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第37話

「あれはカニか? いや、ヤドカリ?」


 大きな岩を背負った敵がこちらを向くと、それが自分の最高の武器だと主張するように、2本の大きくて鋭いハサミを高々と空に掲げ、こちらを威嚇してくる。

 ハサミを除いて脚は3本ずつ左右に見えるが、そのどれもが鋭い爪のようだ。


 顔が見えたので敵の名前を見てみると、マグマの番人、と書いてある。

 名前でどんなモンスターなのか判断出来ないなんてこれまでになかったが、とりあえず今は目の前の敵に集中する。 


「なんか分からないけど、あの岩は多分攻撃しても意味ないだろうし、狙うなら腹の部分だな」


 今のところ敵にマグマ要素はないし、危ないのはハサミだけなのでゆっくり近づく。


「ルリは気を付けろよ。あのハサミに挟まれたら終わりだからな」

「アウ!」


 あれに挟まれたらルリの持ってる硬質化なんてスキルじゃ全く意味をなさないだろう。


「クゥ!」

「いいぞ、その調子だ」


 ウルは早速相手のハサミの部分に氷魔法を撃って凍らせている。

 あの手でも攻撃として使われることはあるだろうが、挟まれる心配がなくなったのは大きい。


『グゥウゥウゥウゥ』

「明らかに困ってるな」


 敵もさっきまでは俺達に攻撃されようと関係なくハサミで攻撃してきたが、今は開かなくなったハサミを振り回して暴れている。


「てか腹も硬いってどういうことだよ」

「アウ!」


 このヤドカリみたいな形の敵は腹全体が弱点だって経験上決まっているはずなのに、お腹のほとんどが硬く、柔らかい部分が少ししか無い。


「今のうちにハサミの付いてる根元の部分は攻撃する方が良いな。腹みたいに硬くないし。初めて戦った時の大鷲のボスみたいなことにはならない様にするぞ」

「アウ!」「クゥ!」


 大鷲のボスは翼の根元を攻撃して倒すのが簡単だったので、今回も相手の厄介な部分を先に潰しておきたい。


「そういえばキプロは大丈夫だよな?」


 ちらっとキプロの方を見るが、ボスエリアのギリギリの場所でこちらを見ている。これなら心配しなくて良さそうだ。


「本当はそのまま左右どちらか一方向の脚も狙いたいんだけど、流石にハサミ優先か」


 この判断が後にどう響いてくるのかわからないが、自分のこれまでの経験を信じて動く。


「もっとルリは相手に張り付いて戦ってくれ!」

「アウ!」

「ウルも魔法は継続的にハサミに撃って、近接攻撃はハサミの根元狙いで頼む!」

「クゥ!」


 俺はずっと相手の色々な場所を攻撃しながら弱点を探している。


「無いなぁ、やっぱ1番マシなのは柔らかい腹の部分と脚の付根か」


 お腹を攻撃する方がダメージとしては高い気がするが、それよりも俺はハサミが危険だと感じるのでハサミの脚の付根を狙い続けることにする。


「このままの作戦で行くぞ」

「アウ!」「クゥ!」


 しばらく俺達は相手にほぼ何もさせることなく攻撃し続けると、

 

『グゥウウウウ、グァアアアァ』

「ルリ逃げろ!」

「アウ!」


 叫び声とともに敵の身体に少し変化が見られ、更に地面が揺れ始める。


「え、地形変わるのか!?」

「クゥ!」「アウ!」「えぇ!?」


 ドロドロとしたマグマが噴き出し、エリア内に流れるようになった。


「キプロは大丈夫か?」

「は、はい! とりあえず今まで通り遠くから見てます!」

「無理はするなよ」


 そして敵へと向き直るが、先ほどまでと違い、身体が赤いオーラで覆われており、凍らしたハサミも戻ってしまっている。


「気を付けろよ。よそ見してマグマの川にドボンは終わりだからな」

「クゥ」「アウ」


 これでウルの氷魔法も威力は弱まるだろうし、ハサミを凍らすことは期待できそうにないな。

 ルリも敵がマグマの近くに行けば追えないし、これは少し長期戦も見据えるか。


「ハサミとマグマに注意、これだけは絶対だ! 脚の叩きつけは最悪ガードでも良し。さっきよりも前に出て俺も攻撃するから、2人とも敵の動きには十分注意してくれ」

「クゥ!」

「アウ!」


 そこからは地道に敵のハサミがある脚の根元をひたすら攻撃し続けた。

 お腹の柔らかい部分の方が少しダメージの通りは良いため迷ったが、それでも自分の勘を信じて狙い続ける。




「良しあと少しだ」

「クゥ!」

「アウ!」


 ひたすらマグマの熱を直に感じながら、俺達はこの初見モンスター相手にほぼ完璧と言っていい立ち回りを見せていた。

 敵の移動が速くなった時も、大きなハサミが更に強化された時も、マグマの光線を口から撃たれた時も、全ての攻撃、スキルに全員が対応した。


 だからこそ敵が瀕死の状態なのにも関わらず、何の声かけもなしで全員が対応できると俺は思ってしまった。


「おい、ルリ!」

「アウ?」


 このタイミングは、ボスや強い敵こそ1番注意しなければならないタイミング。

 そのタイミングにルリは敵の近くまでいつも通りタンクの役目を果たしに行ってしまった。

 ちょうどマグマの川からやっと敵が出てきたのも重なってしまい、ルリとしては今回で倒し切るつもりだったのだろう。


『グゥグゥグゥ、ガアァァァ!!!』

「アウ!?」

「ルリ! 急いでこっちまで走ってこい!」


 明らかにヤバそうなオーラがハサミに宿っており、何かを仕掛けてくる。


『グアアァァァァ!!!』

 

 ……ドゴーーーン……


「アウアウ!」

「おぉ、良かった。良かったけど、なんでだ?」


「クゥ!」

『グァァ、ヴゥ、ゥ゙』


 俺がルリの身体を抱きとめている間に、ウルが敵にとどめを刺しに行った。


《初めてユニークボスを討伐しました》

《初めて単独でユニークボスを討伐しました》


「お疲れ。ルリが無事でよかった。ウルも最後の攻撃ありがとな」

「クゥ!」「アウ!」


 やっぱりあれだけの空間が用意されているモンスターはボスなのだと分かった。

 というかユニークボスということは、何か特殊な条件を満たしていたのか、見つけにくい場所のボスだったのか、もしかしたら普段は違うボスが居るが、確率でレアなボスが出るとかもあり得る。


「にしてもなんで最後ルリが無事だったんだろう。絶対あの感じの攻撃は避けられない気がしたんだけど」

「お疲れ様です! 最後はあのモンスターのハサミが上がっていないように見えましたよ。ユーマさん達が攻撃したからですかね?」


 ということはハサミがついている脚を高く上げる必要のある攻撃だったのかもしれない。それならルリが助かったのも不思議じゃないか。


「叩きつける攻撃だったのか? それならハサミの脚が上がらないことで攻撃威力か攻撃範囲、その両方が弱体化された可能性は十分にあるな」

「本当にすごかったです! もうそこら中からマグマが出てきた時は帰還の魔石を使おうかと思いましたよ!」


 と言いながらも使っていないのは、キプロもなかなか肝が据わっているな。


「まぁ突然のボス戦だったけど、無事に倒せてよかったよ。あ、この荷物は早めに返しとく」

「僕も返しますね」


 そしてユニークボスを倒してからずっと存在感を放ち続けているものに目を向ける。


「落ちてるな」

「落ちてますね」

「クゥ」「アウ」


 流石にユニークボスの報酬は期待していいのかもしれないな。


「これは俗に言う宝箱だよな」

「これはおそらくその宝箱ですね。まさか僕の人生でお目にかかれるとは思いませんでした」


 正直家に持って帰って見ても良いのだが、横で今か今かと開けるのを待っているキプロを見ると、ここで開けてあげるのが良さそうだ。


「じゃあ開けるぞ。出来れば宝箱も残ってくれると嬉しいんだが」


 そう言いながら俺は宝箱を勢いよく開ける。


 6万G、マグマな置物、マグマな楽譜、マグマ袋、魔獣用アイテム『変わらない道』、装備品『怒りのアンクレット』、装備装飾品『暗闇の照明』、宝の地図、魔法の笛、切れる(はさみ)


「あぁ、消えちゃったか」

「凄いですね! 本当に宝箱からアイテムが出てきましたよ!」


 キプロは大興奮なので、ここで宝箱を開けたのは良かったのだろう。


「じゃあそろそろ帰るかって言いたいんだけど、このエリアの奥も少しだけ行かせてほし「是非行きましょう!」ありがとう」


 そして少し進んだところには洞窟があり、その奥にも行きたかったが、時間もないので帰ることにした。


「今日はありがとうございました! 本当に楽しかったです!」

「あぁ、俺も助かった。ちなみに明日はサポーターはやるのか?」

「僕は明日までやろうと思ってます。その後はまた腕が鈍らないように親方の鍛冶屋で打たせてもらうつもりです」

「じゃあもし明日も来ることになったらお願いしてもいいか?」

「こちらからお願いしたいくらいです!」


「じゃあ今日はありがとう。明日は他のプレイヤーに頼まれたら行ってくれていいし、暗くなって1時間以内に俺が来なかったらその時も他のプレイヤーを探して行ってくれ」

「はい! 報酬も多くもらってすいません。ありがとうございました!」


 サポートしてくれた時間分の報酬と、依頼達成でもらった報酬も少し分けて、掘った鉱物もこっちで処理するのが難しそうなのは全て渡した。


「はぁ、あの洞窟の先行きたかったなぁ」


 太陽が照らす空を10時間くらい前までの俺達は望んでいたはずなのに、楽しかった冒険の続きを遮られたような気がして、少し鬱陶しく感じた。




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