第187話
「じゃあイベント当日の2時間前からクランリーダー会議だから、それが終わり次第こっちのクラン会議も始めるってことで」
「あぁ」
「分かりました!」
ガイル達とイベントについてはかなり話し合えたし、あとはそれぞれイベントまでの時間に準備をすることとなった。
「て言っても俺が今からできることって、なんだ?」
1つ思いつくのは、レベルアップだ。
俺達はレベルが上がった後、格上のボスを1体倒してまだレベルが上がっていない状態なので、今から王都近くのモンスターを倒しまくるか、ボスを1体か2体倒せば簡単に上がるだろう。
そしてもう1つ出来そうなのは、イベントの日に王都を守るクランの勧誘。
テミスさんもまだまだ王都に人が足りなさそうにしてたし、王都に呼べるクランが居るなら呼んだ方が良い。
「でも俺は関わりがないんだよなぁ」
俺がコネファンでも関わりあるのは、最前線攻略組と、優美なる秩序、そしてペルタさんだけしか知らないけど怪物の足跡っていうクランくらいだ。
「あとは王都の下見を今からするのは、あり、か?」
基本的に王都は俺の感覚だとプレイヤーが街を守らなくても良いくらい戦力は揃っている。
ワイバーン部隊に、色んなところで見かける騎士達、そして冒険者に、魔獣ギルドで見た魔獣達が居れば、余程のことがない限りプレイヤーが居なくても王都は守れるだろう。
「でもイベントが起こるってことは、プレイヤーの力が必要になるってことだろうし」
王都の構造を頭に入れておいて、地下水路からモンスターが街に侵入しそうとか、どこかの城壁が脆くなっててそこからモンスターがなだれ込んできそうとか、大まかな予想だったり、モンスターがどうやって攻めてくるのかの典型的なパターンはイメージ出来るようにしておきたい。
「よし、今から王都でレベル上げと、余った時間で観光でもするか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
こうして俺はウル達の了承も得て、王都へ行くことにした。
「ユーマ!!」
「あ、バズマさん」
「バズマさんなんて言うような関係じゃないだろ俺達! バズマって呼んでくれよ!」
「わ、分かった」
いや、俺はバズマさんのことずっとバズマさんって呼んでたけどなぁ。まぁ本人が言ってるし距離感はこっちで調整するか。
「で、バズマはどうしたの?」
「そうだ、ワイバーン部隊の団長様がユーマのこと探してたぞ!」
「え、そうなの?」
バズマから詳しく話を聞くと、どうやら2日前くらいに助けたワイバーンと騎士のことで俺に話があるらしく、冒険者ギルドや商人ギルドで俺を見つけたら連れてくるように言われてるのだとか。
なんでバズマがこんなこと知ってるのかわからないが、この情報はありがたかった。
「わざわざ伝言ありがとう」
「おう! あと、商人ギルドにも寄ってくれって言われたぞ」
「あ、そうなんだ」
たぶん商人ギルドの方はジェスさんからの宝石のお金だろう。
「運良くバズマに会えて良かったよ」
「じゃあ俺は伝えたからな! またなユーマ!」
そう言うとバズマは本当にこれだけ伝えて去っていった。
俺達はイベントまでにレベルを必ず上げないといけないって程でもないため、取り敢えず商人ギルドとワイバーン部隊の団長様には今から会いに行こうと思う。
そして俺の経験上、大体こういうのはワイバーン部隊の方が長い時間がかかる可能性が高いので、先に商人ギルドの方へ行く。
「すみません。商人ギルドの方へ行くようにバズマさんから伝えられて来ました、ユーマです。たぶんジェスさんからのお金だと思うんですけど」
「少々お待ち下さい」
職員さんは何かを確認するためか、一度受付から裏へと下がっていった。
そして数分後もう1人職員さんが増えた状態で戻ってきたかと思えば、俺は個室へと案内されて話をすることになる。
まぁ1億3000万Gという大金なら流石に個室で渡されるよな、なんて心の中で思っているが、これでお金の話じゃなかったらちょっと恥ずかしい。
「お待たせしました」
「いえいえ」
「今回ジェス様からユーマ様へ宝石の代金である1億3000万Gが渡される筈だったのですが……」
「え、何かあったんですか?」
予想通りお金の話ではあったが、何かトラブルがあったっぽいな。
「残念ながらお金の輸送中に盗賊に奪われまして」
「えぇ!?」
まさかの展開過ぎて頭の中が真っ白になったが、取り敢えず話の詳細を聞こうともう一度話しかけようとすると、鋭い目つきで隣に座っている女性職員さんが話し出す。
「ユーマ様嘘です。このクソ上司はいつもしょうもない話をして楽しむ馬鹿ですから」
「えっ?」
「そもそもお金の輸送なんてありません。元々商人ギルドにあるお金をユーマ様へお渡しするだけですし」
「君、いつもより酷くないかい?」
「初めてお会いするプレイヤー様へ付く嘘ではありません」
「じゃあ関係性があれば会話を楽しんでも良いということだね?」
「私の居ないところでやってください……いえ、お相手に迷惑をかける可能性もあるので、私が居る時だけにしてください」
いきなり目の前で長年の夫婦のようなやりとりをされたのだが、取り敢えずお金は渡してくれるし、盗賊の話は嘘らしい。
嘘の話をしてきたのはクソ上司と言われていた明るい男性職員さんで、鋭利なツッコミをしてたのは受付から俺の対応をしてくれている女性職員さんだ。
そしてこの後は女性職員さんが話を進めてくれたのだが、後から出てきた上司である男性職員さんは、俺と女性職員さんの会話に時々入ってきては嘘を言い、女性職員さんに怒られるというのを繰り返していた。
こんなことなら男性職員さん居なくて良かったんじゃないかな? なんて思ってしまったが、1番そう思ってそうな人が目の前にいるので俺は何も言えなかった。
「はい、1億3000万G、確かに受け取りました」
「ユーマ様、ワイバーン部隊の団長様からお話があることは」
「あ、それもバズマさんから教えてもらいました」
「それではお時間がありましたらこの後お城の方へ足を運んでいただけると助かります」
「元からそのつもりだったので大丈夫です」
「そう言えば先程その団長様からユーマ様へ「もういい加減邪魔するなクソ上司」……はい」
女性職員さん、男性職員さんへ向けて暴言を吐く時だけマジの目つきなんだよなぁ。
そして暴言を吐かれてる当の本人は嬉しそうだし、もしかして意外と相性良いのか「ユーマ様何か変なことをお考えではありませんか?」……ヤバい。
「い、いえ! もう行きますね!」
「そうですか」
「じゃ、じゃあ失礼します!」
危なかった。危うく俺もあの目で睨まれながら暴言を吐かれるところだった。
最後の方は俺もあの2人のやり取りに慣れたのか、そろそろ男性職員さんが茶々入れてきそうだなって予想するのが楽しくなってたし。
「ウル達は……怖くなかったんだな」
「クゥ?」「アウ?」「……?」「コン?」
ウル達が怖がってないなら、たぶんあの女性職員さんは優しい人なんだろう。
男性職員さんもちょっと変なだけで、たまに女性職員さんのミスをフォローをしてたから、悪い人ではないだろうし。
「まぁ商人ギルドのことはいいや、今は城に行かないとな」
俺は意識を切り替えてお城へと早速向かう。
いつかあのお城を近くで見てみたいとは思っていたが、まさかこんなにも早くそのチャンスがやってくるとは思わなかった。
お城に興味のあったメイちゃんとかも連れていけるなら連れて行きたかったけど、流石に今回は呼ばれただけなので1人で見よう。
というかまだお城の中に入れると決まったわけではないし。
「すみません、ワイバーン部隊の団長様に呼ばれていると聞いて来ました、ユーマです」
「少々お待ちください、案内する者を呼んできます」
俺はお城の前に居た騎士に話しかけたのだが、もしかしたらワイバーン部隊の騎士が居る場所に直接行けたのかもしれない。
余計な仕事を増やしてしまったなら申し訳なかったな。
「お待たせしました。ユーマ様ですね、私についてきてください」
「分かりました」
俺達は言われた通り騎士について行くが、この騎士にマントは無かった。
今まで俺は薄い桃色、薄い赤色のマントをした騎士を見てきたが、そう言えばマントをしていない騎士も居たような気はする。
「あの、騎士の方がしているマントって、色によって何か意味があるんですか? 魔獣ギルドの職員さんに薄い桃色は姫様の騎士だっていうのだけは聞いたんですけど」
「赤色のマントをした騎士は王様、青色は王妃様、桃色は姫様の所属となります。基本的に私のようにマントの無い者が殆どで、色付きマントの騎士はとても優秀な方達です」
「そうなんですね」
「私達騎士にとって色付きマントは憧れです。いつか私もワイバーン部隊の王様所属騎士になりたいと思ってます」
ということは、ここでは色付きマントは近衛騎士的な感じなのだろう。
そしてワイバーン部隊というのは文字通りワイバーンに乗る騎士のことで、話を聞いてると色付きマントとワイバーン部隊は憧れの対象っぽい。
そしてワイバーン部隊でありながら、更に近衛騎士ポジションの色付きマントをしてる騎士は、相当優秀で偉い人だということが分かった。
「俺、今からそんな凄い人達のトップに会いに行くのか」
「団長は優しいので緊張する必要はないですよ」
確かに言われてみればそうだ。俺が緊張する必要は確かにない。
俺が何かやらかしたとかじゃないし、なんなら事故の被害を最小限に抑えたと言っても過言ではないだろう。
「ここです」
「広いですね」
「ワイバーン部隊の訓練などもしますから」
俺が来たのはお城の裏側で、とにかく広いスペースがあった。
今も何十人もの騎士達が訓練をしているのだが、ワイバーンは居ないため場所は余っている。
そしてこの広いスペースの横に建物があり、おそらくあれが騎士達の建物なのだろう。
「失礼します! ユーマ様をお連れしました!」
「ありがとう、中に通して」
「はっ!」
中から優しそうな男性の声が聞こえ、俺はその人の顔を見る。
「ユーマ様、本日はお越しいただきありがとうございます」
「いえいえ、というかこの前の方ですよね」
「覚えていただいてましたか」
「流石に2日前なので」
目の前に居たのは事故が起きた時真っ先に俺へと話しかけてきた、他の騎士よりも豪華な鎧をしている赤いマントの騎士だった。