第203話
《イベント開始時刻になりましたので、イベントに参加するプレイヤーは『参加する』を選択してください》
全体アナウンスと同時に、目の前にイベントへの参加ボタンが現れた。
「よし、参加っと」
俺は参加ボタンを押すと目の前が真っ白になり、次の瞬間には先程自分の居た場所から若干ズレた場所に立っていて、おそらく今イベントの世界へ俺達は飛ばされたのだろう。
《イベントへのご参加ありがとうございます。今回のイベントではプレイヤーの皆様にこの世界を、この世界の住人を、あなたが守りたいと思う街を守っていただきます。イベント中は他の街への……》
イベントの内容としては、事前情報通り街の防衛戦で、プレイヤーは防衛に貢献すればするほどポイントが貰える。
そのポイントを集めれば集めるだけ最後に貰える報酬が多くなるのだが、街の崩壊度によってそのポイントの数値が変わる。
例えば1000ポイント集めたとして、イベント終了時に街の状態が100%から70%になったとすれば、その人の持ち点は700ポイント、90%なら900ポイントとなる。
要は手持ちのポイントに街の体力のパーセンテージが乗算されるのだが、当然街が全壊すれば0%、ポイントは0になるわけで、そうならないために皆で力を合わせて頑張らないといけない。
「まぁそこまでは予想出来てるし、事前にプレイヤー側で結構準備したからな」
この手のイベントは何度もやってきてるので、情報がなくてもある程度準備ができる。
今回公式が直前までほとんど情報を出さなかったのも、俺達が準備し過ぎてしまわないようにというのもあるはずだ。
「ただ、イベント中他の街への移動がなしってのは俺としては予想外だったな」
イベント期間の15時間は街を守り続けることになるのだが、最初に選んだ街からはクリスタルでの移動も出来なければ、徒歩での移動も出来ないらしい。
街から一定の距離離れればイベントから離脱するかどうか選べるらしく、クリスタルを選んでも同じらしい。
よって一度守る街を選んでしまえば、やっぱり他の街にする、というのが今回のイベントでは出来ないのだ。
「このルールはちょっと初心者に厳しい気もするけど、そもそも自分の実力以上の街をこのイベントで選ぶ人が悪いか」
コネファンでは誰かに手伝ってもらって自分の実力で行けない街に行く事もできるが、街を防衛するイベントでそこを選ぶのはやめてね、もし報酬欲しさにその街を選んで、全くモンスターが倒せなくてもその人の責任だよ、ということだな。
「王都は……お、各街の防衛参加人数が分かるのか」
王都81人、83人、85人、とリアルタイムで人数が増えているため、この画面で少し待っていれば、人数の少ない街を選ぶ事も可能なのだろう。
ただ、現段階ですら帝都、イオの街、王都は人数が少なく、やっぱりそれ以外の街の人数が桁違いに多い。
「まぁこの画面を見てても仕方ないし、さっさと王都選ぶか」
俺は防衛する街の選択画面で王都を選択すると、何度も本当に王都でいいかの確認をされた。
ここまで注意するように言われてやっぱり他の街が良かったですはもう通じない。
というか事前にどの街を守るか決めてない人なら、この選択画面の警告でビビって自分の実力よりも防衛が簡単な街を選択する人が出てきそうだ。
自分の実力以上の街を選択することはお勧めしませんって何度も言われたし。
「まぁもしかしたら他の街を選択してたらこんなこと聞かれないのかもな」
王都を選択したから警告が出ただけで、西の街とかならあんな文章が出ないのかもしれない。
「って今はそんなこといいな。よしっ、すぐに街の外へ出よう!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
王都を選択した瞬間俺達は王都のクリスタルまで転移させられたため、とりあえずまた門の近くに向かう。
まだモンスターは街へ襲いかかってきてないらしいが、今のうちに外へ出ていないと後から外へ出ることが難しくなる可能性が高い。
「気を付けるように!」
「はい、行ってきます」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
優しい門番さんは笑顔で俺達へそう声をかけてくれたが、あと数分後には襲いかかってくるモンスター達のせいであんな笑顔ではいられなくなるだろう。
「あ、こんにちは」
「あら、またユーマに会うなんて運命かしら?」
「団長がもう少しでユーマさんが来るはずだからここで待つって言ったんじゃないですか」
「駄目よププ、そんなこと言ったら面白くないじゃない」
「面白いも何も、ユーマさんが行く方向と逆にしようって話をしてここで待ってたんですから」
「そうだけどそうじゃないの。それでユーマ、折角たまたまここで会えたし話があるのだけど……そろそろうちに入らない?」
「団長はユーマさんが北側か南側のどちらを守るか聞いてます」
「もぅププ邪魔しないで」
「現在進行形で邪魔してるのは団長です」
テミスさんとププさんの2人が揃ってるのは久しぶりに見たが、やっぱりこの2人の相性は良い。
「どっちに行きたいとかありますか? 無いなら俺は街の北側を守ろうかなって」
「では私達は南側を守ることにします。団長、ユーマさんがうちには入らないって断ってました」
「私目の前で行われてる会話が聞こえない程耳が悪いわけじゃないのよ?」
「私が返事をするかユーマさんが返事をするかの違いだけです。返事の内容は一緒ですから私で我慢してください」
このやりとりだけを切り取ったらププさんとテミスさんの仲が良いだけにしか見えないんだけど……
「あっ団長、生産職組のAパーティーから団長へ個人チャットを送っても読んでくれないと私に来ています」
「分かったわ……これでいいわね。イベント中は私への連絡も全部ププにしてってクランチャットで言ったわ」
「……王都のクリスタル前に個人のパーティーがいくつか来ているらしく、どこを守ればいいか優美なる秩序からの意見が欲しいとのことです」
「勝手にしてちょうだい」
「……私達の配置している人数が比較的少ない場所を教えておきますね。どこを守るかの判断はあちらに投げます」
「あ、さっき私を呼んでたクランがあったんだけど……」
「確かコルキさんのクランです」
「そうそう、今回のイベントについてもう少し会議をしたいって話だったのだけど、あれも行けなくなったから断っておいて」
「……今回私と団長は街の外でモンスター討伐をすることにしたので、王都の中で会議する時間がなくなってしまい、申し訳ありませんが参加出来ません、と私から送っておきます……」
うん、もう今のだけでププさんが大変なのは感じた。
テミスさんに報告してるけどほぼププさんの方で全部処理してるし、なんならテミスさんを通さない方がスムーズだ。
「なんか、お疲れ様です」
「いえ、ユーマさんのおかげで少しの間ですが休むことが出来ましたから」
たぶん休みっていうのは、さっきテミスさんが言ってた、ププさんがテミスさんの近くからずっと離れないと言っていた時のことだろう。
「あれ、2人はそんなに仲が良かったかしら? 前よりププとユーマの距離が近い気がするのだけど」
「俺は別にそんなことはないと思いますけど……この前俺の家を特定された時に2人で話したので、その時にちょっと仲良くなったくらいですね」
「私はユーマさんのおかげでこの前団長に褒めて貰うことが出来ましたから、夢のような時間をくれたユーマさんに感謝しています」
「あら、ププが私から離れなくなって、イベントの準備を一切やらなかった時の話?」
「団長がいつも私達に色々任せ過ぎだから、少しは自分でもやってみると言って何も出来なかった時の話です」
あれ、テミスさんからはププさんがイベントの準備を進めなかったって話をされたけど、本当はテミスさんがやってなかっただけなのか?
「あれ、さっきテミスさんが話してた内容と違う気が……」
「私がいきなり全部出来るわけがないのはププも分かってたはずよ。それなのに私がやるって言った時にププは止めてくれなかったの」
「団長がイベントの準備を手伝うって言って聞かなかったから見てたんですよ。取り返しのつかないことにならないよう私は常に団長の近くで監視してましたし」
「あ、またテミスさんが言ってたことと違う」
「ププは私の近くに居ることが出来て喜んでたじゃない」
「普段褒められないので団長に褒められたのは嬉しかったですよ。でも何時間も褒めてもらえるわけじゃないですし、ほぼ団長の監視の時間でした。バレないように私の方でいくつか団長の案を書き換えたりしましたし」
やっぱりププさんは苦労人だ。
「ってこんな話をしている場合ではないです。私と団長しか居ないですし、早く移動しましょう」
「もう、分かったわ。じゃあユーマ頑張ってね」
「はい、お互いに頑張りましょう」
こうして俺達はお互いの行く場所が被らないように、俺は北側へ、テミスさん達は南側へ走っていくのだった。




