第195話
「あの、俺の出番は……」
「……(ふるふる)」
「中ボスが出て来るまで本当にここで戦うの?」
「……!(コクッ)」
エメラの方針が決まり早速モンスター達を倒し始める俺達だったが、俺は魔法を使えるわけでもないのに、ずっとエメラとシロを護衛する役目だった。
「あの、モンスター達がどんな行動をしてくるか分からないからここに俺が居ると思うんだけど、まさか俺が自由に動けないように悪戯フェアリーを先に倒す作戦にしたわけじゃないよね?」
「…………!!!」
「そ、それなら良いんだけど(はいダウト。たぶん最後の俺の言葉でエメラはこの作戦に決めたな)」
俺がウル達を殺気立たせる結果になってしまったのは、『一か八かで俺が中ボスに向かって戦いに行く』と言ってしまったからだ。
本来なら俺の今居るポジションはルリの役目で、少し前に出てモンスター達と戦っているルリの場所が俺の筈だ。
でも、皆を助けるために俺1人でホブゴブリンの場所へと向かい、倒されてしまった過去の俺がエメラの心に……いや、エメラ達全員の心に残っているのか、この配置に俺以外の全員が納得していた。
もうあんなことにはならないくらい皆成長したし、今なら俺も自分から倒されるようなことはしないけどなぁ。
「俺ももう少し戦いたいなぁ」
「……」
「シロもエメラに説得してくれない?」
「コン」
エメラはモンスター討伐に集中しており、シロは俺の言葉に反応はしてくれたが、無理です、というような感じ。
この中だとシロはゴブリンに負けた時まだ仲間じゃなかったんだけど、何故か俺達がゴブリンに負けた事は知ってるような感じだったし、もしかしたらウル達に教えられてたのかもしれない。
この中だとシロが1番俺の味方になってくれそうではあるが、周りの先輩魔獣達があれだけ鋭い目つきでモンスターをバンバン倒してたら怖いよな。
「エメラ、周りのモンスターをある程度倒して、中ボスが出てきたら俺の出番なんだよね?」
「……!」
「……分かった、それまでは大人しくここで2人を守るよ」
今の配置は明らかに俺を自由にさせないような配置だが、俺がここに居ることでエメラとシロは攻撃だけに集中出来るというメリットはある。
勿論俺とルリの位置が逆なら完璧だと思うが、それでも誤差の範囲だろう。
悪戯フェアリーはウルの魔法一撃で倒せるため、もう随分と数は減った。
そして悪戯フェアリーが倒されれば倒されるほど統率の取れなくなったモンスター達が好き勝手に暴れるので、俺達はそいつらと戦う。
もうこれは戦いというより処理に近いのだが、主にエメラとシロの魔法でモンスター達の数を減らしていった。
「っと、危ないな」
『プギャァァァ!!!』
突進ボアが後ろから襲ってきたため、俺は顔面へと片手剣を振り下ろす。
こういう敵を今は一撃で倒せるから良いものの、本当ならルリが盾で防ぐのが良い。
「エメラもシロも後ろから襲ってくるモンスターの声は聞こえてたはずなんだけどな……」
俺が突進ボア程度に負けるとは思ってないだろうが、ルリと違って俺だとエメラ達のところまでモンスターを通してしまう可能性が意外とあるんだけど……俺を信頼してるから見向きもしなかったのかな?
俺がルリだったなら今みたいに何も警戒せず他のモンスター達に攻撃を続けていいと思うんだけど、盾を持ってなくて、突進してくるモンスターを逸らす手段が少ない俺のことは、そんなに信じ切らない方が良いと思う。
まぁ本来はルリが守ってるはずだし、今後俺がこの役目を担うことはほぼ無いだろうけど。
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「あぁ、出てきたな」
ウルが暗殺者ばりの働きで悪戯フェアリーを倒していった結果、自由になったモンスター達は最初こそ暴れ回って俺達へと攻撃してきたが、冷静になるとこの場から逃げていったモンスターも多く、今ではあれだけいたモンスター達がほぼ居なくなっていた。
「操ってただけだとこうなるよな」
正直ゴブリンの時より全然楽だった。
ウルのおかげで悪戯フェアリーに俺達が攻撃されなかったというのもあるし、仲間意識のない相手が脅威ではないというのもある。
自分達の居場所に入ってきた俺達を倒そうという気持ちは悪戯フェアリーだけで、他のモンスター達には関係ない。
なんなら悪戯フェアリーの被害者でもあるモンスター達が、協力して俺達を倒そうと思うわけがないのだ。
だからここまではゴブリンの巣よりも簡単にいったんだけど、中ボスさんは随分と強そうな見た目をしている。
「俺は中ボスが悪戯フェアリーの進化系だと思ってたんだけど、アンデッド系のモンスターだったか」
汚れた黒色のローブ、いかにも魔法使いですというように赤い宝石が先の方についている魔法の杖、その杖を持っている手は白いのだが、それは白い手袋をしてるわけではなく、骨がむき出しになっているからだ。
フードを目深にかぶっていて顔全体は見えないが、口元だけで十分どんな顔なのかは想像できる。
「『偽物のリッチ』か」
名前に偽物とあるが、これは目の前のリッチが偽物だというわけではなく、そういう名前なのだろう。
「まぁこっちとしては本物でも偽物でも良いんだけど、取り敢えず倒させてもらおうかなっ!」
やっと自分の出番が来たため、俺は全速力でリッチへと近付いていく。
敵は明らかに魔法を使ってくるため、近接攻撃しか無い俺は近付かないと始まらないのだ。
「っ!? シロ! 燃え広がらないように火は消してくれ! シロだけで無理ならウルも手伝って!」
「コン!」「クゥ!」
近付く俺へと敵はいくつもの火魔法を撃ってきたのだが俺はそれを回避、その後すぐにリッチへとまた近付こうとしたのだが……後ろから何かが燃える音がして見てみると、先程リッチが撃った火魔法が森の木を次々と燃やしていた。
こんなことはあり得ないのだが、とにかくシロとウルに消火してもらわないと、このままではこのあたりが全てあの火で燃やされてしまう。
「どうなってるんだ?」
普通は戦闘で使われた魔法がここまで周りに影響を与えることはない。
攻撃魔法は攻撃としての効果と環境への効果が多少あるだけで、ここまで周りのものに干渉することは絶対にない。
火魔法で少し植物が燃えたりしてもすぐ消えるし、木が丸々燃えて他の木にも燃え広がるような今の状況は、決して起こる筈がないのだ。
「……いや、だからここへ来る前に不自然な境目があったのか。あれがボスエリア的な役目をしてる可能性はありそう」
この場所に来る前、まるで大きな機械によって抉り取られたかのように、2〜3メートル程何の植物も生えていない土だけの道があった。
それを見て俺は、本来この道を通って来た人達が気まぐれにこの辺を探索してみて、妖精さんが教えてくれたボスを見つけたりするんだろうなぁなんて思っていた。
しかしあれは道などではなく、この悪戯フェアリー達の巣、偽物のリッチという中ボスと戦うこの場所を囲う線であり、ここから先は中ボスエリアだと教えてくれていたのかもしれない。
「そう考えて見てみれば、結構シロの撃った水魔法も地面に残ってるな」
シロが出した水魔法が地面に水溜りとして何箇所も残っている。
これはあの偽物のリッチが特別な魔法を使ってるんじゃなくて、この場所自体が魔法の効果を残し続ける、特別なエリアだという証明に他ならない。
「よく見たらウルの氷魔法も残ってるし……冷たい?」
俺はリッチに近付こうとして、また相手の撃つ魔法を避けるため立ち止まったのだが、その時見つけた足元に落ちているウルの魔法を手に取ると冷たかった。
いや、氷魔法は冷たいだろ、と思うかもしれないが、この氷片を長時間触ってるだけでダメージを受けそうな気配がするのだ。
「!? 味方にも魔法攻撃が効く可能性が出てきた! 絶対に当てないようにしてくれ!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
あぁ、これは厄介な相手……というより面倒くさいエリアだな。
「これ、毒とか使ってたらヤバかったか?」
キノさんのスキルに毒胞子や痺れ胞子というのがあるが、もしかしたらこのエリアはフレンドリーファイア、所謂味方へ攻撃やスキルが当たってしまう可能性が高いため、そんなスキルを使われた日には、とんでもないことになっていたかもしれない。
「ていうか、よく悪戯フェアリーを倒す段階で味方に魔法を当てなかったな」
コネファンの仕様だと味方に攻撃が当たらないため、味方の前衛ごとモンスターを魔法で攻撃する、なんてこともあるだろうし、単純に味方へ魔法や矢を誤射したりすることもあるだろう。
ただこのエリアはそれが許されない。
偶然だけど、誰かがダメージを受ける前のこの段階で気付けたのは本当に良かった。
「要は環境へ魔法の効果があるし、フレンドリーファイアもありの特別なエリアで、中ボスである偽物のリッチを倒せってわけだな」
いやぁ、良いね。ハードモードで遊んでる感じがして楽しい。
相手の魔法を避けるにしても、シロとウルが消火しやすいように考えて避けないといけない。
味方に魔法で援護してもらうとしても、その魔法に自分が当たったらダメージを受ける。
後ろでエメラとシロを守るだけより、全然こっちのほうが楽しいな。
「それにしばらくは俺とお前の一対一だ」
ウルとシロは消火活動、エメラとルリにはあと少し残ってるモンスター達の相手をしてもらってるので、今リッチと戦えるのは俺しかいないのだ。
「今のところ偽物どころか全てが本物っぽくなってるけど、お前は何が偽物なんだろうなっ!」
『……』
「っ!? マジか、ちょっと1人で勝てるか怪しくなってきた」
俺は片手剣で攻撃したのだが、結界のようなもので阻まれる。
流石にまだこの段階で常時物理攻撃無効とか、そういう敵は出てこないと思うんだけど、大丈夫か?
「もし俺の攻撃が効かない場合はウル達に倒してもらうけど……まだもう少しお前の火魔法の処理に時間がかかるっぽいし、色々試すかな」
『……』
取り敢えず俺が攻撃してる間はリッチが魔法を撃ってこないため何度も攻撃してみるのだが、俺には見えない結界で全ての攻撃を防がれる。
「あの火魔法の練度からすると、魔法で結界を張ってる感じじゃないな。俺が攻撃してる時に攻撃してこないのを見るに、こいつにダメージが通るのは攻撃してる瞬間だけとかか?」
『……』
「あ、色々喋ってるけど、もしかしてこっちの言葉分かったりする?」
『……』
俺はこのいつもより難易度が上がった特殊なエリアに少しだけ興奮しているのか、返事が返ってくるはずもないのに、リッチ相手に何度も話しかけては攻撃を繰り出すのだった。




