごめんな、何度も方針を変えて」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
ウル達は気にするなとでもいうように答えてくれる。
「もうその敵は無視して走るぞ! もし逃げた先で挟まれたら戦おう」
「クゥ!」「アウ」「(コク)」
ウルは余裕そうだが、あとの2人はしんどそうだ。
「がんばれ、逃げきったらそこで休憩とるから」
「アウ!」「……!」
やはりここまで来るとパーティーメンバーが6人いることの大切さに気づく。
「魔獣ヒール! 魔獣ステータス強化!」
俺はエメラに回復を、ルリに魔獣ステータス強化をかけてみる。
これで少しでも走るのが楽になれば良いんだけど、実際のところどうなのかはわからない。
「よーし良く頑張った、一旦ここで休もう。モンスターが来たらウルと俺で対処するぞ」
「クゥ!」
とにかくギリギリまで走ってくれたルリとエメラを休ませる。
「あ、あれはちょっと大きいな」
「クゥ」
ルリとエメラを休ませるために外側を警戒していたのだが、奥からすごい大きさのモンスターが現れた。
「四つ首トカゲ亜種か」
首の数は足りないが、他のゲームでヒュドラと戦った時を思い出す。
「まぁこいつはあんなに禍々しい感じじゃないな。ウル、いけるか?」
「クゥ!」
ウルの準備も万端なので、早速こちらから仕掛ける。
「俺が前で相手するから、ウルはとにかく攻撃し続けてくれ」
「クゥ!」
そう言ってウルに魔獣強化のスキルを2つ使い、俺は敵の正面に行く。
「こっちは7つの首までなら相手したことあるんだよ!」
『ジーーーッ、ジーーッ』
敵は4つの首をうまく使いながら俺に攻撃を仕掛けてくるが、どれも少し避けにくくはあるものの、威力は大したことがない。
「やっぱ顔で攻撃するってのは弱点を敵に晒すのと一緒だからな。怖いか?」
『ジーーーッ!』
噛みつきや舌で俺を捕まえようとするものの、攻撃してきた頭を逆に攻撃し返せば、その首は大人しくなる。
「ルリは攻撃する余裕が無かったんだろうけど、1回でも攻撃する事が出来てれば、さっきの四つ首トカゲも対処できてただろうな」
この辺はもう経験だ。とりあえず攻撃してみるってのは大事だし、逆に攻撃したら取り返しがつかなくなることもある。
「ウルいいぞ」
「クゥ!」
敵は俺に夢中だったが、ウルがフリーで攻撃し続けているためもう倒せそうだ。
『ジーーッ、ジッ、ジ』
「よし、おつかれ」
「クゥ!」
意外とあっさり四つ首トカゲ亜種を倒すことが出来た。
「ルリもエメラもそろそろいけるか?」
「アウ!」「(コクコク)」
2人も休憩は取れたらしいのでまた歩き始める。
「たぶんさっきのがこの辺りでは1番強かっただろうから、あれ以上は出てこないって思っていいと思う」
「クゥ」「アウ」「(コク)」
本来はあの4つの首を相手にタンクする人がしんどい敵だったんだろうけど、俺が相手した分あんまり強さが感じられなかったな。
「うぉっ、これは多いな。まぁでもここはちゃんと倒さないと駄目そうだから戦うぞ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
少し進むと四つ首トカゲと森クラゲがたくさん出てきた。時間をかけて戦えば他のモンスターも寄ってきそうだ。
「四つ首トカゲは俺とルリが担当な。ルリも1人で相手できるか?」
「アウ!」
先程のように苦戦はしないと意気込んでいるルリを信じて、1体の四つ首トカゲの相手を任せることにする。
「なら次は俺とエメラ、ルリとウルでペアになって戦おう。ウルも最初はルリを気にしてやってくれ。ルリが1人でトカゲを相手できそうだと思ったら、トカゲの相手は任せてウルも全力で攻撃に切り替える感じで。襲ってきたモンスターは全部倒すぞ!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
こうして俺達はおそらくボス戦前最後のモンスター達を倒すために、モンスターの群れへと飛び込んでいくのだった。