第190話
「そうだな。俺としてはこの情報は誰にも言わなくて良いと思うぞ」
「そっか、じゃあそうしよっかな」
「ユーマは受け入れられたかもしれないが、俺達がそんな話をしたところで、言うことを聞いてくれる気がしねぇ。それこそNPC扱いしたってことで好感度が下がる可能性の方が高いだろうな」
「やっぱそうかな」
「ま、そこまで仲良くなくても話を聞いてくれたなら、ユーマはこの世界の住人から好かれやすいんだろうな。他の奴にそんな博打はさせたくねぇし、そもそもユーマと同じくらいこの世界の住人の知り合いがいる奴って、ほぼ、いや、確実に居ないだろ」
各街に居るこの世界の戦闘職、プレイヤーと同じかそれ以上の強さを持つ者が、皆イベントの日に街から離れる予定だという話をガイルにした。
そしてこの事をクランの皆にも伝えて、知り合いにそういう人がいるなら、俺みたいに皆にも話をしてもらうべきか相談したのだが、返ってきた答えは誰にも話す必要はないというものだった。
「皆ってこの世界の人達と関わりが薄いの?」
「いや、ユーマが濃いだけだ。自分が最前線攻略組に居た時のことを思い出したらどうだ?」
「……確かに」
俺はテイマーという特殊な職業のため、他のプレイヤーとパーティーを組む機会が少ないし、クランを組むまではプレイヤーよりもこの世界の人達と話す方が多かった。
プレイヤーとパーティーを組んで色々な場所を旅するのが普通で、俺みたいにわざわざこの世界の人達と何気ないただの会話をするような人は、ほぼ居ないだろう。
「俺世間話とか相談とか結構この世界の人達にしてるけど、確かに普通はプレイヤーにするものだよな」
「ユーマはテイマーだからな。今まで最前線攻略組では普通にパーティーメンバーと話してたんだろ? 今はウル達と会話できるわけじゃねぇし、その分この世界の住人と会話して無意識に寂しさを埋めてたんじゃねえか?」
ガイルの言う通りかもな。
コネファンのNPCがあまりにも高性能だからできてることだけど、俺が人との会話に飢えていたことはその通りかもしれない。
「とにかく俺はこのままイベントの日を迎えれば良いと思うぞ。また誰かが情報を漏らすかも知らねぇしな」
「あれはわざとじゃなかったから仕方がないよ」
「まぁそうだが、今回はこの世界の住人からの好感度が下がる可能性があるだろ? これは気をけないと駄目だ」
ガイルが言うには、前漏らしてしまった情報は、雨の日に珍しいものが取れやすいという誰も損しないことだったから良かったらしい。
今回はこの世界の人達に嫌われてしまう可能性、好感度が下がってしまう可能性があるのが不味いとのことだ。
「クランの誰かがうっかりこの情報を誰かに漏らしたとして、そいつが勝手にこの世界の住人にイベントのこと色々話して、勝手に好感度下がって、勝手に情報元の俺達のせいにされたらヤバいからな」
「流石にそんなことは……って言えないのがなぁ」
「『幸福なる種族の人達に騙されました!』が起きるのが1番クランとしては避けたい」
こういうことは最前線攻略組でもあった。
こっちは良かれと思って情報を出すのだが、受け取り手がその情報を正しく扱ってくれるかどうかはこちらにコントロールできることではないため、絶対に自分達のせいじゃないだろというようなことも、一部のプレイヤー達から叩かれたりしたのを思い出す。
「高値で売れる特殊なキノコの採取方法を動画にしたら、採取に失敗した人達から『デバフ24時間付いたんですけど!』って怒られたの思い出すよ」
「失敗した時のことは動画で言ってなかったのか?」
「自分でわざわざ失敗してデバフ付くような動画は撮らなかったけど、ちゃんと音声と大きい文字で注意はしてたよ。でも、『こんなことになるとは思わなかった! メリットとデメリットが釣り合ってない!』って怒られたんだ」
まぁ動画化することにリーダーは否定的だったし、なんならリーダーはその後実際に起きた展開に近い事を言い当てていたから、あの時は自分のせいだと思えた。
金策が少ないゲームだったから、俺は少しでも他のプレイヤー達のためになればいいなと思ったんだけど、こうなるならやめとけば良かったって後悔したなぁ。
「ま、そういう状況にならないためにも、クランの奴らには黙っておくのが1番だな。それに何度も言うが、ユーマみたいにこの世界の知り合いが多い奴はほぼ居ねぇだろうし」
「ありがとう、そうするよ」
「じゃあ俺も作業に戻るか。ユーマはこの後どうするんだ?」
「明るくなったら王都でレベル上げ、それまでは王都内をウル達とイベントの下見兼観光でもしようかなって思ってたんだけど……」
「? なんか問題あるのか?」
「今ガイルと話してる最中にチャットが来てね」
イベント前だから基本的には皆自分のことで必死なはずなんだけど、まぁこういうこともあるかって感じだな。
「ちょっと今から頑張ってくるよ」
「あ? あぁ、何か分かんねぇけど頑張れよ」
俺はそう言ってガイルと別れると、北の街に移動する。
本当は家にクリスタルで移動したかったんだけど、今回は敢えて北の街のクリスタルから歩いて家まで戻る。
もしかしたら俺の家が見つかってない可能性もあるし……
「お久しぶりですユーマさん」
「……お久しぶりですププさん」
「団長から先程連絡が来たと思いますが、ユーマさんが他の場所から来たということは、私は場所を間違ってしまったのですね」
「……いや、あそこは俺の家です」
後もう少しで家へ着くというところで小柄な女性が立っていたのを見つけた時、コネファンの世界で会ったことはなかったが、すぐにププさんだということは分かった。
これ、テミスさんからはププさんが本当に俺の家を見つけたのか答え合わせをしてあげてって言われたけど、この後どうするんだ?
「あの、それで今ユーマさんの家の前に居る方は、おそらくお知り合いではないですよね?」
「あぁ、そうですね。知らない人達です」
「では通報する方がいいでしょう。ユーマさんがされますか?」
「えっと、俺がします」
「分かりました。では私はこれで」
そう言ってププさんはここを離れようとするが、俺には話したいことが色々ある。
「ちょっと待ってください! あの、何で優美なる秩序に俺の家がバレてるんですか?」
「団長がユーマさんの家を探すようにと言ったので、動画で見た家の外観を頼りに探し出しました」
「な、なるほど。じゃあ今俺の家の前にいる人達は?」
「それは知りません。ただ、誰かを追いかけてここを見つけたという話を大きな声でされていたので、同居人の方を追いかけてここを見つけたのかもしれませんね」
モニカさんがこの前ストーカーされたと言ってたのは、あの人達の誰かかもしれないな。
そしてそれを聞いた後だとスルーしてしまいそうだが、ププさんも言ってしまえばあの人達と同じようなことはしてる。
「あの……それで何で俺の家を?」
「団長に言われたので私は探したまでです」
「じゃあ何で俺の家を探すようにテミスさんは言ったと思います?」
「1番は、面白いから、でしょうか」
「……そうですよねぇ」
「団長はユーマさんに迷惑をかけることはないので心配しなくても大丈夫ですよ」
「ププさんからのその言葉は安心できますね」
「今ユーマさんの時間を奪っているので、そういう部分では迷惑かもしれませんが」
「ははは……」
優美なる秩序のサブリーダーであり、テミスさんの側近であるププさんにそう言われると何も言えない。
この人が1番テミスさんにいつも振り回されてるし、俺の時間が少し取られるくらいで迷惑などとは言えないのだ。
「ププさんもお疲れ様です」
「……いえ」
「引き止めちゃってごめんなさい。イベントの日はお互い頑張りましょう」
「……」
俺と違って攻略組は忙しいだろうし、ここでププさんを引き止めるのは申し訳ない。
俺の家を探すように言ったのはテミスさんだし、これ以上ププさんに色々聞いても迷惑なだけだろう。
「……あの、ユーマさん」
「はい?」
「……これは秘密にして欲しいのですが、丁度クランリーダー会議が始まる少し前に、何億Gというお金を手に入れることが出来まして、そのお金を使ってクランハウスを買おうという話になったのです」
「? それはおめでとうございます」
「それでその……どのクランハウスを買うか全員で決めることになったのですが、私は全てのクランハウスを内見してから決めるべきだと言いました」
「え、どれくらいあるのか知らないですけど、めちゃくちゃ多いですよね?」
「勿論小さいクランハウスは除きますが、ユーマさんの言う通り数は多いですね。1日では決められないでしょう」
話の先が見えてこないが、俺は家の前に居る人達を通報するために、GMへのチャットを入力しながらププさんの話を聞く。
「そしてその……ある程度大きなクランハウスをメンバーと一緒にいくつか見た後、私はユーマさんの家を探すように指示されました」
「そうなんですね」
「……そして先程団長からクランハウスを決めたとの報告がありまして」
「えっ?」
「私はユーマさんの家を見つけた後そこに残るよう言われたので、私の居ない間にクランハウスが決められたのは仕方がないのですが……」
「ええっと……」
なんか、その、もしかしてだけど、ププさんが邪魔だったから適当に俺の家を探させたとか?
で、本当にププさんが俺の家探し当てちゃったから、急いでクランハウスを決めて、その後に俺へチャットして、なんか良い感じに収めてくれるだろう、とか……ないよね?
テミスさんからのチャットには今家の前に居る知らない人達のことは書かれてなかったし、もしかして本当にププさんをどっか違う場所に行かせるためだけに……
「私……団長に嫌われているのでしょうか?」
「いやいやいや!! それは無いと思いますよ? ええっと、そうだなぁ……あっ! クランリーダー会議の時にテミスさんから一緒に王都を守ってくれって誘われたんですけど、俺も王都を守るつもりだって言ったら『これでププ達に良い報告が出来るわ』みたいなこと言ってましたから!!」
「……本当ですか?」
「本当ですよ!! あとは、まぁ、俺の勝手なイメージですけど、テミスさんの隣にはププさんが居ないと! って思いますし」
「……そうです、か」
「なので嫌われてるとかないですよ!! 何年一緒に遊んできたんですか!!!」
「……そうですよね! 団長が私を嫌ってるわけがありません!!」
な、なんとか元気を取り戻したみたいでよかった。
ここに来た時からププさんに少し元気がないように見えてたけど、そういうことだったんだな。
「もし私を嫌いになったのなら、直接嫌いだと団長は言ってくれるでしょうし、少し深く考えすぎていたようです」
「そうですそうです」
「だからクランハウスの内見も、決して私を邪魔に思ったわけではないですよね!!」
「えっ? あぁ、そうなの、かな?」
「そもそも私がいつもご飯を買いに行くお店から始まったイベントで運良く大金を手に入れる事が出来たのですし、感謝されるならまだしも嫌われるはずがありません!!」
「あぁ、えっと」
「だから最初団長は私の選んだクランハウスにしようって言ってくれましたし、今思うと私は団長に嫌われるどころか、感謝されてました!!!」
「うん、ええっと……」
俺のこの妄想が間違いじゃなければ、ププさんがイベントを進める→ププさんが大金ゲット→クランハウスの決定権をププさんにして、その大金をクランハウスのために使わせてもらうことにする→ププさんが居たらいつまで経ってもクランハウス買えない→よし、俺の家探させてその間に決めちゃおう……じゃないか?
「あっ!! 団長から『クランハウスを勝手に決めたのはごめんなさい、許して欲しいわ』って今チャット来ました!! ユーマさん、私色々深く考え過ぎてたようです」
「あ、そ、そうですね」
「団長はユーマさんのことお気に入り過ぎて困りますけど、今回は私もユーマさんに助けられました。団長の言う『ユーマは愛されてるのよ』っていうのは未だに分かりませんけど、ユーマさんと関わると全てが上手くいく、というようなことなのでしょうかね?」
「あはは、は……えっ!?(テミスさん!?)」
「でも団長も悪いと思いませんか? 最初は私が……」
こうして俺は元気になったププさんの話を聞きながら、俺の方にも来た『何も言ってなかったけれど、たぶん上手くいったわよね、ユーマありがとう。そしてププが本当にユーマの家を見つけたことはごめんなさい。私の想定外だったわ』と、テミスさんからチャットが来たことに頭を抱えるのだった。