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第186話

「テミスさん」

「ユーマ!」


 俺は会議が終わってすぐにテミスさんのいる場所へと向かった。


「優美なる秩序はイベントで守る街が王都に決まったんですね」

「それ自体は良かったのだけど、ちょっとこのままだと不安なのよね」

「テミスさんから一緒に王都を守ろうって声をかけているクランは居るんですか?」

「昔からの知り合いのクランがいくつかと、コネファンで仲良くなったクランが1つだけね。ちなみに私はユーマにも王都に来て欲しいわ。勿論報酬だって払う」


 いつも余裕のあるテミスさんにしては珍しく、表情と声色から少し焦っているのが分かる。

 もう少しこの会議中に他のクランが王都に興味を示すと思っていたのだろうが、鋼鉄の砦のフォートさんの話によって計算が狂ったのかもしれない。


「いや、報酬とかはいいです。そもそもうちのクランで王都に行ける人数がそこまで居ないですし。何より報酬を貰っちゃったら優美なる秩序の言うことを聞かないといけないでしょうから」

「……いいわ、私の言う事を聞かなくても。それでも良いから王都には来て欲しいの」

「いや、それは流石に申し訳な「それと」」


 テミスさんは俺の言葉を遮って一歩近付くと、俺の肩に手を置いて言葉を続けた。


「これはユーマ個人へのお誘いよ。クランは別で動いても良いわ。幸福なる種族、だったわよね?」


 確かにテミスさんは一度も俺のクランに来て欲しいとは言ってなかったな。

 昔からずっと俺のことを買ってくれてるのは嬉しいけど、もう最前線攻略組でなくなった俺にそこまでの価値があると自分では思わない。


「……分かりました。元々俺は王都をメインで守ろうと思ってましたし」

「……はぁぁぁ、それなら良かったわ。これで少し私もププ達に良い報告ができそうね」

「なのでイベントの日はお互いに頑張りましょう」

「そうね。あと、もしイベント中にクリスタルで他の街に移動する時は教えて欲しいわ」

「どこかのタイミングでクリスタルが使えなくなる可能性もありますしね。もし他の国へ移動するってなった時は伝えます」

「お願いね。じゃあまたイベント前のリーダー会議で会いましょ」

「はい」


 短い時間だったがテミスさんとイベントのことについて話せたのは良かった。


「ユーマさん久しぶり〜」

「幸福なる種族応援してるよ!」

「ユーマが攻略組になっても負けねぇぞ!」

「あはは、皆も元気そうで良かったよ」


 最前線攻略組の生産職や検証班の人達が俺に声をかけてくれた。

 皆はいつも通り自分達の期待されている役割以上の働きをしてるんだろうなぁ。

 あと、コネファンを遊びながら俺のクランのこともチェックしてる人が居るのは凄すぎる。最前線攻略組の裏方って滅茶苦茶忙しいはずなのに。


「ユーマさん!」

「お、ゆうた」

「ユーマさんはイベントの日どこを守るんですか?」

「一応俺のクランは王国領を担当するつもりだ。でもうちは第2陣のメンバーが多いし、もしかしたら西の街を守る可能性も少しだけありそう」

「確かにユーマさんのところは攻略クランではなかったですもんね。イベント中一緒に出来ないのは残念ですけど、お互いに頑張りましょう!」

「そうだな。ゆうたもこのイベントでそろそろソロでの活躍をしてもいいんじゃないか? 俺はゆうた個人が活躍するのを結構期待してるし」

「僕はユーマさんみたいに勝手には動けませんよ。それに僕よりも皆さんの方がお強いですし、何よりリーダーの決定に背くことは僕には出来ないです」


 ゆうたが言ってるのは、俺が過去にリーダーの言う事を聞かず、今回と同じようなイベント中、モンスターを倒す化け物だと言われながら暴れ回った時のことだろう。

 あの時はどっちがモンスターだよと周りから言われ、動画のコメントでも同じような事が書かれていたし、自分でもだいぶ好き勝手したなと思った。

 

 確かあの時はパーティーでの話し合いが少し揉めていて、それが当時の俺には時間の無駄に感じてしまった。

 あの時の俺も今のゆうたみたいに自由が許されるような立場ではなかったが、『もう自分1人で破壊すればこの無意味な話し合いも聞かなくて良いな』と、皆にはトイレに行ってくると嘘を付き、話し合いを抜け出した俺は大量のモンスター達の前へと自分の居場所を変えた。


 結果的にはイベント報酬を俺が1番貰えて、他の攻略組とも貢献度で大差をつけ、最前線攻略組としては大成功に終わったのだが、あれは俺がパーティーに入って日が浅かったからこそ、リーダーをまだほんの少し信じ切れていなかったからこそできたことだ。

 長く一緒にいればリーダーの凄さを理解して、リーダーの言う通りに動いてしまう。

 だからこそゆうたが自由に動くのはこのタイミングしか無いと思って俺はこの発言をしたんだが……


「でもなんでゆうたがそのことを知ってるんだ? 動画でもあれは俺の単独行動ってこと隠してたはずだけど」

「モモさんに教えてもらいました」

「へぇ、こういうの話したがるのってオカちゃんとかポドルだと思ったけど、意外だな」

「ポドルさんはユーマさんの話をあまりしないですね」

「あ、そうなのか。なんでだろ?」

「僕にユーマさんの話をしたら、無意識に僕とユーマさんを比べてしまうだろうからって、控えてくれてるそうです。僕はユーマさんより経験は浅いですし、まだまだ後釜として実力が足りていないのは自覚してますけど、いつもポドルさんは僕が一緒に居やすいように考えてくれて、色んなことを優しく教えてくれるので今も楽しく遊べてます」

「そっか」


 ポドルは俺の代わりに入ったゆうたにまで優しい先輩で居るんだと思うと、俺は本当に良い友達を持ったなと思う。

 たぶんだけどゆうたが楽しく遊べるようにポドルが気に掛けてるのは、俺が最前線攻略組を抜けた理由にあるんだと思う。

 攻略を段々楽しめなくなっていった俺をポドルは近くで見てきただろうし、ゆうたもそうならないようにと気を付けてるのだろう。


 俺も何回かフレンドが自分達のパーティーから抜けていくという経験をしてるし、仲良くなったメンバーとは出来るだけ長い時間一緒に遊びたい気持ちは分かる。

 ポドルはゆうたにできるだけ長くパーティーに残ってほしいから、積極的にゆうたの世話を焼いてるんだろうな。


「あ、僕達もこの後会議なので、行ってきます」

「そっか、またな」

「はい! あと、今聞いた話を会議でしても良いですか?」

「俺のクランが王国領に行くって話なら全然良いよ」

「ありがとうございます!」


 ゆうたは俺に勢いよく頭を下げた後、さっきまで俺達の使っていた部屋に走って入っていった。


「で、この辺に残ってるクランリーダーの人と、俺も少し会話をしたい気持ちはあるんだけど……」


 頭の片隅にウル達の顔がちらついて、俺の身体はいつの間にか最前線攻略組のクランハウスの扉を開けると、クリスタルの方へと歩き始めていた。




「帰ったぞ」

「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」「キノ!」


 クリスタルで移動すると、帰ってきた俺に気付いたウル達が駆け寄ってくる。


「皆畑の方に居たんだな」

「ゴゴ」「ググ」


 もしかしたらゴーさんは、俺がクランリーダー会議に行ってる間畑の手伝いをウル達にしてもらうように言って、ウル達を説得してくれたのかもしれない。


「あれ、でもほんとに皆畑仕事したんだね」

「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」「キノ!」


 てっきりウル達を俺から引き離すためにゴーさんが適当言ったんだと思ったけど、この感じだとウル達の手伝いは必要だったっぽいな。


「よし、皆とパーティーは組み直したよ。たぶん明日もイベント前に同じくらいの時間皆と離れることになるけど、我慢して欲しい」

「……クゥ」「……アウ」「……」「……コン」


 皆良い返事ではなかったが、明日も少しの間離れることは許してくれた。


「じゃあキノさんもゴーさんもグーさんもありがとう」

「キノ」「ゴゴ」「ググ」

「行ってきます」


 そして俺はまたクリスタルからはじめの街に戻り、今のクラン状況に驚いているガイルとメイちゃん、女性配信者組の待つクランハウスへと急ぐ。


「お待たせ」

「ユーマ、今どうなってる?」

「全然クランハウスに人が居ないです」


 ガイルとメイちゃんは俺の期待していた通りの焦り方というか、あまりにもクランハウスに人が居なくて驚いている。


「もぐるはご飯食べたかった」

「あたいも腹ぺこが作ってくれると思ってたんだが、どっかで買って食べるしかなさそうだな」

「ユーマさんご飯はありますか! うちは腹ぺこさんから貰ったものが少し余ってるので、無かったらどうぞ!」

「アリス様、もぐる様とアヤ様が隣でご飯を求めていますけど……」

「お、俺は大丈夫なんで、もしアリスさんが良かったらその2人に渡してあげて下さい」

「はい! もぐちゃん、アヤちゃん、あげるね」

「アリりん今日は一段とユーマさんしか見えてないっす」

「アリスのこれは今に始まったことじゃないし、仕方ないか」


 これでこの場には幸福なる種族の初期メンバーが揃ったわけだが、アリスさんの言動がいつも以上に凄くて俺は戸惑いを隠せない。


「えっと、取り敢えず皆には、俺達の今のクランとしての方針と、さっき行ってきたクランリーダー会議の内容を伝えるね」

「俺達の居ない間に何か話し合ったんだな」

「工房にも人が居なくて、一瞬皆抜けちゃったのかと思いました」


 俺はここに居る皆に、幸福なる種族が西の街を守る予定だったこと、色々あって今は王国領に第2陣の皆が行くために頑張ってレベル上げをしてること、さっきのクランリーダー会議で決まったことなどの全てを伝える。


「なるほどな。俺は皆でアウロサリバを守れるならそれが一番良いと思うぞ。勿論ユーマは王都を守ってくれて良い」

「私は分からないので全部任せます!」

「うちは全部ユーマさんに合わ「アリスは黙って」」


 ガイルとメイちゃんは今のクランの方針に賛成で、アリスさんはみるくさんからいつも通りツッコミが入っている。

 ここに居るメンバーは全員アウロサリバにはもう行けるし、クランとしてどこをメインに守るかは、第2陣の皆が王国領に来れるかどうかにかかってるな。

 

「もぐる達も王都行く?」

「わたくしは皆様に合わせます」

「あたいは今から目指すってなると、ちょっと微妙だな」


 アヤさんはこの後イベントまでの時間を、皆の装備を作る時間に使いたいらしく、王都まで行くのには同行できないらしい。


「それなら私達も行くのはやめよ」

「僕達はアウロサリバを守るっす」


 ということでアリスさん達はアウロサリバを守ることとなった。

 ただ、イベント中はアリスさん達が配信をしていて、クランの皆とずっと一緒に行動出来るとは限らないため、第2陣の皆が王国領に来たとしても、モリさんや腹ぺこさんにまとめ役はこのままお願いすることとする。


「俺とメイはどうする?」

「どこを守りたいとかないなら、ガイルとメイちゃんにもアウロサリバを守ってもらおうかな」

「分かりました!」


 王都に人が足りないと言っても、流石にガイルとメイちゃんが王都のモンスター達を倒せるとは思わないし、メイちゃんは初めてのイベントなので、適正レベルの場所で楽しんでもらいたい。

 それに王都には優美なる秩序が居るし、なんやかんやどうにかなる気はしている。


「となると、王都に行くのはこのクランでユーマ1人だけか」

「うちが今から行きましょうか!? それかユーマさんもアウロサリバをうちらと一緒にうぐぅぅぁぅ」

「アリスは話をややこしくするから黙ってて」

「みるるん、もし現実でその鼻と口の塞ぎ方したら、アリりんが窒息するっす」

「ご飯美味しい」

「もぐる様、わたくしデザートは少しありますので、よろしければどうぞ」


 俺は配信者の人が集まると、会話が楽しくなる代わりに話が進まないなぁと思いながら、自由過ぎる皆の意見を聞きつつ、イベントのことについてもう少し話すのだった。




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