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第200話

「ユーマ、今日クランハウスの方へ来たって聞いたけど、何かあった?」

「あ、テミスさん。いや、あの時は丁度時間があったんで、教えてもらったクランハウスにお邪魔しようかなって行っただけですから、気にしないでください」


 最前線攻略組のクランハウスへ入ってすぐに、テミスさんから話しかけられた。

 テミスさんの装備が前付けてたのとちょっと変わってるし、このイベントまでの期間に新調したのだろう。

 

「そうなのね。今度来た時は私がおもてなしするわ。あのクランハウス結構良い雰囲気なの」

「いや、まぁ一応俺もクランハウスの中は見たことあるんですけど……お邪魔した時はお願いします」

「あとププの件でお礼もまだだわ。何かユーマから私にしてほしいことはないの? 例えばパーティー加入とか」

「それはテミスさんが俺のパーティーに入るってことですか?」

「それも良いわね」

「……ププさん達泣きますよ」

「ならユーマに入って貰わないといけないわね」

「もう会議始まるっぽいので行きますよ」


 俺はテミスさんの話を聞き流しつつ、この前と同じ部屋へ入る。

 今回テミスさんは前の方に座るわけではないらしく、俺の隣に座って一緒にリーダーの話を聞くことになった。


「では、2時間後に始まるイベントに向けて、最後のクランリーダー会議を始める。あまり長くするつもりはない、静かに聞いてくれ」


 リーダーがそう言うと、この場にいる全員が黙った。


「まず以前話した通り、最前線攻略組が帝都、優美なる秩序が王都、鋼鉄の砦がイオの街を守る。これは帝国領、王国領、連合国領の1番進んでいる街であり、今回のイベントではあらかじめこの3つの攻略組の守る場所が重ならないように決めさせてもらった。その他の街もいくつかのクランに話をして、大きな街にはどこかのクランが配置されている。もしクラン同士で協力し街を守るのであれば、そのクランに話を持っていくようにしてくれ」


「そしてイベントが始まれば分かるだろうが、クリスタルでの移動が出来るかどうか、これが重要になってくる。もし移動が可能であれば、イベント中守る街を変えることもあるだろう。好きに自分の守る街は選んでくれたら良い」


「最後になるが、基本的にはイベントを自由に楽しんで欲しい。街を守るのはこちらから声をかけたクランがある程度やってくれることになっている。余程人が少ないか、モンスターが強過ぎるなどのイレギュラーが起こらない限り、街が崩壊することはないだろう。少なくとも帝都を俺達と一緒に守るつもりの者は心配要らない。まぁ俺達のせいで活躍できない可能性は高いがな」


 そう言ってリーダーが笑うと、静かだったこの部屋が更に静かになった。


「(リーダー、その言葉でその笑い方しても誰も盛り上がらないですよ。お前達は俺達より弱いからな! って言われてる気しかしてないと思います)」

「そんな態度とれるのも今のうちよ。私達がすぐ追い抜いてあげるわ」

「(あ、テミスさんには刺さったらしいです)」


 たぶんあの人は今、『そんなこと言うならやってやるぜ!!』『最前線攻略組がなんぼのもんじゃい!!』みたいなの期待してたんだろうなぁ。

 テミスさんはリーダーの期待通りの反応してくれたけど、最前線攻略組に強気にいけるのなんてそもそも数人くらいしか居なだろうし。

 皆には分からないだろうけど、今リーダーの肩がちょっと下がってる。


「俺からは以上だ。ここで質問がなければ会議を終了する。会議が終わればすぐに出て行ってくれ」

「はい! あの、公式からの情報で、今回のイベントが終わったら、貢献度ランキングを発表するって書いてありましたけど、何が貢献度に影響するんですか?」

「俺に聞く質問ではないだろう」

「す、すみません!」

「……おそらくだが、街を守ることに繋がるものは全て影響するはずだ。モンスターを倒すだけではなく、プレイヤーを回復させる、NPCを助ける……色々だ」

「あ、ありがとうございました!」


 今のやり取りで少しだけ空気が柔らかくなった。

 リーダーがこういう会話をするのは珍しいからな。


「他にないか? ……ないな。ではこれで会議を終了とする」


 ここに居る人達は皆自分達のクランでもこの後話し合いがある人が多いのか、急いでこのクランハウスを出ていく。


「ユーマは王都で守る予定の場所は決めているのかしら?」

「うーん……俺は最初街の外に出ようかなって思ってます」

「そう。私達は水路の近くに何人か配置する予定よ。なんでか分か「あ、外に繋がってる水路の柵結構脆そうでしたよね」」


 テミスさんもやっぱりあそこは要注意だと思ってたか。

 まぁ優美なる秩序が守ってくれるなら俺は普通に戦うほうが良いかな?


「……自分で調べたの?」

「全部は回りきってないですけど、散歩がてら見て回りました。あ、王都から遠くにある、細い道が多い場所ってどうします?」

「……そこは他のクランにお願いしたわ。余ってる生産職を配置してくれるそうよ」

「なら大丈夫そうですね。俺本当に何も決めてなくて、結構自由に動く予定ですけど良いですか?」

「えぇ、もうユーマは好きにしてちょうだい(流石に最前線攻略組を抜けても基本的なことはやってるのね)」

「ありがとうございます」


 クランハウスから出る間に、テミスさんと少しだけでも話をできたのは良かった。

 もしどこか守ってほしいところがあったら協力する予定ではいたんだけど、これなら本当に自由に動いて良さそうだな。


「お、ユーマが帰って来たぞ。全員一旦話し合いはやめてくれ」


 俺が自分のクランハウスに帰ってくると、ガイルが皆にそう呼びかける。


「あれ、なんかしてたの?」

「どこを守るのか自分達で決めさせてたんだよ。そしたらモンスターが少なくても文句ねぇだろ?」

「なるほどね」

「防衛戦で全員を自由に動かすわけにはいかないからな」


 早速メイちゃんに言われたことをしっかりと考えていたらしい。


「よし、じゃあユーマ頼む」

「了解。って言ってもあんまり話すことないんで、堅苦しくせずこのまま話しますね。まず予定通りこの前言ったクランが各街へ配置されてることには変わりありませんでした。最前線攻略組が帝都だったり、優美なる秩序が王都だったり。確かアウロサリバは……」

「『偉大な御方』だ。ふざけた名前しやがって」

「あ、そうそう、偉大な御方っていうクランが担当してるはずなんですけど、街を守るのはそのクランが頑張ってくれるらしいので、少しくらい持ち場を離れてモンスターを倒しに行っても良いと思います」

「まぁそういうことなら感謝するか……名前は言いたくないが」


 さっきのガイルを見ていると、ファミレスの店員さんが『御殿様』とか、『フ◯ーザ様』とか、『俺様』って順番待ちの名簿に書かれたお客さんの変な名前を呼ばされてるような感じに見えた。


「ただ、偉大な御方が街を守ってくれると言っても、1つのクランで守り切るのは厳しいと思うので、やっぱり皆さんの協力は必要だと思います。自分達の持ち場は守りつつ、たまに少し遠くまでモンスターを倒しに行く、くらいが丁度いいかな?」

「分かった」

「まぁ幸福なる種族と偉大な御方だけでアウロサリバを守るわけじゃないと思うので、そこら辺は臨機応変に対応して頑張ってください」

「あの、ユーマさん!」

「はい、アリスさんなんですか?」

「うちら……私達が街を防衛する上で何に気をつければ良いですか?」


 アリスさんから質問が飛んできたが、これは街をどう守るかの具体的な作戦というより、気持ち的な部分のアドバイスだろう。

 俺も防衛戦はあんまり得意じゃないから自信を持って言えないんだけど……


「俺の友達が言ってたのは、味方を信じる事が防衛戦では大事だと言ってましたね」

「味方を信じる、ですか?」

「はい。防衛戦だと色んな場所を攻撃されるパターンと、一点突破を狙われるパターンがあって、基本的にはどのゲームも大体一点突破が強いんですよ。どうしても同じ数で戦うと防衛側が有利になりがちなので、攻撃側は人数をかけて攻めないとなかなか崩せないんです。なのでそういう前提もあって防衛側は皆攻撃されたと報告の入った場所にすぐ集まりがちなんですけど、そうなると他の場所が手薄になって、そこを狙われるってのが負けてしまう原因になりやすいんです」

「なるほど」

「だからある程度は味方を信じて、自分の持ち場はしっかりと守るってのが重要かなと。まぁ今回はモンスターが相手なのでそんなこと考えなくても良い可能性が高いですけどね」


 クラン対抗の攻城戦的なのをするならこの辺りの話は重要だが、今回はそうじゃない。


「あ、でも1つ注意しないといけないのは、どれだけ自分達がしっかりと守っていても、他のクランの人達が担当する場所がモンスターに突破される可能性もあるので、その時は焦ったり怒ったりせずに、冷静に対処してくださいね。仮に自分達がその場所に居ても同じ状況になってたって考えると良いと思います」

「分かりました!」

「確かアリスさん達は街の外を動き回ってモンスターを倒すんでしたよね?」

「そのつもりです! クランチャットでモンスターが多い場所を報告してもらったら、皆でそこに向かおうと思ってます!」


 アリスさん達は所謂遊撃部隊的な動きをするらしい。

 その方が配信で色んな場所を映せるし、視聴者も見てて面白いからだろうけど、結構難しいポジションではあるため注意は必要だ。


「それなら一応イベント中はガイルと腹ぺこさんだけでクランチャットは使ってもらおうかな。皆には何かあったら腹ぺこさんかガイルに個人チャットを送ってもらって、その2人以外は緊急性が高くて全体への連絡が必要な時だけクランチャットを使うってことで」

「分かりました!」


 これならイベント中大事なチャットのログが流れたりすることは少ないだろう。


「他に質問は……なさそうなので、俺からの話は以上です」

「助かった。後は俺と腹ぺこに任せてくれ」

「ガイルありがとう。ちょっとイベント前にもう少し王都を見ときたくて、先に出ていい?」

「あぁいいぞ、頑張ってこい。こっちもイベント後に良い報告が出来るよう頑張るからよ」

「ユーマさんなら貢献度1位になれますよ!」

「いやぁ、流石にそれは無理かな? でも頑張ってくるね」


 メイちゃんの発言で周りにいた皆も俺のことを応援して送り出してくれるが、誰も俺が1位を取れるとは流石に思ってないはず。

 ……いや、メイちゃんだけは俺なら1位を取れるって本気で思ってそうだ。


「じゃあ皆頑張って!」


 そう言って俺はクランハウスを出ようとしたのだが、一度2階にある自分の部屋に寄って、俺宛の何かが届いてないことを確認してからにする。


「ん? メモ?」


 何もないと思って来たのだが、机の上にメモが置かれていた。


「とおるさんとともるさん、あとカンナさんの名前があるな」


 この3人には罰としてクランへの素材提供を今日までしてもらっていたのだが、ここには何をいくつ集めたのかの数字が書かれていた。


「結構集めてくれたんだな」


 貴重な素材があるわけではなかったが、装備に使えそうな素材や食材の名前の横に3桁の数字が書いてあったので、相当な数のモンスターを倒したんだろう。


「本当は直接言いたかったけど、まだ下では話し合いしてるっぽいしな」


 俺はこの3人に個人チャットでお疲れ様でしたと送り、今回情報を外へ漏らしたことへの罰はこれで終わりとした。


「じゃあ今度こそ王都行って、もうちょっと下見して、イベント頑張ろっか」

「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」


 下ではまだ話し合いをしてるのか、階段を降りている時に少しだけガイル達の声がした。




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