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第192話

(ここの壁がちょっと脆そうだけど、突破されてもすぐ騎士が対応できそうだから問題なし)

 

(こっちは水路が外と繋がってて、動物の侵入を防ぐ柵があるけど結構脆そうだし、要注意かな)


(この辺は細い道が多くて城からも遠いし、騎士が来るには時間がかかりそう。もし王都にモンスターが入って来たら、ここは危ないかもな)


 俺は王都内を歩いて回りながら、イベントに向けて色んな場所を自分なりの危険度を決めて頭の中でマッピングしていく。

 どんな時にどの場所へ向かえば良いか、様々な状況を今のうちに考えておくといざという時にすぐ動けるのだ。


「で、こんなのはあんまり楽しくないだろうなって思ってたけど、そんなに楽しい?」

「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」


 ウル達は俺と一緒に色んな場所を歩いて回ってるだけなのだが、モンスターと戦ったり、危険がいっぱいの未知の世界を探索するだけでなく、安全な場所を散歩するだけでも十分楽しいらしい。


「ちっちゃかった頃のウルと2人で、はじめの街の配達依頼受けた時を思い出すな」

「クゥ」


 あの時は同じ道を行ったり来たりしただけだったけど、それでも荷物の上に乗ってるだけでウルは楽しそうだったし、やっぱ散歩は楽しいのかもしれない。


「まぁ全部は見れてないけど、明るくなってきたしこれで終わりかな」

「クゥ」「アウ」「……!」「コン」

「この後家帰ってご飯食べて、今日は一緒にモニカさん達と訓練して、その後は王都近くでレベル上げって思ってたけど……新しいボスでも探してみる?」

「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」


 まだまだ王都には色んなボスが居るだろうし、王都近くでレベル上げよりはそっちの方が楽しいよな。


「あ……めちゃくちゃ綺麗」

「クゥ」「アウ」「……!」「コン」


 ふと顔を上げると赤く染まった朝空が目に映る。

 俺の言葉でウル達も空が気になったのか、皆で上を見て朝空の変化を楽しみながら歩いているのだが、夜中歩き回っていた時と比べて騒がしい王都が、ウル達の興味をすぐに空から引き離す。

 美味しそうな匂い、朝からお店の準備をする忙しそうな人、立派な装備を付けて冒険者ギルドへと向かう人達。

 いつの間にか俺も空なんかより周りが気になって、いつものようにこれ食べたいと訴えてくるウル達に、朝ご飯の前に何か食べないよう注意するので忙しかった。


「皆今からゴーさんのご飯食べるんだから、それまで我慢して。それでも欲しかったらまた来れば良いから。ゴーさんのご飯食べるのが1番皆も力が出るでしょ?」

「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」


 俺の言葉でウル達も納得したのか、それ以降どこかで立ち止まって、これ食べたい、と俺にアピールすることはなくなった。


 食いしん坊のウル達をも我慢させるゴーさんの料理、恐るべし。




「あの、ゴーさん?」

「ゴゴ」

「なんか朝ご飯豪華過ぎないですか?」

「ゴゴ!」

「えっと、昨日の晩御飯の時からちょっと豪華だなって思ってて、あの時は俺がゴーさんをワイバーンに乗せてあげれなかったことに対して、別に気にしてないからね! っていうゴーさんなりの俺へのメッセージなのかなって勝手に思ってたんだけど……」


 昨日の晩御飯の時はまだウル達のきょとん顔で俺の脳が焼かれてたから記憶が曖昧なんだけど、美味しいなぁって思いながら食べたのは何となく覚えている。

 そしてさっきウル達に、朝ご飯の前に何か食べないように、なんならこの後のボス探しに向けてテンションを上げるために、ゴーさんのご飯が1番力が出るとか言ったけど、まさか本当にいつもより力が出そうな料理になってるとは思わなかった。

 

「おいしそう、ユーマ早く食べようよ!」

「あれ、いつもはモルガもう少し寝ぼけてるのに、今日は寝覚めが良いんだね」

「朝ご飯の匂いがぼくを覚醒させてくれたんだよきっと」

「普段もそれくらい寝覚めが良かったなら、私が起こす必要もないのにな」

「自分がモルガさんを起こすことが出来れば、モニカさんに迷惑をかけなくて良いのに……」

「いや、それで言ったらモルガがなかなか起きないのが原因で、ハティは何も悪くないぞ。それに私も起こすのが迷惑などと思っていない。気にしすぎだ」


 なんかゴーさんのご飯が凄くなったことより、朝モルガが起きるかどうかの話の方が盛り上がってる。

 まぁモニカさん達からしてみればゴーさんの料理が豪華になったことよりも、ご飯の匂いでいつもなかなか起きないモルガが起きたことの方が衝撃だったのだろう。


「えっと、とにかくゴーさんありがとう。本当に無理はしないでね?」

「ゴゴ!」

「い、いただきます」


 あぁ、その元気な返事は絶対今後も続けるやつだ。

 今自分が作った料理を皆が夢中になって美味しそうに食べてるのを見て、今後も頑張ろうって心の中で決めてるやつだ。


「おいしーーーーい!!!」

「モルガ、大きな声で叫ぶならせめて食べ終わってからと私はいつも……もう食べ終わったのか?」

「おいしすぎる! ぼくもうここに永住する!! それかゴーさんを連れてく!」

「モルガ、ゴーさんはユーマのゴーレムなんだ。自分のものにしようとするな」

「でも、モルガさんの言うことは分かります。本当に自分も美味しいと思いますから」

「……少し前までは庶民の味、大衆の味の最上級というように思っていましたが、もしかするとタルブ家でも料理を出せるような味をゴー様なら……」


 なんか皆から絶賛されてるし、こういう時に話さないサイさんですら、なんかハティの実家のシェフ達とゴーさんを比べ始めていた。


「あの、ゴーさん?」

「ゴゴ?」

「俺とかモルガ、モニカさんに出してくれたご飯は、いつもの料理をさらに美味しくしたというか、豪華にした感じなんだけど、ハティとサイさんに出してる料理ってどこで学んだの?」


 何か小さい肉がお皿の真ん中に少しだけあって、その周りを囲うようにソースがかけられていたり、一口で食べれそうなサイズのパンの上に、よく見てもあんまり分からない食材が細々とたくさん乗せられていたり、何となくフランス料理っぽいなって思うだけで、全然俺はこの料理がどれくらい凄いものなのかわからない。

 でも、サイさんが言うなら本当に凄いのだろう。味は勿論見た目も貴族の家で出される料理だと大事だろうし、ゴーさんどうなってるんだ?

 

 ちなみにこの朝ご飯を豪華だと思わせてくれるのは、ハティとサイさんに出された、数も種類もめちゃくちゃ多い料理が6割雰囲気を作っていると言っても過言ではない。

 俺はフライドポテトをフカさん夫婦に食べてもらうために高級皿を使ってたけど、ゴーさんが使うと本当に料理とお皿が相乗効果で更に美味しさを倍増させている気すらしてしまう。

 目で楽しんで香りで楽しんで、食感で楽しんで味で楽しむ、ハティが食べている様子を見てると、その全てが伝わってくる。

 まぁどんな料理でも皆で食べれば楽しいってのは変わらないけど。


「ウル達も美味しいか?」

「……」「……」「……」「……」「……」


 ウル、ルリ、エメラ、シロ、キノさん。

 全員俺の言葉は届いているはずなのに、黙々とご飯を食べているだけ。

 いつもは美味しかったらはしゃいだりするのに、今は全員が集中して、しかもゆっくりと味わって食べている。

 これってもしかして、美味しくてすぐ食べちゃう欲望に忠実なモルガよりも、味わって食べてるウル達の方が賢いんじゃ……いや、これ以上はやめておこう。

 モルガはだらしないところもあるけど、滅茶苦茶賢くて凄いってのは証明されてるからな。


「ゴーさんおいしー!! あ、これとこれ混ぜたらもっとおいしくなるかな?」


 ……魔術師モルガと言ったら誰もが知ってるくらい有名で凄い人なんだ。


「もぐもぐ……あぁ、ゴーさんに出されたそのままの方が美味しかったなぁ。でもこれとこれを一緒に食べるのは絶対おいしいはず!」

「ゴゴ」

「あ、ゴーさんありがとう。えっ、これに付けて食べるの? ……お、お、おいしすぎるーーー!!!」


 前言撤回、今目の前に居るのはただ美味しいものを食べたいだけの幼い子どもと同レベルだ。

 ミルクにお菓子を浸したり、ジュースを混ぜてオリジナルジュース作りたがるレベルまで下がってる。

 これとこれ混ぜたら美味しいかもとか、もう何年も久しく聞いてないぞ。


「ゴーさん美味しかった」

「ぼくはもうお腹パンパン……」

「自分も美味しくておかわりしてしまいました」

「大変美味しかったです。いつもありがとうございます」


 モニカさん、モルガ、ハティ、サイさんは、ゴーさんの料理に大満足している。

 そして俺は……


「あの、ゴーさん? お願いだから程々にね? 仕込みで夜から朝までかかるような物とか作らなくていいからね?」

「ゴゴ!」

「美味しさも大事だけどゴーさんの方が大事だからね」

「ゴゴ!!」


 前でも十分美味しいご飯だったけど、今回はたぶん出汁とかも1から作ってるだろうし、何時間も煮込んだであろう口の中で溶ける肉だったり、1つずつの料理の量が減って種類が増えていたり、ゲームだから時間をかけずに作れるはずの料理が、現実と同じくらいの、いやそれ以上の時間をかけて作ってそうなのが本当に怖い。


 ゴーさん、あなたは料理人としてだけじゃなくて、農業も家事も、この家の全てを背負ってくれてるんだから、無理だけはしないでくれ、頼む。


「ユーマは今日私達と一緒に訓練するのか?」

「あ、はい。参加します」

「……ぼくお腹いっぱいで動けないから、今日はユーマに任せるね」

「ゴーさんごめん、モルガに出すご飯の量もゴーさんの方で調整してくれる? 美味しかったら限界超えて食べちゃうから」

「ゴゴ」


 俺お得意の、ゴーさんの仕事を減らそうとした次の瞬間ゴーさんに仕事を頼むという、いつもの矛盾コンボが決まったところで、俺達はいつもの訓練場所へと向かうのだった。




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