第175話
「じゃあガイル達は王都までどう進みたい?」
「俺は最短距離でいいと思うが、メイはどうだ?」
「私は色んな街を通っていくのが楽しそうに思いますけど、それだと時間がかかりますもんね」
現実でご飯を食べるなどして準備を整えた俺達は、クランハウスの中で王都に行くルートを考えていた。
「ユーマもそっちのルートでは行ってないんだよな?」
「最短ルートしか通ってないね」
「じゃあ最短ルートで行きましょう! 他の街が気になったら今度自分で行けばいいですから」
ということで、今回もまたあの長い道を進むことになった。
「でも本当に10時間くらいで行けるのか?」
「確かにそれは気になります。最低でも王都まで丸1日はかかるって聞きましたけど……」
「まあそこは任せて」
「俺もメイもずっと走るのは無理だからな?」
「ユ、ユーマさんがやれって言うなら頑張ります!」
「いや、2人にそんなことさせないから」
俺が居ない間に腹ぺこさんからおやつをもらったらしいウル達を呼んで、皆でアウロサリバの待機所までクリスタルで移動する。
「じゃあ2人とも外で待っててね」
「あぁ」
「分かりました」
俺は待機所の中に入り、前と同じように馬車を借りる。
「前に借りた馬車は王都に返しましたけど、またここで借りても良いんですよね?」
「はい、問題ありません」
「じゃあ使わせていただきますね」
俺は馬車を借り、先に掛け布団と枕をインベントリから出してルリ達に渡してから外に出る。
「あぁ、馬車に乗るのか」
「楽しそうです!」
「これなら半分くらいの時間で行けるから」
ガイルとメイちゃんを乗せた後は、ウルには前と同様馬車の前を走ってもらう。
「俺達とはもう冒険の仕方から違うんだな」
「こんなの絶対に私達には追い付けないです」
「いや、馬車は俺も最近借りられるようになったし、商人ギルドの貢献度によっては誰でも借りれるっぽいよ」
「それが無理だって話だ」
「なぜユーマさんが商人ギルドの貢献度が高いのかも謎です」
本当にたまたま馬車が使えるようになっただけで、狙って馬車を手に入れたわけではないんだけどなぁ。
「てことで、ここからは結構暇な時間が続くかも」
「私は馬車から景色を眺めてるだけでも楽しいです!」
「俺も暇って感じはしねぇな」
2人とも馬車の旅を気に入ってくれてるようだ。
俺としては飽きたって程ではないけど、前回と同じルートだからそこまで興奮するような感じではない。
「ま、ガイル達が落ち着いてきたら色々話すか」
俺は後ろで興奮しっぱなしのメイちゃんと、何度もメイちゃんの言葉に頷きながら一緒に景色を楽しんでいるガイルが落ち着くのを待つのだった。
「そろそろ慣れてきた?」
「まぁしばらく景色が変わらねぇからな」
「それでも私は楽しいですよ!」
「まぁまだまだ時間はあるし、ここら辺で一旦クランの話をしておかない?」
「まぁそれは良いが、何かクランのことで話すことあったか?」
「私からは今のところ特に無いですけど」
2人とも優秀なようで、特に困っていることはないらしい。
俺も正直そこまで困ってることはないというか、そもそもクランのことはガイルに任せっきりな部分が多いというか……
「俺から言っておいてあれだけど、確かに話すことはないかな?」
俺は少しクランのことについて2人と話さなければならないことがないか考えていると、さっきガイルと俺でとおるさん達に注意した話をメイちゃんにもしようと思った。
「そうだ。さっきコネファンを起動する前に、とおるさんとかの配信をチラッと見たんだよね」
「あ、その話は私も聞きました! プレイヤーの中では結構噂になってますよ?」
「え、う、噂?」
「俺がルールにうるさい奴って言われてんじゃねぇか?」
ガイルは少し気分を落としているが、メイちゃんの口から出てくる内容は、俺もガイルも予想しないものだった。
「『幸福なる種族』は可愛い人でも人気配信者でも、ルールを徹底させる厳しいクランだって」
「えぇ、その情報はどこから?」
「元気がないとおるさんとともるさんが、配信を付けてずっとルールを破ったことについて反省してるっていうのが広まってるそうです」
「えぇぇ」
これまでのコネファンではこんなこと考えられなかった。
まずコネファンをプレイ出来る人達は、コネファンをプレイしている配信者のライブ配信を見たりすることがほぼ無かったため、他の人の情報は自分がゲームを遊び終わって寝るまでの少ない時間だったり、朝起きてコネファンを起動するまでに少し見るくらいだったはずだ。
ただ、第2陣のプレイヤー達は自分のプレイ時間を削ってでも動画や配信を見るという選択を取る人が多いらしい。
それは最初からコネファンを遊んでいるプレイヤー達に追いつくため、効率良くレベルを上げるための動画や、ボスの倒し方が解説されている動画等を見るためというのが理由だとか。
そしてそんな人達が、たまたまこの時間にしていたとおるさん達の配信をチラッと開いてみると、反省の言葉がずっと続いていて、それが今プレイヤー達へと急速に広がっているらしい。
「俺が配信を見た時は雰囲気が悪そうな感じじゃなかったけど」
「まぁこういう噂みたいなもんは色々曲がって伝わってくからな」
「もちろんクランメンバーの私達はそんなルールに厳しいクランじゃないって分かってますけど、外から見ると少し怖いかもしれないですね」
まぁ勝手に怖がられる分には良いか。丁度このクランに居る配信者目当てで加入を希望してくるプレイヤーも多かったことだし。
「あ、怖いってので思い出したが、うちの攻略パーティー居るだろ」
「サキさんのパーティー?」
「お姉ちゃんがどうしたんですか?」
「攻略パーティーとしてうちで頑張ってるとは思うんだけどよ、全然俺達生産職の方に話が来ねぇなとは思う」
ガイルが言うには、攻略パーティーならもっと装備を用意しろだのポーションを用意しろだの色々言ってくるはずなのに、それがサキさんには全くと言っていい程無いそうだ。
「たまにポーションは私が作って渡してますけど」
「そんなんじゃ普通のパーティーと変わらねぇだろ。攻略パーティーってのはクランの顔になるパーティーだ。そんないくつかポーション渡すだけで攻略出来るんだったら、クランに入ってなくても誰でも攻略パーティーなんて名乗れる」
それはそうだ。攻略パーティーとは必要な物資を他のメンバーに整えてもらって、自分達はレベルを上げてボスや新しい敵を倒すことが求められる。
そうして切り開いた場所に仲間を連れて行き、また自分達は新しい場所を切り開くために強くなるという繰り返しのはずだ。
「これは俺が言い過ぎたなぁ。釘を刺し過ぎた」
攻略パーティーのためにこのクランがあるわけではないと、そうサキさんに俺が言ってしまったのが悪い方向に働いてしまったのだろう。
メイちゃんからポーションが渡されているとはいえ、このままだとサキさん達は攻略パーティーとは名ばかりの、ただ頑張って最前線に追いつくため急いでるパーティーでしかない。
「王都に着いたら幸福なる種族の生産職メンバーに、サキさん達攻略パーティーのバックアップをお願いしよっか。ガイルとメイちゃんはそれを手伝っても良いし、今後のために王都を色々回ってみても良いよ」
「俺は装備装飾品だけ作ってから王都は見て回ることにする。今1番の装備は着せてやらねぇと」
「私もそうします!」
サキさんは実の妹であるメイちゃんにすらポーションをあまり貰いに来ることが無かったらしく、いつもメイちゃんに会いに来る時は少し雑談して終わりのことが多かったらしい。
まぁサキさんはメイちゃんと一緒に遊べるというのが1番の理由でこのクランに入ったわけだし、ポーションを作って欲しいとメイちゃんに頼みづらかったとかそういうことではないだろう。
たぶん俺がサキさんに、何かクランメンバーに頼み事をする時はうちが攻略クランじゃないことを考えて十分気を付けるように、と言ったことが余計だったんだと思う。
「サキさんも喜ぶだろうし、メイちゃんから攻略パーティーへ提供する物資の話はしてもらおうかな? お願いして良い?」
「はい! お姉ちゃんには私から連絡しますね!」
「俺の方で聞いて欲しいことは全部書き出すから、それを聞いてくれ」
効率だけを考えたらガイルがサキさんとやり取りするのが1番だろうけど、メイちゃんもやる気満々だし、ガイルもメイちゃんをサポートする気なので、これで良いだろう。
「攻略パーティーはそんな感じで。他にクランのことで話すことあるかな?」
俺達は街を出た時とは全く違い、ガイルとメイちゃんは外の景色を見ることなく、目を瞑りながらクランのことを考えるのであった。