第193話
「お疲れ様、俺は明日明後日確実に訓練には参加できないから、今日みたいに食べ過ぎないようモルガは注意してね」
「うぅ……」
モルガは朝ご飯を食べすぎたせいでずっとこれだ。そろそろいつもの状態に戻って欲しいけど、あれだけ食べたらすぐには無理だろうなぁ。
「ユーマさんありがとうございました!」
「うん、ハティもお疲れ様」
「エマ、そう言えば今日じゃなかったか?」
「あ、そうなんです! そろそろお父さんが来ると思います」
モニカさんとエマちゃんが話しているが、俺には何のことだか分からない。
フカさんが来るって、なんだ?
「おまたせエマ。ユーマくんも居るなら丁度良かった。ライドホースに乗って明日家族で出掛けてみるよ」
「え、あぁ、それは良いですけど」
「確か明後日は家に居る方が良いって話だったから、明日に予定をずらしたんだ。だから今日エマが1人でライドホースに乗れるかどうかテストして、私が合格だと思ったら明日はエマもライドホースに乗って楽しませてもらうね」
エマちゃんは子どもだったあのライドホースにたまに乗って、1人で走れるように練習してたらしい。
それで今日フカさんに合格をもらえれば、お出かけの日にエマちゃんも自分1人でライドホースに乗れる、不合格だったらフカさんと一緒に乗ることになるのだとか。
「俺のせいで1日予定を早めちゃったのか」
「ユーマくんが気にする必要はないよ。それにいつでもライドホースには乗ってもいいってことだし、今日エマがちゃんと乗れなかったとしても、また今度行く時に乗れるようになってるさ」
フカさんはそう言うとライドホース達のところへエマちゃんと歩いて行った。
「あ、万能鞍じゃなくて普通の鞍で乗れるかのテストなんだな」
おそらくお出かけ当日は万能鞍を付けて行くのだろうが、今はテストだから普通の鞍を付けて乗っている。
まぁエマちゃんがフカさんのテストに合格しなくても、明日ライドホースに乗ってお出かけできるなら良かった。
エマちゃん1人で乗るのは危ないって判断されて、お出かけ自体なしになるなら申し訳なかったし。
というか俺も今度ライドホースに乗って街の外へ出てみるか?
そもそもライドホースに乗って勝手に出て行けるのかどうかも知らないけど。
「ユーマ、少し時間を貰っても良いか?」
「あ、はい。モニカさんどうしました?」
俺はしばらくフカさん達を見ていたのだが、モニカさんに呼ばれて一度家の中へと戻る。
もうウル達は朝の作業を手伝い終えたのか俺のとこに集まってきたし、モニカさんの用事が終わったら王都でボス探しだな。
「お父様とお母様から手紙が届いたんだが、この前ユーマが話していたイベントは、ファーベスター領にも関係あるのか聞いておきたくてな」
「たぶんプレイヤーが今までに行ったことのある場所が対象っぽいので、モニカさんの実家は関係ないと思います」
「そうか、分かった。あと、これはゴーさんにもう渡したが、お父様とお母様から野菜が届いた。おそらく昨日の晩御飯と今日の朝ご飯にも使われていたな」
「あ、そうなんですね。お礼の手紙書かないと……」
「いや、それは不要だ。私の方で書いておく」
「ありがとうございます」
やけに色んな食材が使われてるなって思ってたけど、モニカさんの実家から送られてきてたのか。
だとしてもゴーさんはいろんな料理作り過ぎだと思うけど。
「次はいつになるから分からないが、またここに来たいとお父様もお母様も言っていた。その時はよろしく頼む」
「はい、いつでも来てくださいって書いといてください。あ、それとこっちからも何か送りましょう。何が良いかな……」
俺はゴーさんのところへ行き、モニカさんの両親へ今回の野菜のお礼で渡す物を選んでもらう。
「何が良いかな?」
「ゴゴ!」
「え、それ?」
ゴーさんが提案したのは、畑に生えている幸福の種が育ったものなどの、不思議な種に関係するものばかりだった。
「一応不思議な種と苗関係は、メイちゃんに渡したいなって思ってるんだけど……」
「ゴゴ」
「まだちゃんと自分で使ったことないし、送るとしても少しだけにしない?」
「ゴゴゴ」
「……ダメなんだ。ある程度量がないと効果があんまりなかったりするの?」
「ゴゴ!」
まぁ畑は全部ゴーさんに任せてるし、ゴーさんに従うしか無いな。
俺はいつになったらステータスアップポーションの研究が出来るのだろうか。
俺の勘が絶対に不思議な種や苗がステータスアップポーションに関係あるって言ってるんだけど、なかなか試すことが出来ない。
でも今はゴーさんが全部管理してくれてるし、ゴーさんも俺に意地悪したくてこんなことしてるわけじゃない。
ちゃんと理由があってのことなのだろう。
「じゃあゴーさんの方でモニカさんに渡しておいてくれる?」
「ゴゴ!」
「ありがとう。俺達も今から王都に行くし、今回の分くらいは不思議な種を集めてくるよ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「ゴゴ!!」
普通はそんなに出ないらしいけど、草ダマとウツボバズーラを狩るだけでこの前は手に入れられたしな。
「モニカさん、あとでゴーさんからダニエルさんとソフィアさんへの贈り物を渡してくれると思うので、手紙と一緒に送ってもらっても良いですか?」
「わざわざすまない」
「いえ、俺は何もやってないというか、ゴーさんのおかげというか……」
「あ、そうだ。新しくなったユーマのアイスカップも送りたいのだが、良いか?」
「全然良いですよ」
「これでユーマにどんな仲間が増えたのか分かるだろう」
ダニエルさんとソフィアさんは、俺のことよりモニカさんのこと知りたいと思うけど、まぁ良いか。
「じゃあこれで終わりですかね?」
「あぁ、時間をとってすまないな」
「いえいえ、それでは」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
俺達はモニカさんに見送られて家の裏のクリスタルから王都へと移動するのだが、まだモルガはお腹が重いのかいつもの訓練場所で寝転んでいた。
「これとこれ、あとこれも受けるか」
冒険者ギルドで依頼を受けたのだが、今回は普通の討伐依頼や納品依頼しか受けなかった。
ウル達には王都のボスを探すって言ったし、その道中で達成出来そうな依頼じゃないと、いつまで経ってもボスを見つけることが出来そうになかったからだ。
「軽くボスを見つけるって言ったけど、絶対に難しいよな」
一応今の俺の装備を作るために倒したボス達の先に道が続いてたのは確認してるので、たぶん更に強いボスがあの先に居るんだろうなとは思っている。
ただ、今の俺達じゃ絶対に倒せないだろうし、そっちはまたレベルを上げてから初見で挑もうと思うので、今回は本当に知らない場所の知らないボスを探すしか無い。
「一旦不思議な種集めながらどこで探すか考えるか」
こんな気軽に集められるような物ではないらしいが、実際にドロップしてくれるのだから取りに行くしかない。
カジノでは不思議な種1つにつきチップ10万枚の価値だったから、そこら辺のボス素材に負けないくらいの価値だと考えれば、いかに貴重なものか分かるだろう。
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「皆いいよ、イベントの日もその調子で頑張ろう」
俺がそんな不思議な種の価値について考えてる間も、ウル達は猛スピードでモンスター達を狩っていく。
そしてインベントリには目当ての不思議な種が少しずつ増えていくのだ。
「前よりも倒すのが速いのは、俺の装備が整ったからだろうな」
もう俺のことを気にせずモンスターに集中できるからか、草ダマもウツボバズーラもどんどん倒されていく。
「もう良いよ! これ以上続けたらボス探しの時間がなくなりそうだし」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
予定より早く不思議な種も集まったので、早速ボス探しへと行くのだが……
「よし、アウロサリバから王都に向かう時に通った、あの一本道の近くを探すか」
あそこにボスが居るのかどうかは分からないが、わざわざあの辺を探索したプレイヤーはまだ居ないだろうし。
「こっからは全員で協力して探すしか無いから、何か見つけたらすぐ言うように」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
一本道を少し進んだ後、まっすぐ続く道から逸れて、俺達は森の中へと入る。
以前はモンスター達の統率を取る悪戯フェアリーがなかなか厄介だったが、今回はどんなモンスターが出てくるのか楽しみだ。
「流石に獣道っぽいのしか無いよな」
この辺はこの世界の冒険者達も立ち入らないのか、どこを歩いても道といえるような場所が見当たらない。
これだと移動しづらいし、ちゃんと道になってる場所を見つけてから森の中に入れば良かったか?
「クゥ!」
「突進ボアか、ここからウルには統率を取るようなモンスターの警戒と討伐を任せる。それ以外のメンバーで、俺達の近くに寄ってきたモンスターは倒そう」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
草が生い茂っていて、歩くのも大変なこの環境でモンスターに襲われるのは面倒くさいが、逆に言うと突進ボアのようなモンスターが通れる道がそこにあるということ。
やっぱり獣道すらない場所を歩くのは大変だったし、これは反省しないとな。
「すぐ倒してどんどん進んで行こう。開けた場所かボスエリアを見つけない限り、このままだとお昼ご飯を食べる場所すらないからな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
こうして俺達は道なき道を進みながら、ボスがどこかに居ると信じて森の中を進み続けるのだった。