間話7
「あぁぁ、またなくなった」
「おっしゃー! もう元の3倍になったぞ」
「わたしはもういいかな」
「俺もいいかな、これ結局返ってくるの10分の1だろ?」
「そうらしいね。それでもカジノで稼ぐ人たちもいるって話だけど」
ボスを倒し、西の街にやってきたパーティーは、早速全員でカジノへ訪れていた。
「確かイベント中は5000万チップで家と交換だったらしい」
「この結果じゃそんなの俺達には無理だな。しかもゲームで勝ったチップだけで5000万って、賭けるメンタルが俺とは違う気がする」
「ちなみにこの前宿を紹介してくれたプレイヤーがくれたトランプ、1つ10万チップだったって」
「ええええええ、高っ。俺ら今全員で3万Gをチップに交換して遊んでるのに10万チップすら届かないぞ」
そしてパーティーの中でも、カジノにハマった人と、もうカジノから出たい人で分かれている。
「そろそろ行こう。このままだとずっとここに居ることになる」
「あと1回だけ!」
「もうそれ何度目? いくよー」
このあとも一悶着あったが、ようやくパーティー全員でカジノの外に出てきた。
「なんか北の街と違っていっぱい人いるな」
「お店も多いし、いろんなものが売ってる」
「わたし、あの宝石店入りたい!」
「まぁ見るだけならタダか」
「いらっしゃいませ」
「あ、どうも。ちょっと連れが宝石を見たいって言うんで、見てってもいいですか?」
「宝石は女性の憧れですから、どうぞごゆっくりご覧になってください」
「あぁ、綺麗」
「こんなもん絶対買えないぞ」
「あら、プレイヤー様ですか。購入したいものでもありましたか? いや、購入できる金額の宝石は見つけられましたか? ふふっ」
「え、ええっと、お金はないんですけど、一応許可をもらって見せてもらってます」
「そうですか。いつか買えるようになると良いですね。では、失礼します」
いきなり話しかけてきた女性は、言いたいことを言って店を出ていった。
「なんかやな感じだったな」
「めちゃくちゃ見下されてたなお前」
「いや、俺ら全員だろ」
「こっちは許可とって見てるだけだったのに」
「わぁ、これも素敵かも、あれも良い」
宝石に見惚れている1人を除き、このやり取りを見ていたパーティーメンバーはあの女性に対して不快感を隠せなかった。
「すみません。当店は貴族様もよくいらっしゃるので、大きい声では言えませんがお気になさらず」
「いえ、1番あの人が話しかけたかっただろう本人はあぁなので大丈夫です」
「この赤もいい。青もいい。これは少し大きすぎるかも、でも素敵!」
「じゃあありがとうございました。もう行きますね」
「またのお越しをお待ちしております」
宝石に夢中な女性プレイヤーをショーウィンドウから皆で引き剥がし、やっと外に出る。
「あの人みたいに嫌な感じの人もこれから出てきそうだし、気をつけないとな」
「はじめの街はみんなNPCの人優しかったもんね」
「ちょっと力加減間違えてる戦闘指南の教官もいたけど」
「あはは、思い出したくない」
少し不快な思いをさせられたが気にしないことにして、その後も新しい街を楽しむのだった。
「おい、こっち手伝ってくれ」
「親方、もう僕はここに来なくなりますから、あんまり頼るのはやめてくださいよ」
「居るうちにとことん頼んどくのがいいんだよ」
とある工房で何人もの鍛冶師が装備を作っていた。
「というかこれどうしたんです? すごい量の素材ですけど。はじめの街で取れるものが多いですね」
「これはプレイヤー様から売ってもらったやつだな。これの加工も手伝ってくれるか?」
「うぇっ、嫌ですよ。流石にさっきので最後です。準備もしないといけないので」
親方の頼みを断った鍛冶師は散らばった素材を持って、分かりやすいように整理していく。
「姉弟子もはじめの街で自分のお店を持ってますし、僕もそろそろどこかに構えないと」
「ずっとここでやってくれてもいいがな」
「そんなこと言いながら、そうしたらそうしたで早く出てけって親方は言うでしょ」
この2人以外の鍛冶師達は、会話が聞こえないほど集中しているのか、汗だくになりながら装備を作っている。
「サポーターはどうだった? プレイヤー様と行ったんだろ?」
「もう凄いなんてものじゃなかったです! 昔憧れた冒険そのものでした!」
「もちろん信じてはいるが、採掘のポイントは教えたりしてないよな?」
「親方に許可をもらったあの大きいところ以外は教えてません。あと、そもそも僕達で歩き回って、いくつも新しい採掘ポイントは見つけましたし」
話している親方と鍛冶師はそのまま工房の外に出る。
「じゃあどんなことを経験したんだ。俺達だってなかなか危険な場所には行っただろ?」
「でも、そんなのとは比べられないくらい危険な目に遭いましたし、戦闘も間近で見ることができて凄かったんですよ」
「そうか、まぁそのプレイヤー様に対して思うところはあるが、危険な目に遭っても無事に帰ってきたし、それだけお前が慕ってるなら良いやつだったんだろうな」
「それはもちろんです! あぁ、楽しかったなぁ」
目を閉じてその時のことを思い出している鍛冶師に、親方は1つ質問をする。
「でもお前、よく夜中に行こうと思ったな。あんだけ怖がりのくせに。お前も昔に比べて成長したもんだ」
「あ、いや、その。そうです、ね」
「ん? どうした。それだけ楽しそうに話してるんだから、サポーターとしても活躍したんだろ?」
少し言いづらそうにしながら、口を開く。
「最初にモンスターと遭遇した時はヒカリゴケを撒き忘れて、その後も何度かモンスターに驚いて叫んだり、興奮して叫んだりしちゃいました」
「なにいぃぃぃぃ! それがどれだけ危険なことか分かってるのか!!」
「すいませぇぇぇん! 本当にプレイヤー様が強くて助かりました!」
「おい、今度1回採掘に行くぞ。まさかそんな危険な目に冒険者を。鍛え直してやるからな!」
「だからもう僕はここを出ていくんですって!」
工房から出てきた鍛冶師達は、またあの2人言い合ってるよ、と話すのだった。
「なんかさっきから上の奴が全部落札してね?」
「そもそも俺らはあの最低金額すら持ってないって」
オークションに来たプレイヤー達は、先程まで大量に出品されていた装備品を落札しようと頑張っていたのだが、今はこの世界の住人が出品した高額な商品を眺めるだけの状態だ。
「50万Gって今持ってるか?」
「全財産だな」
「俺は今回でなくなった」
「というかあの上の席ってカジノイベントであった特別席だよな」
「500万チップであれと交換するやついたんだな」
「それだけあるなら俺ならもっと頑張ってゴールドチケット狙うけど」
「あれはすぐ交換されてたぞ。でも結局あれってその後数時間のうちにカジノで勝てないと全く意味ないチケットだよな」
もう自分達の手持ちでは落札できない商品しか出てこないと思ったのか、小声で近くのプレイヤーと話す人が増えてきた。
「おいまた上のやつが落札したぞ。ほんとにプレイヤーか?」
「いや、それは守られてるでしょ流石に」
「まただ。てか100万Gってヤバすぎ」
そしてその日1番の商品が来る。
「うぉーーーっ、ステータス上昇ポーション!」
「筋力と頑丈だけでもありがてぇ」
「でもまた上のやつが取るんじゃないか?」
下にいるプレイヤー達はいつ上から自分達では届かない金額を言われるかビクビクしていたが、いつまで経っても声がかかることはなかった。
「なんでだろうな」
「あの変な道具に金使いすぎてなくなったんじゃないか?」
「それならチャンスだ!」
プレイヤー達は自分の持ち金のギリギリまで出したが、結局最後には2000万Gという絶対に届かない金額によって落札されてしまった。
「やっぱやばい金額持ってるやついたな」
「ありゃ仕方ない。カジノで上手くいったんだろ」
「でも楽しかったな」
「また次が楽しみだ」
プレイヤー達は目玉商品こそ手を出せなかったが、装備品は納得のいく値段で自分に合ったものを手に入れることができた人も多く、全体的にオークションには満足した様子だった。
「まぁそろそろ次の街には行けるんじゃないか?」
「そうだな。ただ、これだけ広くなると次の街からはもっと進むのが難しくなりそうだな」
「大丈夫、またダンジョン潜ればいい」
「えぇ、またダンジョンあったら入りたくないな〜。外で狩りするほうが好きかも」
最前線攻略組は、次の街を目指して道を歩いていた。
「そういえば、そろそろ2回目のコネファン抽選結果が発表されるんじゃないですか?」
「販売数も最初と同じっぽいし、単純に今の2倍のプレイヤー数になる感じか〜」
「他の攻略組のメンバーも揃うはず」
「今のところどっかの攻略組よりユーマが1番俺らに近いだろ」
「でも、抽選結果だけで実際に来るのはまだ先でしょ?」
「このゲームが始まって1週間後にまたプレイヤーを追加するって言ってたのが本当なら、3日後か4日後くらいじゃないか?」
「ゲーム内時間だと、10日後くらいですよね」
「まだまだ先だな」
横からモンスターが飛び出してきたので全員で迎え撃つ。
「結構このあたりも強い敵が出てきたな」
「いや流石に今のレベルでも次の街にはいけるっしょ」
「油断はするな」
「リーダーは厳しいなぁ」
「そういえば、オークションはどうなったんですかね?」
「クランメンバーが行っただろ」
「確か1人に金を集めて必要な商品は絶対に落札するって言ってたな」
「大人げないな〜。他の人達に勝ち目ないんじゃない?」
「絶対に目玉商品が出てくるはずだからそれまでは無駄に使わないって言ってたぞ」
「やっぱりカジノイベントの時に家を優先してポーションを取れなかったから、今回は本気なんでしょうね」
襲ってくるモンスターを倒したあと、最前線攻略組は休憩がてら食べ物を食べる。
「俺達は26レベルだが、このあたりからは適正レベルのモンスターが出てくるはずだ。気を抜くのはやめよう」
「ダンジョンのおかげでレベルは上がったけど、道中の初見モンスターが弱くて面白くなかった」
「ここからは少なくとも弱くはないはずです」
「どんなモンスターが出てくるか楽しみ」
「出逢ったモンスター全部倒すのにはかわりねぇだろ」
全員食べ終えたので、またすぐに歩き始める。
「おそらくまだボスには今回挑戦できないだろう。キリのいいところで街に戻ったら装備を更新するぞ」
「了解」
「ダンジョンボスを倒す前にそれはやりたかったがな」
「それは言えてるけど、ダンジョン籠ってたから素材なかったしね〜」
「このダンジョン装備もなかなか気に入ってるけどな」
「着てるダンジョン装備は胴体と脚だけですし、やっぱり変な格好に見えますよ。見た目はモチベーションに関わります」
そんな話をしながら最前線攻略組は未知の領域へと挑むのだった。