第191話
「あれ、ユーマじゃね?」
「あ、動画で見たのと同じだから、たぶん本物だ! 1時間以内に来てよかったぁ」
「隣の人って優美なる秩序の副団長じゃないか?」
「もしかしてユーマとププはくっついてたんじゃ!?」
「おい! これ動画にするぞ!!」
ププさんが元気になったのは良いが、少々声が大きかったらしい。
俺の家の前に居るプレイヤー達にも聞こえてしまったようだ。
このままここを離れても良いが、変な噂を流されても困るし、少し話をしてみよう。最悪GMを呼べばどうにかなるし。
「あの、俺の家の前で何してるんですか?」
「コラボのお誘いメールをしたんすけど、なんか断られたんで直接来ました」
「えっと、メールで断った意味が……」
「いやいや、本当に今回はアリスちゃん達目当てじゃなくて、ユーマさんとコラボしたいから来たんすよ」
「確かに前のメールだと俺よりもアリスさん達目当てっていうのは感じましたけど、仮に俺へのお誘いだとしても断らせていただきます」
「えぇ〜そこをなんとか! せめて家の中を少しでも良いので見せてください! 今は配信してませんし、映したら駄目なものは編集して動画にしますから。動画のネタをどうか、どうかお願いします!!!」
今は俺へメールを送ってきた人が代表みたいな感じで話しているが、そもそもコラボする気はなかったので俺はこの人のことを調べてすらいない。
普段配信してるのか動画メインなのかもわからないけど、今配信を行っていないのは助かったな。
というかアリスさん達のことすら知らない俺からすると、まずこの人達が誰なのか知りたいのだが……
「……あの、このことに関しては大変申し訳ないんですけど、皆さんのことを知らなくて。あと、お誘いを全て断らせていただく意思は変わりません」
「ユーマさん、このように迷惑をかける人達を覚える必要はありません」
「おいなんだ? 別にお前に俺達は用なんてないんだが」
「ユーマさんも勝手に家へ来られるような人に用はないと思います。断りのメールを返していたとも言ってますし」
いやぁ、ププさんが隣にいることは大変心強いのですが、あなたも俺の家勝手に探した人ですよね?
まぁテミスさんの指示だからやっただけで、ププさんの意思ではないんだろうけど。
そしてこのまま話し合いを続ければ、この目の前の人の言う『動画のネタ』になりそうな何かが起きそうな気もするが、俺はそういう動画を提供したいわけではないので、ププさんが話し合っている間にGMへと連絡を入れた。
「お前には関係ねぇだろ……いや、ユーマには女がいるって釣りタイトルの動画を出すなら関係あるか?」
「そんな事実はありませんし、そもそもそんな動画をあげたらあな……」
と、ププさんが話してる途中で俺以外の全員がいきなり消えた。
《お待たせしました》
「!? あの、俺の隣にいた女性は」
《なにやら揉めているようでしたので、一度ユーマ様以外の方全員を別空間へ移動させていただきました。ただいま時間を遡って何が起きていたのかこちらで確認しています。もう少々お待ち下さい》
「あ、そうなんですね、ありがとうございます。俺も途中までしか書けてなかったので、口で言いますね。まず……」
さっきGMへ報告するために書きかけていた文章のまま送って、緊急でGMを呼び出してしまったので、この場で何が起きたのかしっかりと俺の口から説明する。
そして説明し終えた後俺はその場で待機していると、ププさんが先ほどの場所に現れた。
「あ、ププさんおかえりなさい」
「あの人達は……居なくなったようですね」
「ププさんしか帰って来てないので、まだ調べられてるんですかね?」
《対応終わりましたのでご報告を。ププ様はユーマ様とお知り合いのようですが、今後迷惑行為と勘違いされるような行動は控えていただくよう注意いたしました。そして問題はお相手の5名の方なのですが……ユーマ様の家を特定したこともそうですが、アイテム強盗の計画を企てていた事が確認されました。5名とも冗談であったとの回答でしたが、こちらは非常に悪質だと判断し、未遂ではありますが、現実では24時間、ゲーム内時間で3日間のログイン停止処分となりましたことを報告させていただきます。ご存知かと思いますが、家への立ち入り許可を出された者は、プレイヤー・NPCに関わらず家にあるアイテムに触れることが可能です。もし盗まれた場合迷惑行為や補填の対象となりませんので、今一度ご確認の程よろしくお願いします。また何か問題がありましたらGMまでご連絡の方よろしくお願い致します。失礼します》
そう聞こえたため、今回のことはこれで終わったんだと分かったが、たぶん今回対応してくれたGMは人間だろうな。
なんか声に覇気がなかったし、人が増えて問題の対応件数も増えてるんだろう。
コネファンはAIに色んなことを任せてるって聞いてたけど、人間じゃないと対応できないこともあるだろうし、お疲れ様ですと言いたい。
ていうか相手の人は配信してないって言ったり、動画のネタを欲しがったりしてたけど、全部アイテムを盗むための行動だったのか。
もっと話しやすい雰囲気だったら、本当に一時的に家へ入れるくらいはしてたかもしれない。
勿論アイテムを盗まれないようにウル達に警戒は頼んでただろうけど、リビングで話をするくらいならそこまで警戒しなくてもいいかなってなった可能性はある。
今後こういう事がないとも言えないし、気をつけよ。
「あ、もしかしてGMとお話されていましたか?」
「あ、はい。でももう終わったみたいです。あの人達は3日間のログイン停止って言ってました」
「!? それ程他人の家を特定することが重いことだとは思いませんでした……」
「あ、なんか強盗未遂とかなんとか……たぶん俺から家の立ち入り許可貰って、家へ入った時にアイテムを盗もうとしたんだと思います。そういう計画を練っていた確認は取れてるみたいなんで、家の前で話してたんですかね? まぁ本人達は否定してるみたいですけど」
「あぁなるほど、クランハウスと違って普通の家は立ち入り禁止区域の設定が出来ないのを狙ったのでしょう。それにしても3日間だとイベントの日に重なりますから、あの人達は一番の動画のネタを逃してしまったようですね」
「確かに……逆恨みとかされないですかね?」
「同じ相手に2度も迷惑行為をすれば、処分は重くなるって流石に伝えられてる筈ですけど」
まぁ俺からどうすることも出来ないし、問題が起きたらまたGMに頼るか。
「では団長に帰ってくるよう言われているので、ここで失礼します。ユーマさんにはご迷惑をおかけしたこと謝罪させていただきます」
「あ、はい。……あと、テミスさんにGMから今回ププさんが注意を受けたことはしっかり話してくださいね」
「? 何でですか?」
「たぶんププさんを今以上に大切にしてくれるようになると思いますから」
「そ、それなら、そうします……(今日はユーマさんに元気をもらいましたから、ここでも言うことを聞くのが吉ですね。全然今の団長も私を大切にしてくれてますけど、今以上になるならそれはそ……)」
ププさんはブツブツ言いながら北の街のクリスタルに向かって歩いて行った。
「はぁ……俺からもテミスさんにチャットしとくか」
ええっと、『ププさんは優秀なので、出来るわけないだろということも出来てしまう可能性があることを覚えていてください。そして、俺の名前を出してププさんをやる気にさせるのはやめてください。あと、何となく優美なる秩序のクランハウス事情は把握したので、ププさんが傷つかない感じでテミスさんのフォローもしておきました』っと。
「今回でププさんとは仲良くなれたかもな」
ププさんはテミスさんのことを本当に慕っていて、そんなテミスさんが俺と話したり、俺のことを勧誘したりすると、いつも面白くなさそうな顔をしていた。
だからと言ってププさんが俺に冷たくするようなことはないのだが、どこか距離があったのも事実。
よく会うような関係でもないためそれでも良かったが、仲良くなるに越したことはないし、今回テミスさんに厄介事を押し付けられた感は否めないが、まぁ結果的には良かった。
「たぶん俺の名前を聞いたから、クランハウス決めなんていう重要なこと置いて、ププさんはこっちを優先したんだろうし」
テミスさんはなんやかんや人を使うのが上手いし、今回も丸く収まった。
クランハウスにこだわりのあるププさんを俺に預けて、その間にクランハウスを購入でき、ププさんの機嫌も送り出した時より良くなって帰ってくる。
今回俺は利用された側ではあるが、攻略組のトップに立つような人達は、やっぱり凄いなと再認識した。
「ん? 『ユーマが関わったら全て上手くいくの。私の計画通りよ』か。この人は俺の何をそんなに買ってくれてるんだ」
その後も、『今回のことで何か迷惑をかけたなら言って』とか、『イベント前の貴重な時間を奪った分の対価は支払うわ』とか、こういう気遣いも出来るところが優美なる秩序の人達に好かれる理由なんだろうな。
「まぁこの後ププさんが自分の指示でGMから注意受けたって知ったら、しばらくクランメンバーのこと大事にする時間が続くでしょ」
テミスさんは破天荒というか、そんなことするんですか? って言うことをしてる時が1番輝くから、イベントの日に少しでも俺の方が活躍できる可能性を高めるため、今のうちに大人しくなってもらおう。
俺はテミスさんにもっとププさんを大事にして欲しいという気持ちもあるし、ププさんがテミスさんに普段より優しくされて、優美なる秩序が少し調子を崩さないかな? という期待もある。
まぁこんなことしても、イベント中の王都での貢献度だったり、モンスター討伐数なんかはほぼ100%の確率で優美なる秩序が1位だろうが。
俺は人に迷惑をかけない程度に、全力で自分が今できることをさせてもらおう。
「よし、明るくなるまではイベントに向けて王都内の下見をしよう。その後は結構ウル達を退屈にさせちゃったし、どっかでレベル上げして終わりかな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
俺はウル達のきょとん顔で失われた時間を取り戻すように、もう何度目か分からない王都の下見を今回こそ行うため、クリスタルへと向かうのだった。