第184話
「やっぱ王都近くのモンスターは流石に強かったな」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」「ググ」
俺達は骨粉や鉱石を集めた後、一度南の街から王都に移動し、王都近くで出る夜のモンスターはどれくらいの強さか調べるために行ってみた。
そしていざ戦ってみると、暗闇の中3体同時にモンスターから襲われるだけでも対応するのがギリギリで、王都の夜探索はまだ早かったと探索を中止して一度街まで戻ることに。
流石にこの状態でサポーターを1人追加しても探索を続けるのは無理と判断した俺は、一度夢の羊毛を取りに夜探索をしたことがある、冒険者の街と呼ばれる帝国領ネルメリアの街へと行き、そこでサポーターなどは雇わず慎重に探索していた。
「ここは今の俺達が夜探索するには合ってるけど、人がなぁ……」
流石冒険者の街とも言われるネルメリアの街には、前よりも夜中に活動している冒険者やサポーターが増えていた。
以前冒険者ギルドの人が、プレイヤーに合わせて夜中活動できるサポーターを増やすと言っていたため、この事自体は何も不思議ではないのだが、それにしてもサポーターを雇って外で探索するプレイヤーがあまりにも多過ぎる。
流石にこの人数はイベントが近いからここでレベル上げをする人が多いというだけの、一過性のものだろう。いつもこの人数のプレイヤーがここで探索してるなら、この辺りは既に探索され尽くしているはずだ。
こんなにもネルメリアの街にプレイヤーが多いのは、夜探索もダンジョンも充実してる南の街でレベルを上げ、その流れのまま帝国領まで進むプレイヤーが多いからだと思う。
ただ、それにしてもあちこちで松明の光が見えるくらいプレイヤー達が多いのは意外だった。
そして俺達はそんな状況のネルメリアの街周辺をサポーターも雇わず探索しているのだが、ちょっと人が多過ぎて夜の探索の雰囲気があまり感じられない。
「人が多過ぎるし、ここでの探索もこれくらいにしよっか」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」「ググ」
俺としては探索中に熱想石とか見つけたら良いなと思っていたのだが、そんな上手くいくことはなかったので大人しく街へと帰る。
「王都以外の場所だったら、俺達だけでも夜は全然戦えそうだし、前から行きたいと思ってた帝都と、連合国領の中心のどっちかを今から目指してみようかな」
王都近くのモンスターと夜戦うのは厳しかったが、意外とこのネルメリアの街では苦戦しなかったので、帝都を目指すか連合国領を進むか、どっちかを今からやろうと思う。
今から目指せば最低でも日が昇って日没するまでには着くと思うし……たぶん。
「てことでありがとな。また今日集めた原石はグーさんに加工任せるよ」
「ググ」
しっかりとこの前マルスさんに言われたことをグーさんにも伝えたので、加工する宝石は選んでやってくれるだろう。
俺はグーさんをこの後も連れ回すのは家の作業に支障が出ると思ったので、一度家へ預けに帰ってきた。
「これでグーさんも一旦家に送ったし、行くか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「ゴーさんもグーさんも、夜働くならほどほどにな」
「ゴゴ」「ググ」
ネルメリアから家に移動し、グーさんをゴーさんに預けた俺達は、また家のクリスタルの前に行く。
「って、結局どっちが良いんだ?」
俺は早速今から行こうとクリスタルの前に来たは良いものの、まず帝都に向かうのか、それとも連合国領の中心を目指すのかを決めておらず迷う。
「そもそも連合国の情報は全然俺が持ってないんだよな」
これまで王国と帝国の情報は結構集まっていたが、連合国のことは本当に知らない。
一応俺が一番最初に連合国領へ足を踏み入れたプレイヤーではあるけど、名前も分からない街と、ハティの家がある街の2つの街にしか行ってないので、本当にそこから先は未知だ。
「ウル達は帝都を目指したい? それとも連合国領を進む方が良い?」
帝都を目指すならまたネルメリアの街に戻ることになるし、連合国領を進むならハティの家のある街に行こう。
「……どっちでも良いって感じだな」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
まぁウル達がどっちでも良いと言うなら俺が決めるしかない。
「じゃあ俺達が向かうのは……」
暗い森の中を俺達は慎重に進む。この辺りに出てくるモンスター達より俺達の方がレベルは高いが、絶対に負けることはないと言えるほどの差はない。
道の横には小川が流れており、水の音が心地良いが、だからって気を抜いて良いような状況ではないため警戒は解かない。
「この道あってんのかな?」
事前情報0で進むことにした連合国領。勘で選んでいる道だが多分合ってると思う。
道が多い訳では無いし、結局西方面に続く道を進めば戻ることはないから、どこか新しい街に着いた時、そこで話を聞けば良いだろう。
俺が連合国領を進むことにしたのは、久しぶりに自分達で全く知らない場所を進んでいく体験をしたいと思ったのが1つと、そもそもプレイヤー達に連合国は人気がイマイチっぽいので、そういう場所こそ俺達が探索するべきだと思ったからだ。
先に何があるかも分からない、何も決まっていない探索は思わぬ収穫があることが多いのもあって、俺は連合国領を進むことにした。
「皆ももし気になる事があったり、どっか行きたい場所が見つかったら言ってくれよ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
俺はそう声をかけ、暗い道を進む。
グーさんが居なくなった今、俺以外の照明係が居なくなったため、今は皆俺の近くを歩いている。
朝の農業などをする時にグーさんが居ないのは不味いと思って家に返したが、サポーター役が1人居なくなるだけでやっぱり滅茶苦茶窮屈になるし、そのままグーさんを連れて来れば良かったと少しだけ後悔する。
「いや、ないものねだりはなしだ。俺も装備更新して強くなってるし、大丈夫」
もう少し装備更新の恩恵を分かりやすく感じれるようなことをしたかったのだが、タイミング的に夜中のモンスターを倒すことになってしまったので、俺は自分に向かって飛んでくるスケルトンの矢を剣で落としたり、たまに死角から襲いかかって来るモンスターをただ斬るだけしか今のところ装備の性能は試せていない。
もっとボス級のモンスターだったり、体力の多い敵だと装備の強さが分かりやすいが、夜中出てくるモンスターは体力が低い傾向にあるので、たぶん前の武器でも一撃だったなと敵を倒しても思ってしまう。
「あ、街! ……だけど、それほど大きいってわけじゃないな」
やっと見つけた久しぶりの新しい街は、全く王都級の大きさではないため、まだまだ進む必要があるだろう。
一度この街で夜が明けるまで留まり、日が昇って街の人に連合国のことを聞いてから出発するでも良かったが、そうなるとクランメンバーのほとんどがレベル上げを頑張っている今、俺達がクランハウスに戻ったところで誰とも話ができないし、もうここはさらに先へと進むことにする。
「でも、確かにちょっと連合国領が不人気な理由が分かったな」
少し連合国領を進んでみて思ったが、街が他の国と比べて全体的に小さいのが不人気ポイント1つ目。
夜だからあまり分からないが、おそらく景色があまり変わらない道が多そうなのが不人気ポイント2つ目だ。
「で、こんなこと言ったら元も子もないが、全然連合国領にプレイヤーが居ないのも、プレイヤー達にはマイナスポイントなんだろうな」
俺はそんなことを思いながら、取り敢えず進めるところまでは進もうと思い、ウル達と協力してこの暗い道を進むのだった。
「朝か」
明るくなると急に移動がしやすくなる。
先程まで襲いかかってきていた夜に出るモンスター達も今は出てこないため、過度な警戒はもう必要ない。
「丁度街が見えてきたな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
この街で連合国のことを聞いてみて、連合国の中心となる街があるなら、その街までどれくらい距離があるのか聞いてみよう。
もしあまりにも遠かったら一旦ここで終わりにして、今日中に行けそうな場所ならこの後も進もうかな?
「おはようございます」
「お、プレイヤー様か」
「俺以外にこの街にプレイヤーって来ました?」
「今日なら君が1人目だが」
「今日に限らなければどうですか?」
「それなら私だけでも100人以上は見ているよ」
ということは、この街に来たプレイヤーはそこそこ居るんだな。
あとはそのプレイヤー達が連合国領で活動しているかどうかが俺としては気になる。
「そうですか。変な質問してすみませんでした」
「いやいや、問題ない。ゆっくりしていってくれ」
街の中に通された俺は、早速情報を手に入れるため、冒険者ギルドへと向かう。
「すみません」
「おはようございます、どうされました?」
「少し連合国領について聞きたくて」
まだ冒険者ギルド内に冒険者が少ないうちに、受付の人に話を聞く。
「どのようなことをお知りになりたいのですか?」
「まずは連合国って中心になる……」
俺は連合国領に王都や帝都のような街があるのかどうか、プレイヤーにおすすめの街、連合国が他国より優れていることなどを質問した。
「連合国において王都や帝都と同じ役割を担っている街は、ゼイスという街になります」
「ゼイスですか」
「ただ、ゼイスはここからだと大変遠いため、目指すのであればイオという街がオススメです。ここからだと数時間で着きますし」
「イオですね。分かりました」
「最後に連合国の強みと言いますか、帝国、連合国、王国の3つの国全ての特徴をお答えすると、帝国は冒険者、連合国は商人、王国は魔獣が他の国と比べて栄えていると思います」
確かに王都の魔獣ギルドは凄かったし、ワイバーン部隊もあったのを考えると、魔獣の技術というか、歴史があるんだろう。
そして帝国も冒険者ギルドにはいっぱい冒険者が居たし、そんな感じで連合国は商人ギルドが栄えていると思って良いのかもしれない。
「ありがとうございました」
「いえいえ、お気をつけて」
冒険者ギルドで情報を手に入れた俺は、この街で朝ご飯を食べたらそのまますぐイオという街へ行くことにする。
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「分かった。皆の行きたい店には行くから」
俺はウル達が食べたいという物を色んなお店で買い、すぐイオの街に向けて出発するのだった。