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第177話

「俺達にはレベル的にも実力的にも王都は早かったかもな」

「私もそう思います」

「2人とも本当に強くなったけどね」


 ガイルとメイちゃんの戦闘を見守った後、俺達はまた馬車に乗って王都を目指していた。


 そして敵と戦うことになった最初の数回はガイルとメイちゃんにも戦ってもらっていたのだが、途中からはガイル達の実力では倒せないと判断し、こちらで全て倒して進むようにしていた。


「まぁモンスターと戦うならアウロサリバの方で戦って、もう少しレベルを上げてから王都で活動すれば良いだけだよ」


 別にガイルやメイちゃんは俺みたいに王都近くでモンスターを倒したりして活動するわけではない。

 王都では鍛冶や錬金に使える素材探し、王都に売られている装備、錬金アイテムを見ることが今は目的なわけで、王都の外にいるモンスターを倒せるかどうかはあまり関係ないのだ。


「まぁそうだけどよ」

「自分の力で来れない場所に居るのは少し違和感があります」


 確かにメイちゃんの意見は普通の感覚だろう。クランでも組んでない限り、普通は生産職でも自分の力で外のモンスターを倒せる場所までしか行かない。

 誰かに連れられて実力以上の場所に行く方がおかしいのだ。

 俺はそのおかしいことを普通にやる側のクランに居たので、全く生産職のクランメンバーを連れて行くのに違和感はないが。


「しゃーねぇか、俺達は生産職だからな。王都で手に入る素材使って、クランメンバーのために色々作れるって考えるしかないな」

「まぁ素材を渡すだけならガイル達がわざわざ王都に来なくても俺が渡せばいいだけなんだけどね。やっぱりその街で売られてる商品を自分の目で見たり、実際にその場へ行かないと分からないことってあるから」

「それは確かにそうですね」


 そして俺はこの後も2人と話をしながら馬車を進ませていたのだが、段々話をしてるうちに自分の考えのなさを感じてきた。

 やっぱり自分の力で来れる場所だからこその達成感みたいなものはあるし、俺は生産職の2人のためを思ってしたことが、結果として2人からゲームの楽しみを奪ってしまったのだと気付いたのだ。


 ただ、2人は俺に何か文句を言うわけでもないし、たぶん本人達は俺に楽しみを奪われたとは思ってないのだろう。


「……ガイルもメイちゃんもごめんね」

「ん? 突然どうしたんだよ」

「何でユーマさんが謝るんですか?」

「王都までの楽しみを俺が奪っちゃった気がして」

「そんなことねぇよ。そもそも俺とメイは王都に早く行きたかったからな」

「そうですよ! ユーマさんは何にも悪くありません!」


 俺が今回のことを2人に謝ると、そこからは俺は悪くないという話をずっとされた。

 王都まで行くのを手伝ってもらってるのは自分達の方だとか、自分達でモンスターを倒すならそもそもこのルートを選ばないだとか、わざわざ俺の時間を奪って王都に連れてってもらってることに感謝しかないだとか、もしまた俺が謝ったらそれ以上の言葉で感謝をするぞというような、そんな雰囲気を2人はずっと出している。


「そもそもこのクランが出来たのだって「分かったからガイル」」

「ユーマさんが言ったように王都に着いた後でまたアウロサリバから進めば良いだけ「メイちゃんもありがとう」」


 こうして俺達はしばらくこんなやり取りをしながら王都へと進んでいく。

 流石に何回も言われたら俺も気持ちを落としたままじゃ2人に申し訳ないと思い、途中からはいつも通りに戻ったと思う。


 そしてガイルとメイちゃんは俺が話さなくなった後もずっと色んな話をしていて、2人の時はいつもこんな感じなんだろうななんて思いながら、2人の会話に耳を傾けつつ進むのだった。




「あ、もしかしてあれが王都ですか!」

「そうだよ。結構時間かかってごめんね」

「ユーマが謝ることじゃないだろ。そもそも予定より到着は早いじゃねぇか」


 ガイルはそうフォローしてくれるが、やっぱり馬車で10時間程座り続けるというのは暇だったと思う。

 夜中に道端で野宿するよりはマシだけど、少し時間がかかってでも別ルートで行くべきだったか。

 そっちの方がガイル達の実力的な意味でも楽しい旅にな……これ以上はやめておこう。またガイルとメイちゃんにいろいろ言われてしまう。


「私は楽しかったですけど、ユーマさんは2回目ですもんね」

「まぁ俺が王都に行った時は野宿もしたから。前回に比べたら今回は王都まですぐだったよ」

「野宿も楽しそうです!」

「いや、野宿はお勧めしないよ。現実と違って寝れるわけじゃないから」

「ただ暗くて静かな空間で待つだけか?」

「まぁ大体そんな感じ。星が綺麗とか、モンスターが襲ってこないか不安だなぁとか、そういうのはすぐ消えたね。途中からはとにかく早く朝になってくれって、それだけ考えてた」


 話していると馬車は王都の門へと到着し、馬車の中を少し調べられてから王都の中へと通される。


「お、お城です!!」

「すげぇなぁ」


 俺が王都に来た時もこんな良い反応をしただろうか? なんて思いながら俺は待機所までゆっくりと馬車を進ませる。

 そしてしばらく感動しているガイルとメイちゃんをそのままにしていたが、馬車を返さないといけないので2人には待機所の前で降りてもらい、俺は馬にお礼を言って職員さんに馬車を返す。


「よし、2人ともお疲れ様。クリスタルに触ったらそこで解散にしよっか」

「あぁ、ありがとな」

「私は少し観光してからお姉ちゃんのお手伝いをします!」


 メイちゃんは王都が気に入ったのか、この後も少しここに残って色々見て回るそうだ。

 別に何か俺がしたわけではないけど、王都に連れてきた身としては少し嬉しい。


「あそこが王都のクリスタルだから」

「お城に入ってみたいです!」

「おいメイ、先にクリスタル触っとけよ」

「じゃあ2人ともまたね……って行っちゃった」


 俺は2人をクリスタルまで案内したのだが、メイちゃんは王都に来てから興奮しっぱなしで、あの様子だとこの後もガイルがメイちゃんの面倒を見ることになるのだろう。


「メイちゃんはガイルに任せて、俺達もちょっとだけ王都を見て回るか」

「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」


 しっかりと王都を見て回ったことはまだないし、俺もメイちゃん程ではないけどお城には興味がある。

 魔獣ギルドで見た薄い桃色のマントを付けたワイバーン部隊もそうだけど、色々面白そうな事が王都では待っていそうなので、探索はしたいと思ってたのだ。


「クゥ!」

「お、どうした?」


 ウルの声に反応してそちらを見てみると、丁度今考えていたワイバーン部隊が俺達の真上を飛んでいた。


「おぉ、凄いなぁ。……うん、凄いんだけど、真上を飛ばれるのはちょっと怖いかも?」


 飛行機みたいに大きな音が出ているわけでもないが、上を飛ばれるとどうしても何か落ちてこないか少し心配になるのだ。


 ただ、周りを見ても俺みたいな人は1人もいないので、ここでは俺の感覚がズレているらしい。

 よし、郷に入ったならなんとやらってやつだ。俺もここの人達と同じようにこの環境に慣れるしかない。


「逃げてーーーーーー!!!!」

「え!?」


 と、自分の中でそんな決意を固めた直後、上から声が聞こえたかと思えば、ワイバーンと1人の騎士が俺達に向かって落ちてきていた。


「っ、エメラ頼む!!」

「……!」

「コン!」


 エメラは植物魔法を使い、ワイバーンと騎士がこの勢いのまま地面に激突しないよう、ネットのような衝撃を吸収してくれるものを作る。

 そしてシロも自分の判断で、エメラの樹魔法で作られたネットの下に水の塊を浮かばせた。


 数秒も経たず上から落ちてきたワイバーンと騎士は、エメラの樹魔法で勢いをある程度吸収したはいいものの、急造のネットだったので壊れてしまう。

 だが、下にはまだシロが浮かばせている水のクッションがあり、何とか地面に落ちることなく受け止めることが出来た。

 ただ、このままだと息ができないので、シロの水魔法で受け止めたあとはすぐ地面に下ろし、水魔法からワイバーンと騎士を解放すると、どちらも息はあり生きていた。


「良かった。エメラもシロもありがとう。もちろんウルもルリもな」

「……!」「コン!」「クゥ!」「アウ!」


 俺は咄嗟に名前を呼んだだけだったが、エメラもシロも一瞬で俺の意図を汲み取ってくれたのはありがたい。

 そしてウルはエメラの樹魔法を支えるために、ネットの支柱となる部分を氷魔法で固めてくれたし、ルリは落ちてきた騎士を下で受け止める気だったのか、落下地点で待機していた。

 ワイバーンは水魔法が無くても大丈夫だったろうけど、騎士の方は水魔法がなければルリが活躍してたかもしれないな……たぶん。


「大丈夫でしたか!!」


 上から1体のワイバーンと、今倒れている騎士よりも豪華な鎧を着た赤いマントの騎士が降りてきた。


「俺達は大丈夫ですし、こっちもたぶん大丈夫です。ワイバーンもこの騎士の方も息はありますから」

「そうですか……本当にありがとうございました。そして申し訳ありません!!!」


 こういうのはあまり分からないが、たぶん位の高そうなこの騎士が俺みたいなのに頭を下げるのは良くないのでないだろうか?

 周りには野次馬も含めて相当な人数が今回の事故を見に来てるし、そんな大勢の目がある中で謝罪なんてして良いような人ではない気がする。


 いや、プレイヤーだから良いのかな? 俺達はプレイヤー様と呼ばれるくらいだし……いや、たぶんこれも違うな。なんか色んなゲームをやり過ぎて感覚がおかしくなってたけど、そもそも謝罪するのが当たり前だよな。


 こういう立場の偉い人は大体プライドが高いパターンが多くて、失礼な態度をとってくるのが普通の感覚になってた。

 コネファンだとそういう人はほとんど居なかったのに、急にこういう事が起こると無意識に身構えてしまう。


「俺達は全然大丈夫なので、早くそのワイバーンと騎士の方を病院へ、じゃなくて教会とかお城とかに連れて行ってあげてください」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 いつの間にかやってきていた大勢の騎士達が、意識のない騎士を担架に乗せて連れて行ったり、ワイバーンも皆で運ぶために大きな板の上に乗せようと動いていた。


「なんか邪魔になりそうだし離れるか」


 待っていてくれとも言われなかったし、ここに居る騎士は全員ワイバーンを持ち上げることに必死で、何人かここに居る人達が手伝おうとしても断っていたため、俺達は静かにその場から離れるのだった。




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― 新着の感想 ―
感謝するのに上下関係ないね 感謝をしない者はドラゴンに蹴られても仕方ない
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