第61話
「ミルク保存缶が空になったから、俺達はこれで10Lのミルクを消費したのか」
アイスのための砂糖入りミルク作りと、いちごミルク作りをして思ったが、やっぱりミルクが余る。
「もう自分達で飲むだけなら20L缶が2週間に1つだけで十分かもな」
これまでオスのミルクを10L、メスのミルクを20Lのミルク保存缶に入れていたのだが、アイスの箱もできた事により手持ちにはメスのミルクが入った20Lのミルク保存缶だけ残して、あとは冷蔵室に置いておくことにする。
「まぁでもここに置いててもモニカさんとこの家に来た人くらいしか飲まないから、家にも10L缶が1本で十分なんだよな」
こうなるとどうしてもミルクが余ってしまう。そもそも1日30Lずつ増えていくミルクをどうにかするなんて個人では無理な話だった。
「今度フカさんかベラさんに聞いてみよ」
ということでいちごミルクの入ったボトルはインベントリにしまい、砂糖入りのミルクを注いであとは冷やすだけのアイス用カップとアイスの箱は、ウルを呼んで凍らせてもらうことにしよう。
「ハチミツ用の瓶も買ってよかった」
ついつい万能空き瓶に頼ってしまうが、入れ替えておかないとまた使いたい時に使えないなんて事になりかねない。
「ウル! またアイスお願い!」
「クゥ!」
みんなで遊んでいるところ悪いが、ウルを呼んでアイスを凍らせてもらう。
「これで色んな人に配れるようになったな」
これを定期的にどこか違う街の人に売って商売をしようとすれば、インベントリに入れられなくなる可能性もあるので注意しておく。
「金銭が絡んだ瞬間このアイスが商品扱いになって、インベントリに入れたままクリスタルを移動できなくなる可能性もあるからな」
インベントリに入れる事が出来ない配達依頼の荷物のように、ものによっては俺達プレイヤーのインベントリに規制がかかる。
例えば、ここで取れた大量のミルクをインベントリではじめの街に持っていきベラさんに売る、なんてことは出来ないようになっているはずだ。
メインの職業が商人だったりするのであればまた違うのかもしれないが。
「まぁ今はそんなこといいか。それより俺は早くあのダンジョンボスの宝箱を開けたい」
あの時はミカさんとくるみさんに譲ったが、正直めちゃくちゃ中身が気になるし、めちゃくちゃ欲しかった。
「でも結局また行くのは確定してたしな」
どうしてももう一度俺はウル達とダンジョンに挑みたかったので、宝箱を譲ったことには後悔していない。
「クゥ!」「アウ!」「……!」
「お、ウルありがとう。皆呼んできてくれたんだな」
皆揃ったので、またダンジョンに挑むことを伝える。
「また同じで申し訳ないけど、欲しいのはあの宝箱だけだから道中は全部無視でもいい。もう1回一緒に潜ってくれ!」
「クゥ」「アウ」「(コク)」
皆も俺の意見に賛成してくれたので、俺達はすぐにダンジョンへと向かった。
「よし、ここで休憩しようか」
前は何時間もかかったダンジョン攻略だったが、さっきクリアしたばかりなので道は全部覚えている。
「次からは16階層だし、さっきまでとは違って無視できないモンスターも出てくるから気をつけていこう」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
前と違いミカさんとくるみさんが居ないため、道中の敵も少し倒すのに時間がかかったが、比較的順調に最後のボスまで進むことができた。
「よし、皆もうボスはわかってると思うけど油断しないように。ミカさん達が居ないからちょっとだけ作戦について話すぞ」
こうして4人でボスを倒すための話し合いをし、もう一度あのボスに挑む。
「よし、行くぞ!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
いつも通りルリに前を任せ、エメラは後ろ、俺とウルは自由に動く。
が、今回は全員に攻撃する場所を伝えている。
「前回は結局左膝を狙っても何も起こらなかったからな」
エメラとミカさんはダメージの通りが良かった顔のあたりを狙っていたし、俺とウルしかほぼ攻撃していなかったが、今回は全員で攻撃することによって何が起こるかを確かめておきたい。
「ルリは左膝を狙えなかったら今は攻撃をしなくていいからな」
「アウ!」
今はウルに魔獣ステータス強化とエメラに魔獣スキル強化をかけている。
ルリにかけるか迷ったが、今のままでも十分守れているので問題ないだろう。
「流石に2人分の火力がなくなったからボスの体力の減りは明らかに遅いけど、クリアした直後だから身体がどう動けばいいかは覚えてるな」
俺が思っていたよりも長い時間かかったが、ついに黄金の騎士の左膝が壊れる。
「おお! やっぱり倒しやすくなったな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
左膝をつきその場から動けなくなった黄金の騎士は、その場で槍を振り回すことしか出来なくなった。
「こうなったら皆自由に攻撃しやすいところを攻撃してくれ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
あの状態になってから1番動きやすそうなのはルリで、ボスは膝をつきながら槍での攻撃が難しいのか、近くに居るルリに全く攻撃を当てることが出来ていない。
……ガンッ、ガンッ、ガンッ……
「問題はこの8体の騎士だよな」
そしてついに問題である後ろの騎士達が動き出した。
「ボス戦前に話した通りこの騎士達も全部倒すが、予定変更して全員で倒しに行く! その間ボスは放置でいい!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
本来は俺かルリがボスのタゲを引いて一対一をする間に、他の人で騎士達を倒す予定だったが、ボスが動けないならそのまま放置して全員で倒すことにする。
「硬いなぁ、ボスほどじゃないけど明確な弱点もないし地道に削るしかないか」
騎士達に攻撃するが、ボスと同じくらいの防御力がありそうだし、身体が少し小さくて体力が少ない弱点なしのボスって感じだな。
「でも4人なら倒せるよな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
主にルリが戦っている騎士を皆で攻撃して、他の騎士達はウルが加速や回避のスキルを使いながら引き付けてくれている。
「ルリがタンクでエメラが火力、ウルは他の敵を引き付けながら俺達が狙ってるのと同じ敵を氷魔法で攻撃できる。めちゃくちゃバランスがいいな」
「クゥ!」「アウ!」「(コクコク)」
ボスを放置して皆で攻撃出来たおかげで、予想より楽に全ての騎士を倒すことが出来た。
そして俺達は動けずに残っているボスのもとに向かう。
「やっぱりちゃんと全部の敵を倒せるしくみは作ってくれてたな。これであとはお前を倒せば終わりだ。前は気付いたら終わってたし、今回は俺がお前を倒す!」
ウル達には後ろで見ていてもらい、残り少ないボスの体力を俺が削り切る。
「よしっ、みんなありがとう」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
黄金の騎士はこれまでのダンジョンモンスターと違い、眩しいくらいの光を周囲に放ったあと、光の粒になって消えていった。
「うわ、こんな綺麗な最後を俺は見逃してたのか。もう1回倒しに来てよかった」
《初めて単独でダンジョンを踏破しました》
《ユーマのレベルが上がりました》
《ウルのレベルが上がりました》
《ルリのレベルが上がりました》
《エメラのレベルが上がりました》
名前:ユーマ
レベル:26
職業:中級テイマー
所属ギルド :魔獣、冒険者
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ
スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『中級テイマー』、『片手剣術』
装備品:四王の片手剣、四王の鎧、四王の小手(暗闇の照明)、四王のズボン、四王の靴、幸運の指輪 (ビッグ・クイーンビー)
名前:ウル
レベル:26
種族:ホワイトウルフ
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『ホワイトウルフ』『氷魔法』
装備品:黒の首輪(魔獣)
名前:ルリ
レベル:26
種族:巨人
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ
スキル:忍耐、超回復、成長、インベントリ、『巨人2』
装備品:黒の腕輪(魔獣)、銀の手斧(魔獣)、銀の小盾(魔獣)
名前:エメラ
レベル:26
種族:樹の精霊
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ
スキル:支配、成長、インベントリ、『樹の精霊』『樹魔法』
装備品:黒のチョーカー(魔獣)
「これならもうレベル上げなしで次の街を目指す事もできそうだな」
ダンジョンでレベルを上げるつもりは無かったが、結局これくらいのレベルまでは最低でも上げないと次の街には行けなさそうだったので良かったと思う。
「で、このために2回も攻略したんだよ俺は」
目の前には前にも見た大きな宝箱。
「まぁ本当は宝箱以外にも単独でのダンジョン踏破も狙ってたから、あってよかった」
全部が良い方向に転がってくれてラッキーだ。
「よし、じゃあ早速開けるぞ!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
こうして期待を膨らませた俺は、目の前の宝箱を勢いよく開けるのだった。